劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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先輩と後輩に十師族次期当主がいるんですよね


二人の中の評価

 魔法大学の最寄り駅で待ち合わせをしたあずさと服部は、個型電車で四葉の新居に向かっていた。狭い車内で二人きりというシチュエーションに下種の勘繰りをしたくなる輩がいたかもしれないが、二人は付き合っているわけでもないので、特に意識したりしていない。

 

「まさかこんな形で四葉の屋敷を訪ねる事になるとは思っていなかった」

 

「四葉の屋敷って言っても、あの家は司波君たちが生活してるだけだからそこまで緊張しなくても良いんじゃないかな? いきなりご当主様が出てくる、なんてことはないだろうし」

 

「そもそもそんな展開があり得るのなら、壬生だって簡単に誘ったりはしないだろう」

 

「そうだね」

 

 

 あずさは男子と二人きりという事に気付いているが、服部の方は特に意識した様子はない。だからではないが、あずさも必要以上に緊張したり、声が上ずったりすることもなく話せている。元々服部と二人きりになったとしても緊張するわけではないので、あずさの方も服部が意識していないと分かると自然に肩の力が抜けたのだ。

 特に何も無いまま新居の最寄り駅に到着し、二人はどちらともなく歩き出し新居を目指す。あまりの自然さにすれ違った人がカップルだと勘違いしたのだが、その事に二人は気づかなかった。

 

「二日目の競技は確か、クラウド・ボールとアイス・ピラーズ・ブレイクだったな」

 

「クラウド・ボールには真由美さんの妹である香澄さんと泉美さんが、ピラーズ・ブレイクには北山さんと吉田君が参加するはずだよ」

 

「あの二人か……」

 

「服部君?」

 

 

 あの二人が入学してくる前に、服部はあの二人の存在を知っていた。七草家は他の家と違い構成を調べやすいので知っていても不思議ではないのだが、そう言った理由で知っていたわけではない。

 香澄と泉美の二人は、真由美に言い寄る男を裏で調べていて、服部もその対象の一人だったのだ。直接会ったわけではないが、服部は二人に苦手意識を持っているのだ。

 

「それにしても、今年は九校戦は開催されないと言われていたのに、随分な盛り上がりなようだな」

 

「そうだね」

 

 

 急な話題変更にも拘わらず、あずさは服部に訝し気な視線などは向けずに応える。さっきまでの話題が服部にとって気分のいいものではない物だったと理解し、その事で服部の事をからかおうとする、なんて考えはあずさの中にはないのだ。

 

「司波君のエンジニアとしての無敗記録も注目されてるけど、やっぱり選手としての司波君の活躍を見たいって人も多いと思うし」

 

「四葉家次期当主として初めての参加、というわけか」

 

「司波君は何も変わってないって言うだろうけどね」

 

 

 約二年、あずさも達也の事を近くで見てきたので、彼の性格はある程度理解していた。服部も達也の為人はある程度理解しているので、あずさの言葉に肩を竦めるだけだった。

 

「アイツが肩書などで委縮するとは思えん。十文字先輩相手でも堂々と物を言えるヤツだからな」

 

「確かに、十文字先輩の前だと少し緊張するよね」

 

「中条の場合は、お前が小さいって言うのも原因じゃないのか?」

 

「酷い! 気にしてるのに」

 

 

 そう言ってあずさは自分の胸に視線を落とし、それに気づいた服部が慌てて否定する。

 

「俺は背の話をしてるんだ! お前は何処の話だと思ったんだよ!」

 

「も、もちろん身長の話だって分かってるよ!? 勘違いなんてしてないから!」

 

 

 慌てて否定すれば、それだけ疑われる展開になるという事は分かっていたが、あずさは慌てて否定しなければいけないという衝動に駆られ、真っ赤な顔で否定した。

 

「と、とにかくあの人を相手にしても堂々と物事を言える司波の事だ。周りに注目されていようが関係ないと思っているだろう」

 

「そうだよね。司波君ならその程度で実力を発揮出来ない、なんてことはないだろうしね」

 

「中条としては、選手としての司波よりもエンジニアとしての司波の方が気になってるんじゃないのか? 確かお前はトーラス・シルバーのファンだったろ?」

 

「うん。何度かそうなんじゃないかって思った事もあったし、私の中では司波君=トーラス・シルバーだって思ってたからそれ程驚かなかったけど、でもやっぱりはっきりとした時は驚いたよ。まさか憧れのシルバー様が本当に高校の後輩だっただなんて」

 

「他校が文句を言っていたようだが、九校戦の出場条件は『魔法科高校の生徒である事』だからな。司波は間違いなく一高の生徒であり、参加条件は満たしている」

 

「そもそもそんな事を言い出したら、三高の吉祥寺君だって問題になると思うんだよね。カーディナル・ジョージの名前は、トーラス・シルバー程ではないにしても有名だし」

 

「とにかく周りが何を言っていたとしても、司波の精神を乱せるとは思えん。アイツは常に周りに無関心を貫いていたからな」

 

「そんな事ないと思うけど」

 

 

 確かに達也は基本的に他人に興味はない。その事はあずさも分かっているが、無関心だったかどうかと聞かれれば首を傾げてしまう。あずさ自身何度か達也に助けてもらった覚えがあるし、達也が周りの人間を救ったところも何度も見てきたからだが、その事を服部に言う事はしなかった。

 服部の方もあずさが何かを言いたげな表情をしていると気が付いていたが、それを自分から問いただす事はせずに、二人は四葉の新居に到着したのだった。




カーディナルさんも問題にすべき

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