劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

1779 / 2283
当然普通の会話ではない


夕食後の説明

 光宣が生駒市郊外の工場に到着したころ、達也は深雪と遅めの夕食を摂っていた。その食事の合間に、達也が何の前触れもなく謝罪の言葉を口にした。

 

「今日は済まなかったな」

 

「達也様……申し訳ございませんが、心当たりが無いのですが」

 

 

 深雪は本気で心当たりが無いようで、目を丸くして問い返した。

 

「今日は、一人で下校させてしまった」

 

「そのことでしたら……」

 

 

 何を言われるのか少し緊張していた深雪が、ふっと表情を緩める。

 

「達也様がお気になさることではないかと存じます。達也様はもう『ガーディアン』ではないのですし、ボディガードの皆さんはきちんと仕事をしてくださっていましたから」

 

「必要無いと言われても、気になってしまうんだよ」

 

「そ、そうですか。それは……ありがとうございます」

 

 

 顔を赤らめ目を泳がせた深雪が、俯いて「達也様、ズルいです」と小声で付け加える。達也の耳はその言葉をしっかり捉えていたが、彼はあえて反応しなかった。

 会話が再開したのは、夕食のお皿を片付けて食後のコーヒーがダイニングテーブルに並べられた後だった。再開のきっかけは深雪の質問。達也が謝罪する必要は無いというのは深雪の本心だが、達也が何をしていたのか気になっているのも事実だった。

 

「達也様が今日、何をされていたのか、うかがってもよろしいでしょうか?」

 

「……そうだな」

 

 

 深雪の質問に対して、達也は少し迷ったが結局は頷いた。話しておく予定はなかったが秘密にする理由もない、とでも考えたのだろう。

 

「大亜連合に勝利した新ソ連は、日本海を南下する可能性がある」

 

「新ソ連が日本に戦争を仕掛けるのですか!?」

 

「いきなり宣戦布告してくるのではなく、何らかの理由を付けて艦隊を出動させるのではないかな。例えば、今回の紛争における戦争犯罪者が日本に逃げ込んでいるから引き渡せ、とか」

 

「大亜連合の亡命者を日本政府が受け入れる事など、あり得るのでしょうか?」

 

「大義名分はこの際、どんなものでも良い。新ソ連の目的も、様々な推測が成り立つ。彼らの狙いが何であっても、侵攻を受ける可能性があるなら、それに備えなければならない」

 

「横浜事変の折りのように、達也様が出動されるのですか?」

 

「他国の軍事的野心に対する抑止力になる事は、東道青波にESCAPES計画を支持してもらう条件だからな。知らん顔は出来ない。ただ今回は横浜事変の時と違って、一度撃退したら終わりというわけにはいかないだろう」

 

「……何故でしょう?」

 

「あの時の大亜連合と違い、新ソ連はマテリアル・バーストの存在を知っている。軍事行動に出るならば、都市や基地が直接攻撃を受けないよう手を打ってくるはずだ」

 

「達也様のマテリアル・バーストを防ぐ手段など無いと思いますが……」

 

「魔法的にマテリアル・バーストを防ぐ方法が無いわけではない。それに、魔法で抵抗しなくても俺が攻撃できなくする方法はある」

 

「そんな事が可能なのですか?」

 

「例えば、ウラジオストクを無防備都市と宣言する」

 

「すると、どうなるのでしょう?」

 

「無防備都市を宣言しても、そこに隣接する軍事施設が攻撃を免れるわけではない。軍事施設は存在するだけで軍事力だからだ。だがマテリアル・バーストでウラジオストクの軍港施設を攻撃すれば、都市部にも被害が及ぶ。あの魔法は領域を限定して攻撃する事が出来ないからな。戦時国際法を無視する無法者国家の汚名を着せられたくなければ、マテリアル・バーストによる攻撃は断念しなければならない」

 

「それはあまりにも虫が良すぎると思いますが」

 

「確かに、見え透いている。しかしいくら偽計だと分かっていても、形式が整っていれば無視できない。海上戦力についても、マテリアル・バーストを使わせない手はある。例えば難民船団を仕立てて、戦闘艦から通常兵器では流れ弾の被害を受けない程度、離しておく。散開した艦隊をマテリアル・バーストで殲滅するためにはある程度規模が大きな攻撃をしなければならないが、それを実行すれば難民船団も巻き込んでしまう」

 

「……破壊力が大きすぎるが故の悩みですね」

 

「破壊力の調節が困難な所為で、相手に付け入る隙を与えてしまっているというべきだろうな。そういうわけで、新ソ連の侵攻があった場合は別の迎撃手段が必要になる」

 

「……もしかして、達也様はその為の魔法を開発していらしたのですか?」

 

 

 眉を曇らせていた深雪が、目を輝かせて問いかける。その代わりように達也は苦笑いをしそうになったが、実際には誠実そうな顔で頷いた。

 

「基本設計まで終わらせた。後は実際に使用する奴らに頑張ってもらおう」

 

「達也様が使われるのではないのですか?」

 

「これ以上面倒な事に巻き込まれることは御免だからな。それに、日本海側に出向く時間も惜しい」

 

「……失礼しました」

 

「いや」

 

 

 気にしていないと笑って見せる笑顔の裏で、達也は深雪に隠している事があった。チェイン・キャストを利用した戦略級魔法。彼はそれを、一条将輝に使わせるべく吉祥寺に提供した。だが適性だけを考えるならば、新戦略級魔法のシステムは、深雪にこそ向いているものだった。




兄妹で戦略級魔法師になるのはな……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。