劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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誰も招かないだろう……


招かれざる客

 達也が放った徹甲想子弾の先にいるのはベガ。「拒絶」の念の下に硬く押し固められた想子の砲弾に胸を撃ち込まれたベガが、激しく痙攣しながら堤防の上でひっくり返り、海に落ちる。

 徹甲想子弾は、その一発ではなかった。レグルスが一瞬で消滅し、ベガが一撃で戦場から脱落する。あり得ざる現実に立ち尽くすデネブを、達也の徹甲想子弾が襲う。デネブは堤防のこちら側に転げ落ちた。

 立ち尽くしていたのはデネブだけではなかった。リーナはヘルメットのバイザーを上げて、路上でのたうち回るデネブを呆然と見つめている。自分があれほど苦戦した三人を、達也が一瞬で無力化したのが信じられないのだ。

 

「(そりゃ達也の方が強いって知ってるし、達也の魔法があれば多少時間がかかっても勝てるとは思ってた。けど、この一瞬でスターズ一等星級魔法師を三人も無力化するなんて……もしかしたら私は、達也の実力を見誤っていたのかしら……)」

 

「リーナ、その女を見張っていてくれ」

 

 

 達也はリーナがショックを受けている事も、彼女が誤解から自分の戦闘力を過大評価していることも理解していた。達也が「スターズの成れの果て」を短時間で無力化出来たのは、不意打ちの側面が強い。だが今、それを説明している時間は無かった。パラサイトの本体が現れ、非物質生命体としての活動を始めていない。このステージが本番であり勝負所だ。

 達也は体内で想子を練り上げ、パラサイトの本体目掛けて放出した。術式解体のように正面一方向からではなく、前後左右上下、六方向から同時に。

 パラサイトは達也の想子流を押し返そうとした。それが不可能だと理解したらすぐに、自分から押し流されてこの場から逃れようとした。しかし前後左右から同じ強さで圧縮され、上下はしっかりと押さえられている。パラサイトは想子で殻を作り、内側の霊子情報体を守ろうとした。

 しかしその想子が、外から押し寄せる想子流の侵食を受ける。パラサイトは自然に回転しながら、空の中に浸透する自分のものではない想子に固められていく。

 達也の放った想子流が、小さな領域に収束していく。最終的に、直径三センチの球状空間内に全ての想子が固定された。堤防のコンクリートから十センチ――相対高度十センチに浮かぶ、直径三センチの非物質球体。『封玉』が「レグルスだったもの」を幽閉した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深雪と水波は、達也の言い付け通り病室に戻っていた。深雪は一人掛けのソファで読書、水波はリクライニングを起こしたベッドで試験勉強の続きだ。電子ペーパーのページをめくっていた深雪が、ふと顔を上げた。

 

「……随分と素早いわね。見張られていたのかしら?」

 

「深雪様?」

 

 

 自分が話しかけられたと思って、水波はその意味を尋ねる。だが深雪のセリフは、少し大きめの独り言だった。だがらといって、深雪は水波の問いかけを無視したりしない。

 

「水波ちゃん、来たわよ」

 

「それは、もしかして!?」

 

 

 水波が教科書を閉じ――端末の電源を切ったという意味だ――ベッドから足を下ろす。寝間着姿ではなかったので、慌てて着替える羽目には陥らなかった。

 

「ええ」

 

 

 深雪は頷き、インターホンで警備室を呼び出す。小さな画面に夕歌が登場し、深雪が話しかける前に夕歌の方から話しかけてきた。

 

『深雪さん、お客様よ』

 

「六方向からパラサイトの気配を感じます」

 

『……よく分かったわね。センサーの反応でもその通りよ』

 

 

 深雪は魔法的知覚も平均的な魔法師を大きく凌駕していたが、卓越した作用力に比べれば一段落ちる印象があった。夕歌の驚きはその先入観に基づくものだったが。

 

「私自身も、封印から解放されていますので」

 

『それが元次期当主候補筆頭だった貴女の、本来の力ってわけね……達也さんがいなくても私が当主の座に就けるわけがなかったわね』

 

 

 夕歌の苦笑と呆れ声に対して、深雪は微笑みを返した。夕歌の方もここで深雪に皮肉をぶつけても時間の無駄だと理解しているので、すぐに本題へ戻る。

 

『じゃあ、九島光宣が何処にいるのかもわかる?』

 

「光宣君の感触はあやふやです。仮装行列と鬼門遁甲で偽装していると思われます」

 

 

 深雪でも分からないのかと夕歌は肩を落とし掛けたが、画面の向こう側の深雪が何かを探っているような気配を感じ彼女の言葉を待つ。白旗を揚げたようなセリフを零した深雪だったが、何かを感じ取ったのか「ですが」と続けた。

 

「他のチームから光宣君の気配を感じませんので、おそらく北東の道路から接近している車両か何かの中にいるのではないでしょうか」

 

『北東の、自走車ね? 十文字家にもそうお伝えします』

 

「はい、お願いします」

 

『深雪さんは病室から動かないでください。院内に侵入されても、こちらで対処します』

 

「分かりました」

 

『……では、これで』

 

 

 物分かりが良すぎる深雪の態度に夕歌は不審感を懐いたようだが、深雪を問い詰めたりはしなかった。インターホンが切れて、深雪が軽くため息を吐く。

 

「(達也様のご帰還は、間に合いそうにありませんね)」

 

「深雪様……?」

 

 

 この状況を判断している深雪を、水波が不安そうに見つめる。そんな水波の顔を見て、深雪はすぐに同性すら魅了する笑みを水波に向ける。

 達也が間に合わないという状況に対して、深雪は彼に対する不満や恨み言、光宣の襲撃に対する不安はまるで存在していなかった。




四葉側からすれば、ただのストーカーですから
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