劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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バチバチしてるなぁ……


深雪の失敗

 一高から自宅に戻る際、リーナは仮装行列を自分とミアに行使し、全くの別人として達也たちと一緒に駅まで向かう。

 

「悪いわね、深雪。せっかくの下校デートの邪魔をしちゃって」

 

「そう思うのなら、貴女たちは少し時間を置いて、別の電車で移動してもらえないかしら? さっきから目立って仕方ないのよ」

 

「それ、私たちが原因なの? そもそも深雪が歩けばそれだけで注目されそうだけど」

 

「私と達也様が一緒に歩いていても、もうそこまで注目されることはないわよ。この注目は間違いなく、貴女たちが一緒にいるせいよ」

 

 

 深雪が言っている事は間違いではない。だが注目を集めている原因はリーナたちだけでなく、謎の美少女二人にも引けを取らない深雪の美貌が改めて注目されている所為でもある。そしてそんな美少女たちに囲まれていても、全く表情が変わっていない達也にも、改めて注目が集まっているのだ。

 だが周囲の考えなど分かるはずもなく、深雪とリーナは言い争いを開始する。その事でさらに注目を集める結果になっているのだが、お互いにそんな事はどうでもいいようだ。

 

「だいたい何でウチなのよ? 他の家でも十分でしょ」

 

「ご当主様の決定なんだから、文句は私じゃなくてご当主様に言ってよね! まぁ、深雪がご当主様の決定に異議を唱えられるなら、だけど」

 

「くっ……」

 

 

 深雪の立場はあくまでも次期当主の婚約者の一人。四葉本家の当主と叔母と姪の関係であったとしても、その決定に異議を唱えられる立場ではない。それは次期当主である達也も同じ事だ。

 四葉家は別に絶対王政を敷いているわけではないが、真夜の決定に異議を唱える人間は本家だけでなく分家の中にも存在しない。それだけ真夜が力を有しているという事だが、中には真夜に心酔し、彼女の言う事が絶対だと思い込んでいる人間も中には存在する。その一人は分家黒羽家当主、黒羽貢だが、彼は真夜が次期当主に指名した達也の事を、未だに快く思っていない節が見られる。

 黒羽家でわずかな間ではあるが世話になっていたリーナは、貢の態度を目の当たりにして、真夜の言う事が絶対ではないという事を何となく理解しているのだが、深雪が真夜に逆らえないという事は確信しているので、このような挑発行為が出来るのだ。

 

「あの、リーナ……深雪さんも」

 

「「何っ(かしら)」」

 

「こ、このような場所で言い争いをすれば、余計に注目されますので……」

 

 

 ミアに言われて漸く、自分たちが公衆の面前で言い争いをしていたという事を自覚し、二人の熱は一気に冷めていった。そして互いを責めるような視線を向けるが、自分も原因の一つだと自覚している所為か、視線の鋭さはさほどでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 公衆の面前でヒートアップしたのがよほど恥ずかしかったのか、四葉ビルの一室に帰ってくるまでの間、深雪もリーナも一言も発する事は無かった。だがリーナたちが地下に向かうものだと思っていた深雪は、何故か最上階に向かうエレベーターにリーナたちが乗り込んできた事が気になり口を開いた。

 

「何故貴女たちもこのエレベーターに? これは最上階直通のエレベーターよ? 貴女たちは地下で生活するんじゃなかったの?」

 

「万が一の時はそこに隠れる事になってるけど、普段は貴女たちの部屋の隣――水波が使っていた部屋を使わせてもらう事になってるのよ。言わなかったかしら?」

 

「えぇ、聞いてないわね」

 

 

 リーナはわざとその事を言わなかったのではないかと疑い、深雪は鋭い視線をリーナに向ける。先程とは違い、今度の視線は突き刺すような鋭さを持っている。

 

「別に隠してたわけじゃないわよ? 単純に言い忘れてただけだから。そもそも同じビルで生活するのだから、何処にいようが一緒じゃ無い? 気軽に――とはいかないだろうけども、達也に会いに行くことはあるだろうし。それに食事は一緒にするんだしね」

 

「どういう事かしら? 私に貴女たちの分の食事を用意しろと言っているのかしら?」

 

「そ、そんな事は言ってません。私が用意しますので、深雪さんはゆっくりと休んでいてくださいませ」

 

 

 エレベーターの中で魔法を発動されたら逃げ場がないと判断したのか、ミアが二人の会話に割って入る。だが彼女の言葉は深雪を落ち着かせるどころか、余計にヒートアップさせる原因にしかならなかった。

 

「それはつまり、私から達也様のお世話をする権利を奪い取るという事かしら?」

 

「そ、そんな事は言っていません! ですが、食事の用意くらいしか私には出来る事がありませんので……」

 

「そもそも深雪、貴女抜け駆けしてるって分かってるのかしら?」

 

「私が何時、そんな事をしたというのよ?」

 

「世界情勢がこんなだから仕方がないって、他の婚約者は諦めてるみたいだけど、深雪だけが達也との時間を確保してるのは十分抜け駆けよ。というか、一緒の部屋で生活するなんて、何時貴女が第一夫人に決まったのかしら?」

 

「寝室は別よ!」

 

「でもリビングで甘えたりはしてるんじゃないの? これは世界情勢が落ち着いたら、達也には深雪以外の婚約者を抱いてもらうしかないかしらね」

 

「達也様はご卒業までそういう事はしないと仰っています!」

 

「あら? 私は『抱いてもらう』としか言って無いけど? 深雪はいったい何のことを思い浮かべたのかしら?」

 

 

 リーナのしたり顔を殴りたい思いに駆られながら、深雪は羞恥に顔を染めリーナから――達也から視線を逸らして早く最上階に到着しないかとエレベーターに表示されている階数を凝視するのだった。




リーナに言い負かされるとは……
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