劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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あーちゃん、ドンマイ……


投票の内訳

 学園が雇ったアルバイトによって投票結果は即日開票され結果は翌日には貼り出されていた。信任投票であるために、有効投票数の過半数をあずさが獲得すれば何も問題無くあずさが生徒会長に就任するのだ。

 

「おめでとう中条さん」

 

「当然の結果だがよかったな」

 

 

 もちろんあずさは生徒会長として認められたのだ。だが……

 

「深雪さん、あまり気にしないで。どうせ無効票なんだから」

 

「しかし達也君も人気ものだな」

 

 

 今回の選挙の総投票者数は五百五十四票。その内有効投票数は百三十票だった。

 

「司波が二百二十票で達也君が二百四票とはね」

 

「あーちゃんも落ち込まないの。所詮無効票なんだから」

 

「ですが、二人が正式に立候補してたら私は負けていたんですよね……」

 

「中条先輩、俺は立候補出来る立場ではなかったのですが」

 

「それに私もお兄様も実際には立候補してませんので」

 

 

 あずさの慰めに集中していた為に深雪も大人しかったが、あずさの慰めに成功すると今度は急激に機嫌を悪くした。

 

「勘違いで私に投票した人が居たのは認めます。ですが何故『女王様』や『女王陛下』、『スノークイーン』といった票まで私にカウントされているのですか!」

 

「いやだって……『深雪女王様』や『司波深雪女王陛下』、『スノークイーン深雪様』と書かれていたので他にカウントしようが無いだろ……」

 

「なんですか! 私はそんな変態趣味思考の持ち主だと思われてるのですか!」

 

「いや、誰もそんな事は思って無いと思うわよ」

 

 

 あんな光景を見せられて冗談でもそんな事をしようと思う輩は存在しないだろうと、真由美も摩利も思っている。

 

「その投票用紙をお貸しください! 誰が投票したのかを突き止めます!」

 

「そんな事は出来ない。大体如何やって……」

 

 

 摩利が言いかけた常識論は、この場においてのみ効力を発揮しなかった。ついさっきまで怒りで顔を真っ赤にしていた深雪が、一瞬で瞳を潤ませて達也に泣きついた。

 

「お兄さまぁ~」

 

「無茶言わないように。大体無記名投票なんだから、誰が投票したのかを突き止めるのはルール違反だろ」

 

「ですが、お兄様に色目を使った雌猫を突き止めなければ気がすみませんし、私の事をこんな風に思っている輩にもお仕置きをしなければ……」

 

 

 深雪が『女王様』や『女王陛下』と評されたように、達也に入った票にも様々な表現がされていた。

 

「確かに凄かったよな。『司波陛下』や『鬼畜達也様』とか」

 

「『鋼の貴公子司波達也』ってのもあったわよね」

 

「先輩方、深雪を煽るのは止めてください。先輩たちが責任もって深雪を抑えてくれるなら良いですけど」

 

 

 達也に鋭い視線を向けられて摩利も真由美もふざけるのをやめた。冗談抜きで二人は達也が視線で人を殺せると思っているのだから。

 

「それに、有象無象が深雪を如何思おうと、俺にとっては可愛いお姫様だよ」

 

「お兄様!」

 

 

 達也の甘ったるい表現に、生徒会室の空気が一瞬で変わった。さっきまで魔法大戦かと緊張していた空気だったのに、あっと言う間に胸焼けしそうなくらい甘い空気に変わったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いろいろとあったが達也たちが生徒会室から出て行って暫くしてから、今度は克人が生徒会室を訪れていた。

 

「珍しいな十文字、お前が此処に来るなんて」

 

 

 自分も部外者の癖して、その事を一切気にしてない表情で摩利が克人にお茶を出す。克人も軽く頭を下げ、摩利が部外者なのを気にした様子も無くそのお茶を啜った。

 

「それで、どうかしたの?」

 

「いや、今日で七草の会長姿も見納めだからな。見に来ただけだ」

 

「そうなの? ありがとう」

 

「相変わらず真面目だな、十文字」

 

 

 真由美と摩利の攻撃を、克人はあっさりと跳ね返す。

 

「そっか……達也君、誰かに似てるって思ったら十文字君だったのか」

 

「司波が?」

 

 

 似てるか? と視線で問われ、摩利は軽く肩を竦めた。克人も達也も自分たちの攻撃(口撃)をものともしない事では似てるが、達也はワザとで克人は天然だと摩利は思ってるのだ。もちろんそんな事は口にはせずに、話題に上げたのは別の事だ。

 

「司波といえば、昨日は如何なるかと思ったぞ」

 

「確かにね……」

 

「下から見てた限りでは分からなかったが、あれは司波が妹を抑えつけてたのか?」

 

 

 摩利の急な話題転換に二人は一瞬だけ不審な表情を見せたが、気になる話題だったのであっさりとそれに乗ってきた。

 

「達也君がサイオンの網で司波が吹き荒らしていたものを全て捕まえ妹の中に押し込んでたように見えたけど、真由美は如何思う?」

 

「私も摩利と同じように見えたけども、いくら無意識だったとはいえ、兄妹だからって相手のサイオンをああも簡単に身体の中に戻せるものなの?」

 

「司波は古流の魔術に長けてるからな。あれもその一つなのではないか?」

 

 

 真由美の疑問を、克人が一つの考えとして答える。此処に居る全員が、達也が九重八雲の弟子である事を知っているので、克人の答えにある程度の納得を示したのだった。

 

「だけどあのサイオン量、普通の魔法師じゃ説明がつかないんじゃないか?」

 

「だが達也君は十師族ではないと答えたんだろ?」

 

「ああ、嘘を吐いている様子は見受けられなかった」

 

 

 克人の疑問に、今度は摩利が答える。九校戦の後夜祭時に克人本人が達也に問うた事なので克人もすぐに悩んでしまった。

 

「司波妹もだが、兄の方もいろいろと説明がつかないな……」

 

「もうやめましょう。相手の血筋を探るのはルール違反よ」

 

「真由美? だが気になるだろ?」

 

 

 真由美が言っている事は世間の常識だし摩利も克人もその事は理解している。だが一番好奇心むき出しにしそうな真由美があっさりと引き下がった事が二人には不思議でしょうがなかったのだ。

 

「七草、お前何か知ってるのか?」

 

「知らないわよ……大体知ってたら教えてるわよ」

 

「そうだよな……」

 

 

 生徒会長選が終わり、自分たちも引退するという前日に学園のトップ3が揃って一人の二科生の後輩の事で話し合っていたなどと、学園の誰一人として考えて無かっただろう。事実その事を知っている人間は当事者である三人を除けば誰一人存在しない。

 新体制がスタートした中で、三人はそれぞれが達也を見かけると頭を悩ませるといった謎の光景が見受けられた為に、一部で達也はこの学園を裏で牛耳っていたのではないかとの噂が流れ始める。

 その所為で達也の頭痛の種が増え、深雪が機嫌を悪くする機会が増えるという最悪の事態を巻き起こすのだが、その事は今後に影響しないので割愛する事にする。




次回から騒乱編ですが、ちょっとオリジナル展開が数話続きます

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