劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ブラコン、シスコンが多い……


それぞれの妹

 生徒会室で作業する深雪に、一本の連絡が入ったのが少し前。新生徒会役員としてほのかと五十里が加わり、ほのかの手伝いとして雫も生徒会室で作業をしている。だが誰一人として深雪の機嫌が傾いてる事に気付かない。そう、新会長として少し離れて座ってる彼女以外は……

 

「し、司波さん? 何かあったの?」

 

「いえ、何でもありませんが」

 

「そ、そうですか……なら良いんですけど」

 

 

 先ほどの連絡の内容は深雪以外には分からない。だが見て分かるように機嫌を悪くした訳でもないので、ほのかも雫も特に気にする事無く作業を続けているのだ。

 

「中条さん、どうかしたの?」

 

「い、いえ。何でもないです」

 

「そう? なんだか顔色が悪いから」

 

 

 深雪よりもあずさの方が見て分かるほどの変化があるようで、五十里が心配したのは深雪ではなくあずさだった。

 

「けーい!」

 

「花音、どうかしたのかい?」

 

「ちょっと風紀委員会本部に来てくれない? 何処に置いたかわかんなくなっちゃって」

 

「何時もちゃんと整理しておかないから……あれ? 司波君は如何したの? 何時もは司波君に聞いてるのに」

 

「今日は忙しいんだって。何でもカウンセリング部から手伝って欲しいって言われてるらしいのよね」

 

「そうなんだ」

 

 

 五十里と花音が風紀委員会本部に消えていくと、あずさは無意識に深雪へと視線を向けた。

 

「何でしょうか?」

 

「えっと……司波君の用事って何なのかなと思っただけです……ゴメンなさい」

 

 

 会長という役職にありながら、あずさはこの部屋でトップという感じはしない。達也が居る時は達也がトップ、居なければ深雪がトップという感じが生徒会室には漂っているのだ。

 

「そういえば深雪、今千代田先輩が言ってた事って本当なの? 達也さんがカウンセリング部のお手伝いをなさってるって」

 

「そのようよ。先ほどお兄様から連絡がありましたので」

 

「それって達也さんが誰かのカウンセリングをするって事?」

 

「そこまでは……小野先生に聞けば分かるかも知れないけど、教えてくださるかしら?」

 

「これが終わったら聞きにいってみる?」

 

 

 後輩三人の会話を聞きながら、あずさはホッとした感じで作業を再開した。友達と話して深雪の機嫌が多少マシになってきたからだろう。

 

「中条会長」

 

「え、はい?」

 

「これ終わりました」

 

「は、はい。ご苦労様です」

 

「こっちも終わりました」

 

「では今日はここまでで終わりましょう。お疲れ様でした」

 

 

 あずさの締めの言葉でこの日の生徒会作業は終了となり、一年生三人はカウンセリング室へと足を進めたのだった。

 

「こ、怖かった……」

 

「あれ? もう終わっちゃった?」

 

「五十里君ももう帰って良いですよ。後は私がやっておきますから」

 

「よかったー! これで啓と一緒に帰れるね~」

 

「花音……じゃあお願い出来る?」

 

「大丈夫ですよ」

 

 

 許婚コンビも生徒会室から出て行き、あずさはホッと一息吐くのだった。

 

「やっぱり司波君を無理にでも生徒会に引き抜くんだったな……」

 

 

 花音との取り決めで、達也が正式に生徒会役員になるのは来年の四月から。それまでは深雪が機嫌を損ねないようにするのが大変だと、あずさは就任早々会長職を辞めたいと思っていたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が居ない所で深雪が他人に心労を与えてるなどとまったく知らずに、達也は小春を家まで送り届けていた。

 

「ここよ」

 

「そうですか。では自分はこれで」

 

「少しくらい寄っていって。送ってもらったお礼もしたいし。それに、もう少し相談したいしさ……」

 

 

 九校戦以降、小春は達也の事を信頼している。整備の腕もだが、自分には出来ない考えかたを教えてくれ、少しは自分の負担を減らしてくれたと、達也の事を思っているのだ。この『思い』が『想い』に変わらない事を、小春は願っているのだ。

 

「(司波君は女子からの人気が高いもんね。私なんかじゃつりあわないだろうし……)」

 

「先輩? 俺の顔に何か付いてます?」

 

「えっ? ううん、何でもないの」

 

「そうですか」

 

 

 無意識の内に達也の顔を凝視してしまってた小春は、慌てて達也から視線を逸らし、人知れず赤面するのだった。

 

「お姉ちゃん?」

 

「ち、千秋!? 今日は遅かったのね……」

 

「うん、ちょっと……それで、何で司波君が此処に居るの?」

 

「小野先生に頼まれて平河先輩をご自宅まで送り届けたんだ。これで失礼するがな」

 

「そう……じゃあね司波君」

 

「ええ。平河先輩も」

 

 

 千秋と小春に頭を下げ、達也は来た道を戻って行く。その後ろ姿を名残惜しそうに眺めている小春を見て、千秋は複雑な感情を覚えた。

 

「お姉ちゃん、司波君の事好きなの?」

 

「えぇ!? 何言い出すのよ千秋は!」

 

「だって、お姉ちゃん九校戦の後から司波君の事気にしてる。小早川先輩の事で塞ぎこんでた時も、小野先生から司波君に相談してみるって言われたら部屋から出てきたし」

 

「そ、そんな事無いわよ。馬鹿な事言ってないでそろそろ家に入りましょう。いい加減寒くなってくる頃だしね」

 

 

 明らかに動揺した姉を見て、千秋は達也が居なくなった方向に視線を向ける。

 

「(あの人、お姉ちゃんが防げなかった事故を防いだんだよね……もしかして小早川先輩の時も気付いてたんじゃないのかな……もしそうなら、お姉ちゃんを追い詰めたのはアイツだ)」

 

「千秋、何してるの」

 

「何でもない」

 

 

 自分の中に黒い何かが芽生えそうになったのに焦り、千秋は何時も以上に明るく振舞った。その姿を見て小春が楽しそうに笑ってくれたので、とりあえずは自分の中の黒いものを忘れる事が出来たのだった。

 

「それで、千秋は好きな人とかいないの? さっき散々人の事からかったんだから、千秋も白状しなさい」

 

「えーいないよそんな人。私はお姉ちゃんが好きなんだもん」

 

「そろそろお姉ちゃん離れしないと、来年には私は家を出るんだからね」

 

「毎日電話するから問題ないもーん」

 

「まったく」

 

 

 口では困った風を装っていても、結局は姉妹。小春も千秋が自分を慕ってくれてるのが嬉しいので、結局は甘やかしてしまうのだ。

 

「ところでお姉ちゃん、司波君と何話してたの?」

 

「論文コンペティションの事とか、小早川さんの経過とかいろいろよ。でも如何して?」

 

「だってほら、司波君って二科生なのに数々の活躍をしてるでしょ? 九校戦にだってエンジニアとして選出されて、不幸な事故があったから代役としてモノリス・コードにまで参加してたしさ。だからもっと別な話しでもあるのかと思って」

 

「ホントはね、私が学校を辞めないように説得に来てくれたのよ。小野先生から頼まれたらしいんだけども、普通なら断るような事よね。それほど面識の無い先輩の説得なんてさ」

 

「そうかもね……でもお姉ちゃん、ちょっと嬉しそうだよ?」

 

「そ、そんな事無いわよ!」

 

 

 妹のからかいに本気で照れる姉、千秋は何となく達也の事が気になり、明日調べてみようと思ったのだった。




こうなると千秋は姉を取られた恨みで達也に迷惑をかける事になるのか?

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