劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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こう見ると人望あったんだなって思う


遊撃歩兵小隊会議

 防衛大学校の学生は今も昔も寮生活が原則だが、魔法師の士官を養成する特殊戦技術研究科の学生は、入寮を免除されている。現在四年生の千葉修次は自宅から、二年生になった渡辺摩利は校舎の近くにアパートを借りて防衛大に通っている。

 しかし二十一時過ぎという夜遅い時間にも拘わらず、今二人がいる場所は修次の自宅でも摩利のアパートでもなかった。

 彼らは現在、国防陸軍朝霞基地の一室、作戦会議室の一つにいた。室内には四十人前後の士卒が集まっている。その内の三十人は遊撃歩兵小隊、通称『抜刀隊』の構成員だった。残りは第一師団の偵察、補給、整備、通信各小隊の隊長または補佐役の下士官だ。修次と摩利は、遊撃歩兵小隊に仮配属された身分でこの会議に参加していた。

 

「……これは、私闘ではない」

 

 

 前で喋っているのは『抜刀隊』の小隊長。この会議を呼び掛けたのも彼だ。ただ会議を企画したのはもっと上の人間である。小隊長が話している内容が、それを雄弁に物語っていた。

 小隊長は会議の冒頭で、九島烈の死因が他殺である事、その犯人が孫の九島光宣であることを語った。そして、どよめきが静まったのを見計らい、遊撃歩兵小隊は光宣の捕縛に出動すると告げた。

 

「犯罪者の捜索と逮捕は警察の職務だ。軍の仕事ではない。だが九島光宣は外国人工作員に使嗾されている、または共謀関係にある可能性が高い。工作員の所属国は判明していないが、本任務は破壊工作に対する予防的出動と位置付けられる」

 

 

 今度はざわめきは起らない。全員が緊張した面持ちで、衣擦れの音一つ立てず小隊長に視線を向けていた。

 

「だが、そのような大義名分が無かったとしても、身内でありながら閣下を手にかけた九島光宣を放置しておくことは出来ない! ましてや犯人の九島光宣は、パラサイト化している。これは、信頼のおける筋からの情報だ」

 

 

 息を呑む音が、そこらかしこから聞こえた。遊撃歩兵小隊は去年の二月に、パラサイトを捕獲する目的で出動した事がある。数人の隊員が最後列の修次へ振り返ったのは、その際に修次と自分たち小隊が一発即発の状況になった事を思いだしたからだろう。

 

「閣下の敵は人に仇為す魔物だ。我々は二重の意味で九島光宣を放置しておけない。そうだろう!」

 

 

 その通りです! という応えが一斉に湧き上がる。その声を上げたのは、遊撃歩兵小隊の隊員だけではなかった。

 

「捜索には近畿、中部の各師団及び公安の協力も得られる事になっている。遊撃歩兵小隊は東富士演習場で待機、九島光宣の潜伏場所が特定され次第、現地に急行する。当基地出発は明後日、七月三日〇九〇〇だ。以上」

 

 

 修次と摩利は抜刀隊の隊員と共に立ち上がり、小隊長に敬礼で応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会議が終わり、少し話をしたいと修次に言われ、摩利は彼を自分のアパートに招き入れた。婚約者同士だから別におかしくはないのだが、二人の間に色っぽい雰囲気は皆無だった。

 

「さっきの話、どう思った?」

 

 

 摩利がお茶を用意し腰を下ろしたタイミングで、修次は摩利にそう尋ねた。摩利は修次が何を考えているのか気になったが、とりあえず自分が思った事を素直に答える。

 

「九島光宣がパラサイト化しているというのなら、あたしたちが出動するのも当然だと思う」

 

「そっちじゃない。九島閣下を殺したのが孫の光宣だって方だ」

 

「あぁ、そっちか……パラサイト化しているのなら、あり得ない話ではな無いと思う。だが、いくらパラサイト化しているとはいえ、孫が祖父を殺める事になるなんて、どういう状況だったのかは気に掛かるが」

 

「……摩利の友人から聞き出せないかな?」

 

「真由美から?」

 

 

 修次は「友人から」としか言っていないが、摩利はそれが真由美を指しているとすぐに理解した。情報規制がかけられている以上、普通の友人から得られる情報など無く、十師族の真由美なら何か知っているだろうと瞬時に理解したからだ。

 

「聞けなくはないだろうが、そう簡単に話してくれるとも思えん。何せ、事が事だからな」

 

「それは僕も分かっている。だが、今の状況はあまりにも情報が少なすぎる。閣下が亡くなられたのは僕も残念に思うし、もし死因が病死ではなく殺人なら、その犯人を捕まえたいとも思う。だが孫の光宣が閣下を殺めたという話は、あまりにも荒唐無稽に思える。幾らパラサイト化しているといってもだ」

 

「そうだな……だが、真由美が何も知らない可能性もあるんじゃないか? アイツは十師族の一員とはいえ跡取りじゃない。情報が下りてきていない可能性だってあるんじゃないか?」

 

「彼女はエリカと一緒で『彼』の婚約者だ。たとえ家から情報が下りてきていなくても『彼』から情報が下りてきている可能性があるじゃないか」

 

「あぁ、達也くんか」

 

 

 真由美とエリカの婚約者である達也は、四葉家次期当主にして九島烈とも繋がりがある。情報は間違いなく持っているだろう。だが達也が真由美たちにその情報を流すかは疑わしいと摩利は思った。

 

「一応確認はしてみるが、あまり期待はしないでくれ」

 

「分かった。だが実際に相まみえた時、疑念が邪魔をする可能性もあるから、出来る限りは情報を集めておきたいんだ」

 

「シュウ……」

 

 

 婚約者の本気を垣間見た気がして、摩利は何とかして真由美から情報を引き出そうと決心したのだった。




達也なら情報を持ってると思われてるのが凄い
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