劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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他に考えつかないしな……


考えつく敗因

 小春の部屋から共用スペースに戻ってきたあずさと服部は、午後の試合に向けて盛り上がっている桐原と三十野を見て同時にため息を吐いた。

 

「何だ、平河先輩の部屋で何かあったのか?」

 

「いや、お前らは能天気で羨ましいと思っただけだ」

 

「褒めてねぇし、ため息吐く意味が分からねぇよ!」

 

「そうよ! 桐原君だけなら兎も角、何で私まで能天気って思われなきゃいけないのよ!」

 

「俺は良いのかよ!」

 

 

 桐原の援護射撃をすると見せかけて、あっさりと裏切った三十野に、桐原は矛先を服部から三十野へと変える。

 

「三十野だって大概能天気だろうが! この間なんて、考え事をしながら料理した所為で、砂糖と塩を間違えるなんて定番を演じてただろ!」

 

「桐原君は、歯磨き粉で顔を洗ってたじゃない!」

 

「それは能天気というより、ドジって言うんじゃないか?」

 

「「なにっ!?」」

 

 

 二人の言い争いを聞いていた沢木が、あずさが言いたかったツッコミを代わりに入れる。ただ沢木にはあずさを助けたという考えはない。ただただ自分が思った事を二人に言っただけである。

 

「調味料を入れ間違えるのも、洗顔クリームと歯磨き粉を間違えるのも、能天気じゃなくてドジ、もしくはうっかりって言うんだと思うが」

 

「確かにそうよね……啓はそんな事しないけど、本当にそんな事をする人がいるなんて思ってなかったわ」

 

「いや花音……この前アイスティーだと思ってたお茶がホットだったんじゃなかったっけ?」

 

「それは内緒だって言ったじゃない!」

 

 

 どうやら花音も似たようなミスを犯していたようで、彼女の顔はみるみる赤くなっていく。何となく話題を変えなくてはいけないような気がした服部は、丁度テレビに映った光宣の話題をふる。

 

「この九島光宣というのは、老師のお孫さんだろ? 去年の新人戦には出場していなかったから、今年も出場しないと思っていたんだがな」

 

「身体が弱いんですよね。もう良くなられたんでしょうか」

 

 

 服部の話題にあずさが真っ先に反応し、他のメンバーもそっちの話題に興味を示す。達也の相手というだけでなく、光宣の容姿や午前の試合での戦い方など、興味を引く相手だったの幸いしたのだろう。

 

「司波君ほどではないけど、彼もかなりの実力者だろう。俺と服部が同時に挑んでも厳しいかもしれない」

 

「去年の二高論文コンペ優勝の立役者だから、技術力は高いのは知っていたけど、これだけの実力なら選手として参加するのも納得出来るね」

 

「啓程ではないけどね」

 

 

 どうしても五十里の方が凄いと言わなければ気が済まないのか、花音が張り合うように言葉を挿み込む。婚約者にそう言われても、五十里は苦笑するだけで何も言わない。エンジニアとしてなら兎も角、研究者と考えた場合、光宣は自分よりはるかに優れた才能を持っていると思っているからである。

 そんな五十里の気持ちが分かったのか、花音もそれ以上五十里を褒めるような事は言わず、ただただ黙ってテレビに映る光宣を見詰めている。

 

「どうやら司波君をライバル視しているのは、三高の一条選手たちだけではないようだな」

 

「どういう事だ?」

 

「二高の九島選手もだが、四高の黒羽選手なんかも司波君に注目しているようだ」

 

「何でそんなことが分かるんだ?」

 

「いや、チラッと画面に映った黒羽選手の眼が、他の選手に向けているそれとは違ったから、恐らく司波君の事を警戒しているのだろうと思っただけだ」

 

「まぁ、司波兄を倒さないと優勝なんてありえないだろうから、警戒するのは当然だとは思うが、黒羽ってあの女みたいな顔したヤツだろ? 去年の新人戦モノリス・コードでうちの一年たちを倒した」

 

「見た目に惑わされては駄目だ。彼は去年の新人戦に参加していた選手の中でもトップクラスの実力者、本戦に参加してもそれなりに結果を残せるほどだ」

 

 

 沢木が冷静に戦力分析をしていた事に服部は驚く。彼の中で沢木という男は、そこまで分析を行うような人間ではなかったのだ。

 

「恐らく明日の決勝、一高の他は二高、三高、四高になるだろう」

 

「司波兄VS三高って散々煽っていたから、そのカードが実現してくれないと肩透かしを喰らった気になるだろうが、それ以上盛り上がるのならどこと当たっても問題ないんじゃないか?」

 

「まぁ、あたしたちは観てるだけだから何とでも言えるけど、実際に戦う司波君からしたら、誰が相手でも嫌なんじゃないかな? もちろん、司波君以外の二人も嫌だろうけども」

 

「司波がどう思おうが、アイツが負けるとは思えん。多少苦戦するかもしれないが、何時も通り涼しい顔をして敵を倒すんじゃないか?」

 

 

 服部の考えに、沢木と桐原が同意する。彼らの中でも達也が負けるなどありえないという事なのだろうが、五十里は微妙に顔を引きつらせていた。

 

「いくら司波君が強いといっても、モノリス・コードはチーム戦だよ? そんな事は僕が言わなくても分かってるとは思うけど。司波君を引き付ける事で、モノリスが狙われる確率が高くなるんじゃないかな? もちろん、吉田君や七宝君だって十分戦えるだろうけども」

 

「まぁ、司波君ならそれくらい織り込み済みで作戦を立ててるでしょうけども」

 

 

 五十里の心配を他所に、三十野が楽観的なコメントをする。その言葉に五十里も「そうだね」とだけ答えそれ以上心配事を言う事はなかった。




後は反則負けくらいか?

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