劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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あまり気にならないですかね……


眠れぬ夜

 達也と深雪の試合を観て興奮していたのか、あずさはなかなか寝付けずにいた。もともと不慣れな場所では眠りが浅くなる傾向があると自覚はしていたが、今日のように寝られないという事はなかった。

 部屋で無理に寝ようとしても仕方ないと思い、あずさは部屋を出て中庭へと向かう。少し歩いたり夜風に当たれば眠くなるだろうと考えたのだ。

 

「それにしても、広いお屋敷だなぁ……客間だって、私が住んでる部屋より広いし」

 

 

 あずさは現在一人暮らし。仕送りがあるとはいえ贅沢は出来ないので学生が住む一般的な部屋を借りて生活している。だがこの屋敷の客間は、あずさが生活している部屋を軽々と超えてきているのだ。

 

「真由美さんや市原先輩が浮かれるのも分かるなぁ……」

 

 

 鈴音はあからさまではないが、真由美は誰が見ても分かるくらいに浮かれていた。達也と婚約出来たことにも浮かれていたのだろうが、このような屋敷を用意してもらえたのなら、多少浮かれてしまっても仕方がなかったんだろうと、あずさは改めて屋敷を見ながらそんな事を考えていた。

 

「中条?」

 

「っ!? な、なんだ服部君か……どうしたの、こんな時間に?」

 

「それはこっちのセリフだ。窓の外に人影があったから確認しに来たらお前がいたんだ」

 

「そうなの? 私はなんだか寝付けないから外の空気でも吸おうかなって思っただけなんだけど」

 

「寝付けない? 枕が変わると寝られないのか?」

 

「そんな事ないと思うけど」

 

 

 何だか子供扱いされた気がして、あずさはムッとした表情で答えた。何故あずさがそんな表情をしたのか分からない服部だったが、あまり気にした様子もなく会話を進める。

 

「さっきの試合を観て興奮してるんじゃないのか? 沢木の奴も、さっきまで人の部屋で興奮してたからな」

 

「沢木君が?」

 

「桐原と二人で、人の部屋に乗り込んできてな」

 

「ふふっ、あの二人らしいね」

 

 

 相変わらず服部がストッパーなのかと、あずさは三人が変わっていない事に嬉しさを覚える。卒業してからまだそれほど時間は経っていないとはいえ、環境が変われば人は変わる。そんな事が少し寂しく思えていたあずさにとって、同級生たちの中身が変わっていない事は嬉しい事なのだ。

 

「お陰でこんな時間まで起きていたわけだが、まさか中条もあいつらと同じとはな」

 

「ち、違うよぅ……」

 

 

 沢木と同レベル扱いされ、あずさは言いようもない不満を懐いた。だがそれが何なのかは分からなかったので、それ以上何も言えなかった。

 

「とにかく部屋に戻れ。寝られないにしても横になっておいた方が疲れが取れるだろうからな」

 

「そうだね。ありがとう、服部君」

 

 

 服部と話したからか、あずさの心中は普段通り穏やかなものに戻った。そのお陰か部屋に戻ってすぐ睡魔に襲われ、あずさは朝までぐっすり過ごせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九校戦も最終日だが、既に母校の総合優勝は決まっており、その点では盛り上がりに欠けていたメンバーだったが、九校戦が始まる前から話題になっていたカードが観られるということで、それなりに盛り上がっている。

 

「司波兄VS一条か……確か一昨年は一条がオーバーアタックして、それを反省している間に司波兄が振動魔法で鼓膜を破って倒したんだよな」

 

「普通なら死んでてもおかしくない威力だったんだけど、司波君だから大丈夫だったって後で聞いたけど」

 

「まぁ、あの威力で攻撃されたら普通は駄目だろうな。オーバーアタックでは済まないくらいの威力だった」

 

「実戦を知っているからこそ、司波君から放たれていた殺気に慌てたんだろうな。冷静な対応が出来なかったのは一条君が未熟だったからと言えるが、殺気を感じ取れるだけの実績があったのも確かだろう」

 

「あの時、深雪さんの顔が蒼白になってたんじゃないかな」

 

 

 実際に側で見ていなかったから分からないが、達也がオーバーアタックをされたのだから深雪の表情が蒼白になっていたもおかしくないと紗耶香は言う。彼女は達也の魔法を知っているので、深雪がその程度で蒼くなるなど思っていないが、この場には達也の魔法を知らない人間も多数いるので、追及を避ける為に話題を深雪の方へ逸らしたのだ。

 

「もしあたしだったら、観客席から魔法を放ったかもしれない……止められるって分かっていても、好きな相手が大怪我をするって思ったら大人しくしてられないだろうし」

 

「花音……」

 

「千代田さんは遠距離攻撃が出来るから良いけど、私はそれが出来ないからな……まぁ、桐原君が大怪我を負ってもそれほど気にしないかもしれないけど」

 

「何だとっ!?」

 

「そんな事言って、巴は桐原君が大怪我を負ったら慌てる癖に」

 

「ちょっ!? 紗耶香、余計な事は言わないで」

 

 

 紗耶香にからかわれ、三十野は慌てて紗耶香の口を手で塞ぎにかかる。三十野に捕まらないように逃げ出した紗耶香を追いかけて共用スペースからいなくなる三十野を見送りながら、桐原は少し恥ずかしそうに頬を掻く。

 

「なんだかんだ言っても、随分と愛されているようだな、桐原」

 

「お前にそんな事言われるとは思わなかったぞ、沢木」

 

「そうか? 俺は思った事を素直に言っただけだ」

 

「あぁ、お前はそういうやつだもんな」

 

 

 色恋に疎い沢木に生暖かい視線を向けながらも、桐原は嬉しそうな表情で沢木に頭を下げるのだった。




ここだとからかわれるだけの桐原

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