劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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黒羽との関係は良好


リーナの情報網

 ミアが作った夕食を摂り、リーナは閲覧可能な限りの情報を端末で集めていた。その情報の中には、光宣の行方も入っていた。

 

「リーナが光宣君の事を気にしているなんて思わなかったわ」

 

「これでも親戚筋ですからね。妖魔と化した親戚を、せめて私が止めてあげようかと思ったのよ。九島ショーグンを手に掛けたのは、彼にとっても予定外の事だったでしょうけども。だからといって許せることでもないから」

 

「殆ど繋がりは無かったんでしょ? 何故リーナが九島閣下の事で光宣君を恨むのかしら」

 

「何故って……私の帰化に九島ショーグンが一枚噛んでる事は深雪だって知ってるでしょ? あの人がいなかったら、私の帰化はもう少し後になっていたでしょうし」

 

「そういえばそうだったわね……」

 

 

 USNAの国家公認戦略級魔法師であるアンジー・シリウス少佐であるリーナが、あっさりと日本に帰化出来たのは、九島家の血が流れているのもあるが、九島烈が後押ししたからであると深雪は知っている。烈が達也の事を特別視していたことも――それが良い意味なのか悪い意味なのかは、考えないようにしていた。

 

「そもそもパラサイトはステイツから日本に流れてきた妖魔。ステイツにも日本にも関係が深い私が関わろうとすることが、そんなにも不思議かしら?」

 

「だって貴女、つい昨日まで巳焼島に引き篭もっていたのよ? 情報を共有していない貴女が今更参戦しても、他の方の邪魔になるだけだと思うけど」

 

「……言われなくても分かってるわよ。でも、何かしたいと思ってしまうのよ」

 

「それにね、リーナ……光宣君を捕らえるのは達也様のお役目。邪魔をするのなら貴女でも容赦しないわよ」

 

 

 深雪の口調と雰囲気から、冗談ではなく本気で自分を止める気だとリーナは覚り、彼女も表情を改めて深雪と向かい合う。

 

「確かにパラサイト化した光宣に対抗出来る人間は達也くらいでしょう。でも私だってあっさりとやられるつもりは無いわよ」

 

「でも貴女ではパラサイトを封印する事も、斃す事も出来ない。貴女に出来るのは精々、パラサイトの宿主となっている光宣君を殺すことくらい。それではパラサイトの脅威を排除した事にはならないどころか、余計な手間が増えるだけよ?」

 

「さすがの私だって、考えなしに光宣の事を殺すつもりは無いわよ。というか、前回の件で宿主を殺したらパラサイトが自由になってしまうって学習してるし……」

 

 

 前回のパラサイト事件の際、リーナは達也の忠告を聞かずに宿主を殺した結果、パラサイト本体を開放してより面倒な事にした前科がある。そしてその尻拭いを達也にさせたのだ。

 

「悪い事は言わないから、リーナは大人しくしていた方が良いわよ。光宣君捕縛作戦には達也様だけでなく、四葉家や十文字家、七草家からも参加者がいるのだから。貴女の存在が達也様に不利益をもたらす可能性だって十分にあるのよ」

 

「何で私の存在が達也に――」

 

「表向き日本はアンジー・シリウス少佐を匿ってなどいないの。幾ら貴女が九島リーナを名乗っていたとしても、USNAからしてみれば貴女は裏切り者のアンジー・シリウス少佐でありアンジェリーナ・クドウ・シールズなのよ。その貴女を達也様が――四葉家が匿っていたと知られれば、七草家当主が何をするか分からない」

 

「七草家当主って、真由美たちの父親でしょ? そんな事をする人なの?」

 

「貴女は知らないのだったわね……」

 

 

 深雪は仕方がないといった感じの表情でため息を吐き、七草弘一の為人を知っている限りの範囲でリーナに教える。

 

「四葉家と七草家が冷戦状態になっているのは、七草家当主である七草弘一殿が四葉家の内情を探ろうとしていたことが叔母様にバレたからなの。彼は何とかして四葉家の弱みを握って、十師族内での発言権を強めようとしているらしいわ。そんな人がリーナの事を知れば、当然の如く脅しに使ってくるわ。そうなれば四葉家は七草家に対して下手に出るか、七草家を滅ぼすかしなければならなくなるわ。どっちにしても達也様にとって不利益にしかならないの。だから貴女は大人しくしていた方が達也様の為になるの、分かった?」

 

「……分かったわ。でも、情報を集めるくらいはしたっていいでしょ? 何も出来ないにしても、何も知らないのは嫌なのよ」

 

「まぁ、それくらいなら構わないとは思うけど……でもリーナ、光宣君の情報は簡単に手に入る物ではないわよ?」

 

「それくらい知ってるわよ。光宣は大陸の亡霊を取り込んでいるって噂だし、九島家の『仮装行列』と大陸の魔法である『鬼門遁甲』を併用して街路カメラすら欺いているって聞いたし」

 

「誰から?」

 

「巳焼島に向かう前、亜夜子から」

 

「貴女が聞いたのね」

 

「当然でしょ? あの亜夜子がうっかり口にするわけ無いじゃない。幾ら同じ婚約者という立場だからと言って、あの子が公私混同すると思ってるわけじゃないでしょ?」

 

「亜夜子ちゃんはそういう事をする子じゃないもの。でもまぁ、亜夜子ちゃんも達也様に確認して情報を流したのでしょうから、他の人が知っている程度の情報しか教えてもらえてないんじゃない?」

 

「そんな事分かってるわよ。だから独自に調べてるんじゃないの……あまり成果は無いけど」

 

 

 悔しそうに俯くリーナを見て、深雪は「少し苛めすぎたかも」と内心ちょっとだけ反省したのだった。




情報収集能力は低いですから……

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