劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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頼り甲斐があり過ぎるのも問題か?


安心感

 深雪、ほのか、泉美の三人のミラージ・バットの試合も釘付けになるほど集中して観ていたメンバーだが、達也たちの試合を観て思わず肩に力が入った。それくらい達也から放たれている殺気が強かったのだ。

 

「相手選手はこの殺気に気付いていないだろうな……」

 

「実戦経験が無いと分からないだろうさ」

 

「そもそも学生が実戦を経験出来る機会なんてそんなに多くないだろう」

 

「僕たちは偶々襲われた事があったりするから分かるけども、普通の魔法科高校生にそれを求めるのは難しいと思うよ」

 

「というか、司波君の殺気は近くで浴びたら失神するんじゃないの?」

 

 

 花音の言葉に、服部と桐原は苦笑いを浮かべ、沢木は納得したように頷き、五十里は想像したのか顔が引きつり始めた。

 

「あの時はまだ本気じゃなかったんだろうけど、司波兄の殺気はかなりヤバいぜ……コートを何重にも着込んでるような、そんな濃い殺気だったしよ……」

 

「二年前の校内テロ事件の首謀者を捕まえた時の話か……そういえばそんな事を言ってたな」

 

「あの時の詳細は、十文字家が介入した所為で一般生徒には情報が流れてこなかったんだが、実際はどうやって幕引きになったんだ?」

 

「司波兄主導でテロリストたちのアジトに乗り込み、殆ど一人で壊滅させたんだよ」

 

「その時から司波君は規格外だったわけだな」

 

 

 相変わらずズレた反応を見せる沢木を他所に、花音と三十野、そしてあずさは驚きを隠せずにいた。テロリストを一人で壊滅させたなど、簡単に信じられる話ではない。

 

「実際に倒したところを見たわけじゃねぇから何とも言えないが、間違いなく司波兄は十人以上を相手にして無傷で立ってたぜ。リーダーの事も興味なさげに『ソレ』とか言ってたしよ」

 

「アイツが他人に興味が無いのは知っているが、敵のトップに興味が無いってどういう状況だよ」

 

「あのテロリストたちがキャスト・ジャミングを使って来ていたのは知ってるだろ? 壬生もアンティ・ナイトの指輪を持たされていたんだし」

 

「えぇ」

 

 

 あの時の紗耶香は、自分の事を正しく評価されていないと思いこまされ、テロの片棒を担がされていた。それはテロリストに洗脳されていたからなのだが、紗耶香は今更ながらその事を恥ずかしいと思い視線を逸らす。

 

「キャスト・ジャミングを使えば魔法は使えない。銃火器を持っている自分たちが圧倒的有利だと思い込んでいたんじゃねぇかと思うんだが、実際はどうかは分からない。だがそんな中でも司波兄はテロリストを一人残らず戦闘不能にし、高笑いをしていたリーダーが怯え始めたところに俺が斬り込んだんだ。その時の司波兄の眼……路傍の石にでも向けてるような感じだったぜ」

 

「その感じは何となく想像出来るな……」

 

 

 達也が冷たい目をテロリストに向けている光景を想像し、服部が思わず納得してしまう。その横では五十里も何度も頷いているので、彼も容易に想像できたのだろうと桐原も一つ頷いて見せた。

 

「兎に角アイツの殺気はヤベェ」

 

「それだけの実戦経験があり、敵を倒す事に躊躇いを持っていないという事だろうな……」

 

「詳しい事は分からないが、横浜事変の時も司波君が活躍していたんだろ?」

 

「そういえばあの時、僕は死んだんじゃないかって思ったけど、司波君のお陰で助かったんだよね」

 

「あぁ……俺も脚が吹っ飛んだからな」

 

 

 当時の事を思い出し、桐原は視線を自分の脚に向け、五十里は刺さっていない事になっているはずの背中に幻痛を覚えた。

 

「あの時は本当に心配したんだから! このまま啓が死んじゃったらどうしようって怖かったのを覚えてる。でも司波君が来てすぐに啓は意識を取り戻したんだよね」

 

「あの後深雪さんから聞かされた説明……改めて司波君の規格外さを思い知らされたわよね」

 

 

 服部と沢木、そしてあずさはその場にいなかったので深雪からの説明を聞いていないが、達也が規格外であるという事は理解しているのでその事を深く聞こうとはしなかった。

 

「まぁこの試合は、司波兄だけじゃなく吉田と七宝も活躍してるんだし、決勝リーグ進出は堅いだろうな」

 

「そうだね。昨日までの結果で、司波さんたちがミラージ・バットで三位以上に入れば一高の総合優勝が決まるわけだし、司波君たちもある程度気楽に挑めているのが大きいんじゃないかな」

 

「そんな事が無くても司波君がプレッシャーに押しつぶされるような事は無いと思うがな」

 

「だが吉田は何かと心配性だからな。自分たちに優勝の行方が託されるという場面になった場合、十分に実力を発揮で来たかどうか分からないぞ」

 

「司波君がいる事で少しは気が楽になってるんじゃないの? 風紀委員として一緒に活動してたけど、結構冷静な判断を出来る子だったし、司波君の安心感はアンタたちだって知ってるでしょ?」

 

「確かに、司波君がいてくれたら何とかなるって思えますよね」

 

 

 風紀委員長として数ヶ月、生徒会長として半年頼りにしていた相手なので、花音とあずさの言葉にはかなりの説得力があった。それを素直に受け入れるのもどうなのかと感じたが、二人が特に気にしていないので服部はツッコむことはせずに流したのだった。




頼り過ぎて裏切られたら大変だし……

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