劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

181 / 2283
お気に入り登録者数が2100名を突破いたしました。


選考結果

 真由美から解放された達也は、実習内容を早々にクリアーして実習室の隅でエリカたちと雑談をしていた。

 

「それで、エリカが何らかの噂を流してたというのは本当なんだな?」

 

「ゴメン、平河先輩と何にも無いって知ってたから面白半分で……」

 

「大体面白半分で人の噂を流すなよな。俺は兎も角ほのかが可哀想だ」

 

「あとでほのかにも謝るわよ」

 

 

 達也としては、何故エリカが自分にほのかが告白したのを知ってるのか問い詰めたかったが、もしテキトーにでっち上げた噂だった場合墓穴をを掘る事になるのでその疑問には蓋をする事にした。

 

「それでエリカちゃん、まだ課題終わってないよね? ここでおしゃべりしてて良いの?」

 

「せっかく気分転換してたのに」

 

 

 エリカが課題に戻って行くのを、達也はボンヤリと眺めていた。

 

「それで達也さん。何であんなに噂が乱立してるんでしょうね?」

 

「そんなの俺に聞かれても……大方この間の選挙の時の感じじゃないのか?」

 

 

 生徒会長選挙の前にも、達也が立候補すると言う噂が流れていたのだ。遥から聞いた話では、あの噂は伝言ゲームのように内容が変わっていき、最終的に達也が立候補するという内容に落ち着いたのだが……

 

「それで、今日も平河先輩と帰るんですか?」

 

「今日は来てるかどうか知らないんだが。それに、説得だけなら学校でも出来るだろ」

 

「ですが、何故小野先生は達也さんに説得をお願いしたのでしょうか」

 

「自分が楽したかっただけじゃないのか?」

 

 

 本当の理由を美月に言う訳にはいかない達也は、とりあえずテキトーな理由をでっち上げた。この理由で美月が納得するかは別として、それらしい理由なら彼女は追及してこないとこの数ヶ月で学んでいるからだ。

 

「そうでしょうか……でもまぁ、達也さんも分からないんじゃ仕方ありませんね」

 

「何の話をしてるの?」

 

「何でもないさ。それより幹比古、二学期になってから実技も好調のようだな」

 

「達也のアドバイスのおかげだよ。昔の感覚で魔法が使えるようになったのは素直に嬉しい事だよ」

 

「なら、来年は一科生かもな」

 

 

 達也の冗談とも取れる言葉に、幹比古は本気で照れ始める。彼も達也が魔法に関して厳しい評価をする事も、正確に評価してくれる事も知っているので、冗談であったとしても達也の評価は幹比古にとって嬉しいものだったのだ。

 

「達也、悪いがまた指導してくれねぇか?」

 

「アタシも」

 

「……残るのは御免だからな。さっさと終わらせるぞ」

 

 

 達也がエリカとレオに連れて行かれた為、この場所には幹比古と美月の二人だけになる。互いに互いを意識しており、またお互い人見知りの恥ずかしがりなので、二人きりになると途端に会話が途切れるのだった。

 

「えっと……」

 

「あの……」

 

 

 二人を見ているクラスメイトは、もどかしさと初々しさが交ざった空気に耐えられずに二人から離れていく。その空気が改善されたのは、達也の指導を受けて課題をクリアーしたエリカとレオがやってきてからだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後風紀委員の見回りを終えて、図書室の地下資料室に潜っていた達也の許に、一人の来客があった。

 

「司波、居るか?」

 

「はい? 小早川先輩、如何かしましたか?」

 

 

 達也を訪ねて来たのは、ミラージ・バットで無頭竜の妨害工作で被害を受けた小早川だった。

 

「いやなに、君が平河の説得を行ってると聞いてな。状況を知りたくて此処に来たんだ」

 

「そうですか。ですが、俺はまだ何もしてませんよ」

 

「そうなのか? 昨日一緒に帰ってるところを目撃した生徒がいると噂されてるが?」

 

「まぁ如何いう事情かは聞いておいたほうが良いと思いましてね。小野先生に嵌められた形でしたが、昨日は平河先輩をご自宅までお送りしましたよ」

 

 

 達也の説明に、小早川は小さく頷いた。

 

「私の所為で平河まで魔法師人生を終わらせるのはおかしいからな。司波、是非説得してくれ」

 

「はぁ……ですが小早川先輩だってまだ終わった訳ではありませんよね? 今だって必死に努力してると渡辺先輩から聞いてます」

 

「そうか……まぁ頑張ってるがね」

 

 

 恥ずかしそうに笑いながら、小早川は地下資料室から去っていった。

 小早川が帰ったので、達也も調べ物を再開したのだが、またすぐに別の来客があって作業を中断する事になってしまったのだ。

 

「司波君、居るかしら?」

 

「何の御用でしょうか、小野先生?」

 

「平河さんの事に決まってるでしょ。カウンセリングをするから司波君も来てくれないかしら?」

 

「……見ての通り忙しいのですが」

 

「九校戦、無頭竜、データ……」

 

 

 ブツブツと嫌味を言い出した遥に、達也は辟易とした感じで調べ物を諦めてカウンセリング室へと同行する事を承諾した。

 

「小野先生、何時までも根に持ってると精神的に良くありませんよ? カウンセラーが本業なら分かってるとは思いますがね」

 

「君があんな事しなければ、私だってもう少し精神的余裕が持ててるわよ!」

 

「もらったものを如何するかまでは制約を受けておりませんが。それに十分報酬は払ったつもりですが? 必要なら上乗せしましょうか?」

 

「結構よ」

 

 

 達也が言ってる事のほうが正論で、遥の逆恨みだという事も理解しているのだが、遥としてはこの妙に大人じみた学生に対して負けを認めるのは受け入れがたいのだ。もちろん、ブルームと自身を優秀だと思いこんでいる学生よりかは、達也の実力を受け入れているのだが。

 

「それで、平河先輩は今日も学校に来てたのですね」

 

「まぁ、今日は選考結果が出る日だからね」

 

「選考結果? あぁ、論文コンペティションの」

 

「彼女は有力候補だから、結果を見に来たのでしょうね」

 

 

 達也としては自分に関係の無い事だったので結果は見てないし、誰がどんな論文を書いたのかも知らない。だが説得に必要なら、今度読ませてもらうと心の中で思っていたのだった。

 

「それで、平河先輩の結果は?」

 

「第三位、見事に代表に選出されたわ。ちなみに二位が五十里君で、一位が市原さんよ」

 

「そうですか。ならそれを軸に小野先生が説得すれば良いじゃないですか。本業なんですよね?」

 

「一々嫌味っぽいわね、君の言葉は。私より君が説得した方が効果的だと上が判断したんだからしょうがないでしょ。君も一度引き受けたんなら最後までしなさい」

 

「俺は保留してたんですが?」

 

 

 正式な答えをする前に強引に遥が達也に手伝わせたのであって、達也の言うようにまだ返事はしてなかったのだ。

 

「もう手伝ってるんだから今更でしょ。それに、昨日の事を話す平河さん、とっても楽しそうよ」

 

「そんなもんですかね? 普通に送り届けただけなのですが」

 

 

 嫌々ながらも平河小春を説得するのに協力する達也は、やはり深雪が思ってるようにお人よしなのかもしれなかった。




何か深雪の出番が減ってる気がする……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。