劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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180話目ですね。長く続くもんだな……


新たな噂

 小春を家まで送った翌日、その事は光の速さで学園中に広まっていた。近しい関係の相手には事情は話して納得してもらったのだが、学年が違うとそう簡単にはいかないのだ。

 

「達也君、ちょっと良いかな?」

 

「七草先輩? 何かご用でしょうか」

 

 

 授業合間の休憩時間に、前生徒会長の七草真由美が達也を訪ね一年の教室までやって来た。会長選の前に行われた集会で、浅野がやっかみで言い放った真由美が達也に気があるのでは無いかという噂は、まだ完全に消え去った訳では無く、このタイミングで真由美が現れたことによって噂に信憑性が増す事になったのだった。

 

「ちょっと聞きたい事があって……今大丈夫かな?」

 

「構いませんよ。と言う訳だから悪いな」

 

「良いぜ、その代わり後でゆっくり話そうぜ」

 

「別に大した事じゃなかったし、僕も構わないよ」

 

 

 真由美が現れるまで達也と会話を楽しんでいたレオと幹比古の断りを入れ、達也は真由美と共に廊下へと消えていった。

 

「やっぱり七草先輩って司波君の事が?」

 

「え、でも司波君って三年生の平河先輩と付き合ってるって噂だよ? 昨日も仲良く一緒に帰ってたって」

 

「でもでも私はA組の光井さんと付き合ってるって聞いたけど?」

 

「北山さんじゃなくて?」

 

 

 達也が居なくなった途端に、クラスメイトはざわめきだす。本人が居ては怖くて出来ないが、居なければ何とでも言えるのだ。

 

「やっぱり達也君の傍に居ると飽きないわね~」

 

「エリカちゃん、いくら他人事とはいえ無責任に噂を流しちゃ駄目だよ」

 

「あら? 私が流したのは達也君がほのかに告白されたってだけよ?」

 

「オメェってホント性質ワリィよな。光井だって黙ってて欲しかったんじゃねぇの?」

 

「そうだよエリカ。光井さんに謝った方が良いって」

 

「え~でも、もう私が流した噂は『達也君とほのかが付き合ってる』に変わっちゃってるし、もう収拾付かないって」

 

 

 少し反省してる風な表情でエリカが言うと、レオも幹比古も何もいえなくなってしまった。エリカも一応は反省してるようだし、これ以上責めると苛めてるように見られるのではないかと気にしたからだ。

 

「エリカちゃん、それでも一応間違いだったって言っておかないと、ほのかさんや達也さんが困りますし、深雪さんにエリカちゃんが噂を流したってバレたら大変だよ」

 

「ちょっと! 怖い事言わないでよ!」

 

 

 深雪にバレる、それはある意味で死刑宣告に等しいのだ。普段から深雪と行動を共にしているエリカは、深雪が暴走した時の光景は見たことがあるのだ。もちろんそれがどんな意味を持っているのかも分かっている。

 

「一応流しとくけど、今更だって」

 

「それでも、達也さんと深雪さんに怒られたくは無いでしょ?」

 

「……全力で流してくる」

 

 

 生徒会長選挙の時に見せた深雪の暴走と、それを簡単に収めてしまう達也に、一高生徒の大半は畏怖を覚えたのだ。エリカも前から怒らせたらマズイとは知っていたが、まさかあそこまでとは思っていなかったので、最近はおふざけも本気では出来ていないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室でそんな事が繰り広げられているなど露知らず、達也は真由美とともに生徒会室へとやって来た。もう引退した真由美がこの部屋を自由に使えるのは、現会長であるあずさの好意のほか無いのだが。

 

「? 渡辺先輩に市原先輩まで、如何したんですか?」

 

「いや何、私は真由美と市原が暴走しないようにな。ストッパーだと思ってくれ」

 

「はぁ……暴走?」

 

 

 穏やかでは無い単語が飛び出し、達也は首を傾げた。達也自身、呼び出された理由に心当たりがまったく無いのだ。

 

「それで七草先輩、こんな場所に呼び出した理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「ええ。ねぇ達也君、三年の平河小春さんは知ってるわよね?」

 

「存じていますが、それが何でしょうか? そもそも会長も俺が平河先輩と面識があるのは知っているはずですが」

 

「まぁ……それは知ってたわ」

 

 

 九校戦の時、泣き崩れる小春を達也が慰めるのを、真由美も傍で見ていたのだ。だから達也は真由美の質問の意図が掴めずに困惑したのだ。

 

「それで昨日達也君と平河さんが仲良く下校してるのを目撃した生徒が複数人居るんだけど、それも間違いないかしら?」

 

「ええ。昨日カウンセリング部の小野先生から平河先輩をご自宅まで送り届けるように言われましたので」

 

「え、小野先生から?」

 

「ええ。平河先輩が学校を辞めないように説得するのを手伝って欲しいと、前々から頼まれていまして、丁度平河先輩が登校していた昨日呼び出されただけですが。深雪やクラスメイトは知ってる話ですし、先輩たちが何を気にしてるのかが俺には分からないのですが」

 

 

 達也は事実を淡々と伝えていくが、真由美や鈴音はその事実を受け入れるのに多少の時間を要した。

 

「それじゃあ今学校中に流れてる、『君が平河小春と付き合ってる』と言うのは嘘偽りなんだな?」

 

「当たり前です。平河先輩に失礼ですよ」

 

「そうでもないと思うが……まぁ君がそう思ってるなら仕方ないが」

 

「?」

 

 

 達也は夏休みの間にほのかに告白され、その後深雪の甘えっぷりも度を増して困惑してる状況なのだ。そんな状況で他の女子と付き合ってるなどと噂されても困るだけだし、ほのかや深雪が更に燃えてしまう燃料になりかねないと思っているのだ。

 

「では俺は戻っても? 次は実習でして。少しでも時間が欲しいんですよ」

 

「ああ。この二人は私が如何にかしておくから安心しろ」

 

「では」

 

 

 一礼して達也は生徒会室から去っていく。そして暫くしてから真由美と鈴音が現実に復帰した。

 

「あ、あれ? 達也君は?」

 

「とっくに帰ったぞ。それにしてもよかったな。達也君は相変わらずフリーのようで」

 

「な、何の事ですか?」

 

「惚けるな。まさか市原まであの男に魅了されるとはな」

 

「摩利だって随分と達也君に執着してるけど、修次さんは良いのかしら?」

 

「シュウは関係無いだろ! 大体アイツは後輩だ。それ以上でも以下でも無い!」

 

 

 慌てて否定する摩利に、真由美と鈴音は疑いの目を向ける。もちろん摩利は達也の事を特別だとは思って無いが、それでも異例の親近感を持って接しているのは紛れも無い事実であり、他の男子とは違った付き合い方をしてるのも事実なのだ。

 

「もし何かあったら修次さんに報告するからね」

 

「だから何でもないって言ってるだろ! 大体そんなに達也君が気になるなら告白でも何でもすれば良いだろ! さっき聞いたように達也君はフリーなんだから」

 

「え、でも……」

 

「私のような女に告白されても司波君は嬉しく無いでしょうし……真由美さんなら別ですけども」

 

「ちょっとリンちゃん!?」

 

 

 生徒会室で繰り広げられている乙女談議に、摩利は辟易とした表情を浮かべて付き合っていた。その結果授業開始ギリギリまで生徒会室から抜け出す事が出来なかったのだが……




さぁ、女王が君臨するぞ……まぁその描写は無いんですが……

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