劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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このキャラはずっとこのままだろうな……


最後まで

 結局あの後も光宣が精彩を欠いた戦い方をした所為で四高が勝利した。その結果決勝は一高VS四高、三位決定戦は二高VS三高に決まった。

 

「今の司波君なら黒羽君相手でも問題ないだろうな」

 

「むしろ三位決定戦の方が面白そうだな」

 

 

 既に達也が勝つことを確信しているのか、桐原の興味は決勝ではなく三位決定戦に向けられている。達也が勝てば彼が担当した選手は事実上無敗という記録が達成するのだが、彼の正体がトーラス・シルバーの片割れだと分かってからは、あまり注目されなくなっているのだ。

 

「でもやっぱりすごいよね。少なくとも僕には真似出来ない芸当だし」

 

「ですね。恐らく誰も達成出来ないと思います」

 

「まぁ、司波君の技術力もそうだけど、選手たちが頑張った結果でもあるからね。司波君自身は興味なさそうだったし」

 

「達也さんは目立つことを嫌うからね。本当は九校戦に参加する事自体嫌だったみたいだし」

 

 

 まだ二科生だった頃、あずさの何気ない一言で始まった達也の記録。それが三年間継続するとはあずさも思っていなかった。あの時真由美に達也を推薦していなかったら。そう思うとあずさは何となく自分もこの記録に関わっている気持ちになったのだ。

 

「それにしても、九校戦もこれで終わりだと思うと、なんだかあっという間だったな」

 

「今年は完全に観客だったからな。疲れる事もなく、純粋に楽しめたんじゃないか?」

 

「選手として参加してても、それほど疲れる事はなかったが、緊張する必要が無かったのは楽だったかもしれないな」

 

「お前が緊張なんてするのか?」

 

「俺だって一応緊張くらいするわ!」

 

 

 そういう感情には無縁だと思っていた桐原が緊張していたと知り、服部はかなり本気で驚いている。桐原の方も、まさか服部にそんな風に思われていたとは思っていなかったのか、こちらも本気で驚いた表情を浮かべる。

 

「まぁ、完全に緊張と無縁な人間など、司波君くらいなものだろう。俺だって部活の大会の時は緊張していた」

 

「お前も緊張してたのか。全く表情が変わらないから常に平常心なのかと思ってたぜ」

 

「十三束にも言われた事があるが、俺だって人並みに緊張したりするんだがな。まぁ、顔に出ないから他人には気付かれないのかもしれないが」

 

「お前は常にそんな表情だもんな。だが楽しんでいる時は分かりやすいが」

 

「それは俺も思ってる事だ」

 

 

 心の底から楽しんでいるので、沢木が表情を変えるのは真剣な時か楽しんでいる時くらいだと、付き合いの長い二人は理解している。だから今年の九校戦は心の底から楽しめたのだろうと、服部はそんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局達也がほぼ一人で四高を退けたので、一高のモノリス・コード優勝と達也の無敗記録が達成された。あずさたちには直接関係ない事なのだが、花音がお祝いをしようと言い出し、中継が終わった後も屋敷に留まっていた。

 

「いやー彼が後輩だって自慢しちゃおうかな」

 

「花音はあんまり司波君と関係ないでしょ? 少しの間風紀委員で一緒だったくらいで」

 

「でも後輩であることには変わりないでしょ? それに、啓と関係してるのなら、あたしだって関係者だよ」

 

「……まぁ確かに、司波君が凄い後輩であることには変わりはないけどさ」

 

 

 イマイチ納得していない様子だが、これ以上花音に何を言っても響かないと思ったのか、五十里は力なくそう答えた。

 

「確かに司波君は凄い技術者だが、それと同時に凄い魔法師でもあるからな。ここにいる全員が束になって挑んだとしても、勝てるかどうか分からない」

 

「いや、無理じゃね? さっき壬生から聞かされた話じゃ、アイツは本当に人を消す事が出来るわけなんだし、挑んだところで消されるのがオチだって」

 

「というか、司波に挑むつもりなど毛頭ない。模擬戦だろうと何だろうと、アイツと戦うのは御免だ」

 

「さすがに一度負けたことがあると考え方が違うんだな」

 

「あぁ、そういえば入学したばかりの司波君に負けたんだったな、服部は」

 

「桐原だって武道場で押さえつけられたんだろうが!」

 

 

 自分だけ負けたわけではないと言いたかったのか、服部は声を荒げて反論する。その反論に桐原と沢木ではなく、あずさが反応を示した。

 

「ど、どうしたの服部君? 大きな声出して……」

 

「いや、何でもない……驚かしてすまなかった」

 

「それは良いけど……」

 

「俺も在学中に司波君に挑めばよかったかもしれないな」

 

「おいおい、お前は目の前で司波兄の試合を見た事あるだろ? あれで本気じゃなかったんだから、沢木が挑んでも厳しかっただろうよ」

 

「確かにあの試合は白熱していたな。十三束の方はかなり本気だったようだが、司波君はまだ余力を残していたわけか……今度時間を見つけて手合わせをお願いしたくなってきた」

 

「何でそうなるんだよ……」

 

「まぁ、沢木君はそういう人だから仕方ないと思うよ」

 

 

 あずさも沢木が少しズレた感性の持ち主であると思っているので、そう言って服部を宥める。こうして久しぶりに集まって騒いだ日は終わり、彼女たちは自分たちの日常に戻っていく。そう思うと少し寂しい気持ちになるなと、あずさは屋敷を出て駅に向かう間そんな事を思っていたのだった。




明日から原作に戻ります

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