二人一緒に部屋から共用スペースにやってきた五十里と花音は、服部とあずさの様子がおかしい事に気が付き、桐原が白々しく口笛を吹いている事に首を傾げた。
「何かあったのかい?」
「桐原君が二人をからかったみたいんだんけど、私も詳しい事は分からないのよ」
「まぁ桐原君が中条さんたちをからかうのは結構何時も通りだし、気にしなくても良いんじゃない? それより、そろそろ試合が始まる時間だし、テレビ観ようよ」
自分たちが同室になった事が原因だと思っていない花音は、五十里の腕を引っ張ってソファに腰を下ろす。そんな二人を見て腹を立てている事がバカらしく思えたのか、服部も二人とは逆側のソファに腰を下ろした。
「別に場所は決まってないから、好きに座っていいわよ」
「あっ、ところで壬生さん。平河先輩はどちらに? ご挨拶をしておきたかったんだけど」
「平河先輩なら、今日も大学に行ってるはずだけど。お昼過ぎには帰ってくるって言ってたから、挨拶はその時で良いんじゃない?」
「そうなんだ」
一晩とはいえお世話になるからとお菓子を持ってきたあずさだったが、相手がいないのなら仕方ないと、服部と同じ側のソファに腰を下ろす。特に深い意味はなく、ただたんに花音たちのイチャイチャに巻き込まれないようにと思っただけなのだが、桐原と三十野が意味ありげな視線をあずさに向けてきた。
「な、なんですか?」
「いや、中条があまりにも自然に服部の隣に腰を下ろしたからよ」
「隣という程近くはないんじゃないか?」
「沢木……お前ももう少し異性に興味を持った方がいいと思うぜ?」
確かに沢木の言う通り、隣と表現するには間が空き過ぎているのだが、桐原が言いたかったのはそういう事ではない。それは沢木以外の全員が理解している事だが、彼のお陰で服部もあずさも恥ずかしい思いをせずに済んだので、二人からは何も言うつもりは無かった。
「ま、まぁ中条さんたちが気にしてないのなら、私たちがとやかく言う事もないんじゃない? それよりも本当に試合が始まっちゃうわよ」
「そ、そうだな。俺たちも座ろうぜ」
からかいが不発に終わったので、桐原・三十野カップルもソファに隣同士で腰を落ち着かせる。それに倣うように沢木と紗耶香もソファに腰掛け、それぞれの前にお茶が置かれた。
「ここまで司波君が担当した選手は事実上の無敗。ミラージ・バットでは司波さんと光井さんを担当していて、モノリス・コードでは選手全員を担当か。この二日間勝ち切れば司波君は高校三年間で担当した選手が無敗という前人未到の記録を達成するわけか」
「一年の時、彼が選出された時は実力を疑っちゃったけど、彼の技術力は本物だったわ。後で『トーラス・シルバーの片割れ』だったって分かった時は、驚きと同時に納得しちゃったくらいに」
「中条は司波君がトーラス・シルバーなんじゃないかって疑ってたんだろ? どの辺りで気づいたんだ?」
「えっと……一昨年の九校戦の時に、新人戦ミラージ・バットで光井さんと里見さんの起動式を見て、他校のエンジニアが『まるでトーラス・シルバーじゃないか』って呟きが耳に入った時、まるでじゃなくて『本人じゃなきゃ出来ないんじゃないか』って思って、そう考えると『インフェルノ』、『フォノン・メーザー』、『ニブルヘイム』と言った起動式が公開されていない魔法をインストールするのも、飛行魔法を当たり前のように深雪さんの切り札として用意してたのにも納得が出来たんだよね」
「そうだったのか」
あずさの説明に、沢木がしきりに頷いているが、服部は何か言いたげな目を沢木に向けていた。
「どうかしたのか?」
「中条の説明で納得してる風を装っているが、お前はあまり気にしていなかったんじゃないかと思ってな」
「まぁ、司波君がどんな肩書だろうが関係ないからな。彼は凄腕のエンジニアで、間違いなく俺よりも強い魔法師だ。それだけ分かっていればいいだろ?」
「お前はそういうやつだったな……」
「後輩が世界的なエンジニアだったなんて驚いたが、事情があって隠していたわけだろ? 彼が四葉の御曹司だって発表された時もそうだが、彼は理由なく隠し事をするようなタイプではないと思うのだが。彼が話さないという事は、話す必要がない事なのか、事情があって話せないかのどちらかだと俺は思っている」
「沢木君はそうやって考えられるから良いのかもしれないけど、普通はそれだけじゃ済まないと思うよ? 四葉家の次期当主だって事も、トーラス・シルバーの片割れだって事も、世間に与えるインパクトは並みでは済まないし」
「実際、暫くはテレビの話題はその事で持ち切りだったもんね。まぁ、トーラス・シルバーの方はUSNAが余計な事をして知られちゃったわけで、彼としては不本意だっただろうけども」
「うん。達也さんとしては高校を卒業するまで発表するつもりは無かったみたいだし」
「それが半年以上前倒しになったわけか……だが、あのプロジェクトは素直に凄いと思う」
「それは僕もだよ。少なくとも僕にはあんなことは考えつかないし、それを実行出来るだけのコネもないしね」
ESCAPES計画の事で五十里と服部が意見を交わそうとしたタイミングで、深雪の試合が開始になり、お喋りはここで一時中断となった。
あまり深く考えてないとも言えるな……