劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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似てても不思議ではないだろ


魔女との共通点

 達也が病室から出て行ってすぐ、リーナは謎の気配を感じ視線を外へ向ける。

 

「リーナ、どうかしたの?」

 

「いや……ステイツにいた時に感じた気配が近くにあるような気がして……」

 

「その気配って、何時感じたもの?」

 

「スターズの宿舎で寝泊まりしてた時、夢の中で感じたものに似てるような……でもあれは夢だし」

 

「どんな夢だったの?」

 

 

 深雪が執拗に尋ねてくるので、リーナは何かあるのかと疑う視線を深雪に向けるが、その程度で深雪が大人しくなるはずがないと思い直し、記憶の奥底に追いやっていた当時の事を必死に思い出す。

 

「確か……達也がトーラス・シルバーだってレイモンド・クラークがベゾブラゾフたちに話した次の日だったかしら……その日は疲れててベッドに入ってすぐ眠くなったんだけど、確か私が敵に囲まれた夢だったかしら。でも簡単に撃ち落せてたから、てっきりシューティングゲームをやってる夢だったと思ったんだけど、その時に不穏な気配を感じた――ような気がするのよね。でもその気配を感じてすぐ、夢の中で達也の気配を感じて、その後は不穏な気配も何処かに行っちゃったから、夢の中だけのものだったんだろうって思ってたんだけど」

 

「達也様が貴女の夢の中に出てきたの?」

 

「いや、達也の姿はなかったけど、何となく達也の気配を感じたのよ。でも達也は日本にいるはずだし、それも夢だからだと思ってたんだけど……もしかしたら、達也が私にパラサイト対策として何か施してたのかもしれないって、今ちょっと思ったのよ」

 

「ということは、リーナが感じた気配というのはパラサイトの気配……」

 

 

 深雪が外に目を向け、集中し始めたのを見て、リーナもつられるように外へ目を向け気配を探る。だが意識すればするほどパラサイトの気配を掴めなくなるリーナとは違い、深雪は何かを感じ取って病室にあるインターホンを操作し始める。

 

「夕歌さん、パラサイトです」

 

『分かっています。深雪さんたちは病室から出ないようにしてください。何かあったら、私が達也さんに怒られるんですから』

 

 

 深雪と夕歌の会話を横で聞いていたリーナは、光宣がこの病室に攻め込んで来ようとしているのだと理解した。

 

「私はさっき達也に貰ったCADがあるけど、深雪は持ってきてるの?」

 

「必要ないわ」

 

「えっでも……」

 

 

 それでは水波を光宣に奪われてしまうのではないかと心配したが、深雪からは一部の不安も感じ取れない。達也が東京から離れてしまった今、深雪がこれほど安心しているのはおかしいとリーナは感じたが、虚勢を張っているわけでもなく、深雪は本当に光宣に対して不安を懐いていないのだと彼女の表情から理解した――理解させられた。

 

「何か策があるのね?」

 

「えぇ。ことパラサイトに対してだけで見るなら、達也様より私の方が相性が良いの」

 

「どういうこと……?」

 

 

 リーナは達也の魔法に関しては聞かされているが、深雪の魔法については自分が受けたことがある魔法しか知らない。だから深雪がパラサイトに対して有効な手段を持っているといわれても、正直ピンと来ないのだ。

 

「ただ問題は、私が魔法を使って水波ちゃんに悪影響が出ないかが心配なのよね……もちろん、水波ちゃんに危害を加えるつもりは無いし、水波ちゃんを光宣君に引き渡すつもりも無いけど」

 

「そもそも水波の治療に関しては、達也に秘策があるって聞いてるけど?」

 

「そうね。今の達也様では少し難しいかもしれないけど、少し場数を踏めば十分可能性のある話だと私も思うわ。実験台は遥か海の向こうから沢山やってきてくれることだしね」

 

「深雪……今の顔、達也の前でしてみたら?」

 

「顔? 何処かおかしなところがあったかしら?」

 

「いや、うん……さすがは夜の女王と言われている人の姪だなって感じかしら?」

 

 

 リーナは水波に同意を求めるが、水波の角度からはさっきの深雪の表情は見えなかったので、水波はリーナの視線の意味を理解出来なかった。

 

「叔母様の表情がどういった物かは分からないけども、血縁者だから似てる部分はあると思うわよ」

 

「そう、ね……それで、達也の秘策っていうのはいったいどういうものなの?」

 

「詳しい事は言えないけど、精神干渉系魔法を使った治療、って事よ。達也様は精神干渉系魔法に対する適性が無いという事にされてたから、その訓練を積んでなかったのよ。だから攻め込んできた愚かな人たちを使って経験を積み、水波ちゃんの治療に挑んでもらう事になってるのよ」

 

「それって人体j――」

 

「ただ臨床データを取るだけよ?」

 

「………」

 

 

 深雪の、裏が百パーセントあるであろう、それでいて反論出来ない笑みを向けられ、リーナは言葉を失う。もし先ほどリーナが思った事を口にすれば、自分がその被験者一号にされかねない程のプレッシャーを感じたのだ。

 

「とにかく今は、水波ちゃんを無事に退院させることだけを考えれば良いのよ。光宣君がここに来ても、水波ちゃんを連れていく事は不可能なのだから」

 

「そうね……」

 

 

 水波の気持ちはリーナも知っているので、いくら光宣が熱い想いを伝えたとしても水波には響かないだろうと確信している。それでいながらリーナは、毛先の程も光宣に同情はしていなかった。




さすがのリーナも指摘できない……

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