将輝が新ソ連艦隊群とにらみ合いを演じている頃、リーナは達也と深雪についていき水波のお見舞いにやってきていた。
「ハイ、水波。元気かしら?」
「リーナ様……何故貴女がこちらにいらっしゃるのでしょうか?」
水波はリーナが巳焼島に潜んでいると思っていたので、彼女がこの場に現れたことに衝撃を受けていた。もちろん、病室に入るまでは仮装行列で全くの別人に変身していたのだが、病室に入った事でその変装は解いている。もっとも、変装したままでも水波はリーナだと見破っただろうが。
「私の親戚が水波の事を狙ってるって聞いて、居ても立っても居られなくなったって言ったら、信じるかしら?」
「……リーナ貴女、そんなバレバレな嘘をよく平然と言えるわね」
水波が何かを言う前に、深雪が冷めた目を向けながらツッコミを入れた。リーナも冗談としてもレベルが低いと分かっていたのか、深雪のツッコミを受けて一つ咳ばらいをしてから真面目な表情を作る。
「巳焼島に襲撃を掛けてくるパラサイトがいるかもしれないから、私はこっちで匿われる事になったのよ。万が一私が負けて、パラサイト化した時の面倒を考えての事なんでしょうけども、私からしてみれば願ったりかなったりよ。そろそろあの島での生活に飽きてきたところだったから」
「匿われてる身なんだから、もう少し大人しく出来なかったのかしら? 花菱さんからの報告書を見る限り、相当数訓練場の壁を破壊したらしいじゃない」
「あれは……ちょっと加減を間違えただけよ。自分本来のCADじゃないから、細かな加減が難しくて」
「そうなの? なら魔法の訓練を自重するなりしなさいよ。というか、細かな調整が出来ないで良く戦略級魔法なんて扱えるわね」
「あれは専用のCADがあってようやく使えるんだからね! それ専用に調整されてるから、使う際には座標を入力すればそれほど細かい作業は必要無いのよ」
「戦略級魔法で思い出したけど、貴女確か達也様の腕を焼き落としたのよね? その時のお礼参りがまだだったわね」
「いつの話を持ち出してるのよ!? というか、病院で魔法を発動させるのはマズいんじゃないの?」
身の危険を感じたリーナが正論で深雪を踏みとどまらせる。さすがに病院で怪我をするというみっともない事で自分の居場所を知られるのは避けたかったのか、リーナは何時にもまして真剣に深雪を説得していたように感じられた。
「ところで水波はそろそろ退院なのよね? 無事に退院してしまえば光宣が貴女に接触してくる可能性は低くなるわね」
「だからこそ、水波ちゃんが退院する日を狙って襲撃してくる可能性が高いのよ。恐らくは何処かに陽動を掛けて、達也様を病院から遠ざけてね」
「それが巳焼島ってわけ? でも分かり切った陽動に付き合う必要はあるの?」
「今あの施設を破壊されるのは避けたいからな。幾ら直せるとはいえ、一度壊された施設があっという間に直ったら、今度は別の面倒が発生する」
「そういえば、達也の魔法は秘密だったんだっけね……教えてもらった時は驚いたけども、達也なら何でもありかなって思えたのも事実だからすっかり忘れてたわ」
「そのお陰で今貴女は五体満足で生活出来てるんだものね? 達也様の腕を焼き落とした罪、本来なら死んで償うべきなのだけど――」
「まだ言ってるの!? というか、深雪が魔法を発動させれば、それだけで水波に危険が及ぶんじゃなかったの?」
「……分かってるわよ」
いくら回復してきているとはいえ、深雪の高い干渉力の所為で水波にダメージが及ぶ可能性は変わっていない。深雪はその事を失念していたわけではないが、改めてリーナに言われて反省する。
「お邪魔するわね」
「っ!」
「そんなに警戒しないでよ。私は四葉分家の一つ、津久葉家の人間。というか、達也さんの婚約者の一人で、貴女とも会った事あるはずだけど?」
「……まったく気配を感じなかったから」
「油断し過ぎよ。まぁ、達也さんや深雪さんは気付いてたみたいだけど」
いきなり部屋に入ってきた夕歌に驚いたのはリーナ一人。達也は当然の事として、深雪や水波も気付いていたのに自分はと、リーナは自分の気のゆるみを反省し、夕歌に視線を向けた。
「それで、気配を殺して病室に入ってきた理由を聞かせてもらえるかしら? まさか、ただ私を驚かせたかっただけじゃないわよね?」
「もちろん、そんな事をしている暇は無いもの。達也さん、新ソ連艦隊に動きがあったわ。そして国防軍は一条将輝に対して戦略級魔法の使用を許可。その反動で巳焼島に近づいていた潜水艦がレーダーに引っ掛かったわ。船籍は明らかになってないけど、中にパラサイトの反応があったわ」
「分かりました。リーナ、この場はお前に任せる」
「達也は?」
「さっきも言ったが、直せるから壊させていいわけじゃないからな。巳焼島に行ってパラサイトを退治する」
「達也様、ご武運を」
達也の武運を祈る必要など無いのだが、深雪は何時も達也が出撃する時に心の中で呟く言葉を、今日は声に出して達也に告げた。達也は軽く頷き、夕歌に視線を軽く向けてから駐車場に停めてあるエアカーへ向かったのだった。
そう考えると、よく五体満足で過ごせてるよな、リーナって……