劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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作中一でしょうし……


性格の悪さ

 その後もいろいろと話しながら観戦し、母校の活躍に盛り上がったところで、新居に誰か入ってきた事に気が付いた。

 

「誰か来た?」

 

「でもこの家ってIDが無いと入れないんじゃないの?」

 

「IDを持ってる誰かが帰ってきたってことじゃない」

 

「でも殆ど出払ってるはずだけど……」

 

 

 誰が帰ってきたのかが分からないメンバーは、この中で唯一屋敷内のシステムを使える紗耶香を見る。一斉に視線を集めた事で少し動揺したが、紗耶香は冷静にモニターを操作し門を開けた人間を調べる。

 

「あっ、平河先輩が帰ってきたみたい」

 

「平河先輩は、こっちに残ってたんだ」

 

「大学の方の合宿に参加してたらしいよ」

 

 

 紗耶香の説明で、とりあえず警戒を解いたメンバー。そして小春が顔を出してきたので、全員で挨拶をする事になった。

 

「お久しぶりです、平河先輩」

 

「中条さん? それに服部君に五十里君たちまで……どうしたの?」

 

「久しぶりに集まって九校戦を観戦しようって事になったんですけど、このメンバー全員が集まっても問題ない場所がここしかなかったんです」

 

「確かに結構な大所帯だもんね。達也さんの許可は貰ってるなら良いんじゃないかな」

 

「そもそも私一人だったら、来客用のIDを発行出来ませんよ」

 

 

 元々機械操作が得意ではない紗耶香の言葉に、小春は軽く笑みを浮かべて頷く。紗耶香よりそういった作業に慣れている小春ですら、ここのセキュリティを弄る自信はない。それなのに来客用のIDが発行されているという事は即ち、達也が許可したからに他ならないのだ。

 

「それで、今日の試合はどうだったの?」

 

「女子クラウド・ボールが盛り上がりましたね。七草の双子が、三高の一色選手を二人一殺で倒しました」

 

「あの子の実力なら普通に考えれば優勝間違いなしだったのに、さすがに十師族の直系を二人相手にするのは厳しかったのかもね」

 

「たぶん、司波君の考えだと思います。一人一人では一色さんに勝つのは難しいので、二人の力を合わせて倒しにいったのかと」

 

「達也さんにしたらかなりリスクのある賭けな気もするけど、性格の悪さを考えればそうでしょうね。二年生の桜井さんの考えという線も捨てきれないけど、あの子も達也さんの関係者なわけだし、達也さんにアドバイスを求めていたとしても不思議ではないわ」

 

「平河先輩、司波君の婚約者なんですよね? 随分と容赦のない感じですけど、良いんですか?」

 

 

 花音の疑問に、小春は苦笑する。確かに婚約者の自分がこのような評価をしていると知れば、あまり良い顔はされないかもしれない。だが達也がその程度の事で婚約を解消するわけがないと信じているのに加え、少なからず全員が思っている事だという思いもあった。

 それは花音や他のメンバーも思っていた事なので、花音以外はツッコミを入れる事はしなかったのだが、こういうところが花音の良いところでもあり悪いところだと、許嫁である五十里は苦笑いを浮かべながら花音を見守っていた。

 

「本人に聞かれてるわけじゃないし、少なからず達也さんも自分で分かってる事だから気にしないわよ、きっと」

 

「まぁ、司波君の性格の悪さはあたしも知ってますし、そこから出てくる作戦は凄いと思いますけどね。でも敵からしてみればたまったものじゃないでしょう。自分が立てた作戦を何処かで聞かれてたのではないかと思うくらい、相手の裏をかく作戦を立てるわけですし」

 

「自分ならこうする、という考えから、それに対処するならどう動くのが一番かを考えているだけだと思うわよ。まぁ、達也さんほど性格の悪い考えをする人はいないでしょうから、達也さんの裏をかこうとしても失敗するだけなんだけど」

 

「それは僕も思いました。去年のアイス・ピラーズ・ブレイク決勝。三高の吉祥寺君が考えた作戦は、司波君が想定していたのとまったく同じでしたから」

 

「あぁ、あの氷柱を浮かせて攻撃を避けるってやつ?」

 

 

 吉祥寺が考えて実行してきた奇策を思い出し、花音が五十里に確認すると、五十里も満足そうにうなずいてみせた。五十里としてはそんなことしてくるのだろうかと少なからず疑ったが、状況が不利になると三高の選手は氷柱を浮かせてこちらの攻撃を凌ごうとしたのだ。

 事前に達也からそのような可能性があると聞かされていなければ、動揺して逆転を許したかもしれないが、当事者だった花音はその事を五十里を介して聞かされていたので、動揺することなく対処し勝利を収めた。

 

「あれって啓が見抜いたんじゃないの?」

 

「僕にはあんな考え方は出来ないよ。それに、あんな奇策を思いつくのはそれなりに実戦経験がある人物じゃなきゃ無理だよ。実際、ウチ以外の学校の選手たちは衝撃を受けていたし、作戦スタッフたちはあんな作戦があるのかと目を丸くしていたらしいしね」

 

「それだけ司波君が相手の裏をかく事に長けているのだろうな。やはり一度くらい対戦してみたいものだな」

 

「……今の会話でそんな感想が出てくるのは沢木君くらいだと思うよ」

 

 

 さすがの五十里も、沢木のズレた感想に顔を引きつらせ、そういうのが精一杯だった。五十里のそんな表情をあまり見た事がない花音は、心配そうに五十里を見詰め、そして沢木に鋭い視線を向けたのだが、沢木にはあまり効果が無かったのだった。




達也以上の性悪はいるのか……?

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