劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

1818 / 2283
達也の力を封じてたのも津久葉家だしな


津久葉家の魔法

 光宣は隠蔽魔法に全力を注いで、病院の正面玄関脇に隠れていた。自分と、別方向から合流したパラサイドール四体。残念ながらそれ以外の機体は足止めを受けている。予想した以上に戦力が減った事で、光宣は一層慎重になっていた。

 病院の中から十人近い魔法師が駆け出してくる。病院内で最終防衛線を担っていた四葉家の魔法師だ、と光宣は直感的に覚った。その魔法師たちをやり過ごしてから、光宣は建物内部に、慎重に魔法的知覚を向ける。能動的な魔法探知では覚られてしまうリスクがあるから、あくまでも受動的な探知だ。

 

「(残るは深雪さんだけ、か……)」

 

 

 受動的な探知でも、深雪の気配はハッキリと分かった。彼女は自分の存在を隠していなかった。陽動でこの場を離れるのは達也だけだと、光宣自身、予測していた。深雪が水波の側に残っているのは、光宣の想定内だった。深雪の実力の一端は、奈良で見ている。だがあれが深雪の全力だと、光宣は思っていない。そんな甘い考えは持ち合わせていなかった。

 

「(それでも達也さんよりは……)」

 

 

 ――手強くないはず。光宣は自分にそう言い聞かせて、侵入のチャンスを窺った。病院のドアは開いたままだ。後続がやってくる気配もない。四葉家の魔法師は、解放されたパラサイトに意識を向けている。

 市民を人質にするようなやり方は、光宣の本意ではなかった。パラサイトを封印する四葉家の魔法師の健闘を祈りながら、光宣は姿を消したまま、同じくステルス魔法に身を包んだパラサイドールと共に、病院内に侵入する。

 

「(待っていてくれ、水波さん。僕なら君の魔法を奪う事なく、君の怪我を治す事が出来る)」

 

 

 残る障碍は深雪一人になったので、光宣は早くも水波と過ごす日々を夢想し始める。彼女が自分を拒む可能性を完全に失念して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四葉分家の一つ、津久葉家の魔法師は精神干渉系魔法を得意としている者が多い。今回、夕歌に率いられている八人は精神干渉系の中でも、精神防御に優れている魔法師だ。その八人が、夕歌を囲んで等間隔に円陣を形成した。いや、これは円陣ではなく八角陣か。夕歌はその中央だ。八人の配置は正確に八方位。

 

「乾」

 

「兌」

 

「坤」

 

「離」

 

「巽」

 

「震」

 

「艮」

 

「坎」

 

 

 まず北西に位置する魔法師が声を上げ、西に位置する術者がそれに続く。南西、南、南東、東、北東、そして北の術者が締めくくる。

 古式魔法八卦法のノウハウを取り込んだ精神干渉結界が、夕歌を中心に出現した。対精神干渉系魔法結界ではない。精神干渉系魔法から内部の術者を守るだけでなく、内部の術者が放つ魔法の効力を高める効果も持つ祭壇だ。

 夕歌がポーチから掌大の紙を取り出した。正方形のパーツを中心にして、左右に正方形、上に三角形、舌に繋がる正方形のパーツは切込みで左右等分に分かれている。それは、人の形を抽象化した紙人形、呪符だった。

 夕歌は人形の呪符を左手の人差し指と中指で挟み、顔の前に掲げた。そして、呪文を唱える――のではなく、左手首にはめたCADを右手で操作した。

 夕歌から人形への呪符へ、魔法式が投射される。魔法式を宿した呪符が、夕歌の左手から飛び立つ。呪符はパラサイトに飛び掛かり、コアとなっている霊子情報体を吸い込んだ。ヒラヒラと呪符が風に舞い、紙人形が落ちたのは、八角陣精神干渉結界の内部だった。

 夕歌が新たな呪符を指に挟む。危機を察知したのだろう。パラサイトの一体が、夕歌に雷撃を放つ。その物理的な魔法を、克人のシールドが防ぎ止めた。

 

「あら、ありがとうございます」

 

「十文字家の魔法師がお守りします。津久葉さんは封印に集中してください」

 

 

 克人と夕歌は何日も前に自己紹介を済ませてある。今更余計な挨拶で時間を浪費せず、克人と夕歌はこの状況を鎮める為の、自分の仕事に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海面すれすれを漂っていた封玉を回収し、達也がリーナのところに戻る。守備隊とパラサイト化したスターダストの戦闘はまだ続いているが、戦況は拮抗しており、慌てて介入しなければならない状況ではなくなっている。達也とリーナが戦列に加われば、五分以内に片が付くだろう。

 

「お疲れ様、達也。それもさっき言ってた『封玉』よね?」

 

「パラサイトを一時的に封じ込めるものだ。本格的な封印は四葉家から専門家が来てからしか出来ないからな」

 

「そうなの? それじゃあ、残ってるパラサイトを無力化しておいた方が良いかしら?」

 

 

 リーナがそう提案し、達也もそれが良いかもしれないと考えた時だった。飛行場に続く道から、小型装甲車が近づいてくる。装甲車のドアが開き、運転席から花菱兵庫が降りてきた。

 

「達也様、お待たせいたしました」

 

「兵庫さん。いえ、丁度良いタイミングでした」

 

 

 達也がヘルメットのシールドを上げてそう応えを返し、装甲車の後部ドアに目を向ける。そこに依頼した、パラサイト封印の術者が乗っているはずだ。

 

「リーナ様も、ご助力感謝いたします」

 

「べ、別にこれくらいは当然よ。半分は私が狙われてたようなものだし……」

 

 

 兵庫の謝辞に、リーナは気まずそうに視線を逸らす。元々の目的はプラントの破壊だったのだろうが、スターズ一等星級魔法師の標的は、間違いなく自分だったとリーナは感じていたのだ。




リーナがツンデレの本領を……あっ、あんまりツンデレ好きじゃなかった

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。