劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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水波が攫われなかったルートです


IF平和ルート 帰還

 光宣を捕まえ、パラサイトがUSNAから発生し、その原因がディオーネー計画の中心人物であるエドワード・クラークの息子、レイモンド・クラークであると発表したお陰で、世間の達也への風当たりはだいぶ良くなっていた。そのお陰で、達也は久しぶりに新居の方へと戻ってくることが出来たのだ。

 

「達也さん、お帰りなさい!」

 

「あ、あぁ……ただいま」

 

 

 今にも飛びついてきそうな勢いなほのかに歓迎され、達也にしては珍しく気圧されていた。それだけほのかの気持ちが達也にも伝わっているという事なのだが、この場にいるのは達也とほのかの二人だけではない。

 

「達也さん、お帰り」

 

「あぁ、雫。ただいま」

 

「ホントに心配してたんですよ? 達也さん、このままこっちに戻ってこないんじゃないかって」

 

「ほのかは何でも悪い方に考え過ぎなんだよ。達也さんならあの程度の事で負けるわけ無いじゃん」

 

「そうかもしれないけど、万が一って事もあるでしょ? 世界ぐるみで達也さんの事を悪者に仕立て上げようとしてたんだし、日本のマスコミも一時期は達也さんを外国に差し出せとか言ってたんだし」

 

「あれはUSNAが仕組んだ世論操作だよ。その証拠に達也さんの事を差し出せと声高に叫んでたメディアは、今の状況をあまり報道してない」

 

 

 雫の指摘したように、USNAの世論操作の影響を色濃く受け、達也を日本から追い出すべきだと報道していたメディアは、USNAの現状やベゾブラゾフの現状を報道してはいない。その所為で民衆から見放され、経営は一気に傾いている。

 

「とにかく、これでもう達也さんが何処かに行ってしまう心配をしなくてもいいんですね? これからはちゃんとここに帰ってきてくれるんですよね?」

 

「あ、あぁ……前と同じように、深雪のところと交互になるだろうか、ここにもちゃんと帰るつもりだ」

 

「達也さんは暫く深雪のところにいたんだから、今日からしばらくはここで生活すべき。そうじゃないと私たちが暴動を起こす」

 

 

 口調こそ平坦だが、雫からはただならぬ覚悟が滲み出ている。達也だけではなく、彼女と付き合いが長いほのかですら、少し驚くほど雫は本気だった。

 

「まだ水波の容態が安定したわけじゃないから、今すぐには無理だが、水波の容態が安定したらそうするつもりだ」

 

「そう、ならいい」

 

 

 放っていたプレッシャーをしまい、ホッとした表情で達也を見上げる。ほのかの陰に隠れて分かりにくいが、雫も結構な甘えん坊なのだ。

 

「そういえば達也さん、ディオーネー計画の裏の目的を発表した所為で、宇宙開発は一時中止になったって父さんが言ってたけど、本当なの?」

 

「計画の立案者たちの腹積もりをバラされたから、出資者たちが計画の見直しを提案したらしい。計画自体に問題は無いにしても、立案者たちに裏の目的があったのだから、一度精査すべきだと」

 

「そもそも達也さんのプロジェクトが軌道に乗れば、魔法師が兵器として使われる現状は打破出来ますし、無理に宇宙開発に乗り出さなくても良くなりますからね」

 

「とにかく今日はパーティーだって七草先輩が張り切ってたから、達也さんもそれまでゆっくり身体を休めて。多分今日は、夜通し騒ぐことになると思うから」

 

「あの人ならありえそうだ」

 

 

 雫とほのかの歓迎から解放され、達也は自室へと向かう。部屋に入ってすぐ、部屋の外に気配を感じ、達也は相手に気付かれないように扉に近づき、一気に扉を開いた。

 

「エリカ、何の用だ」

 

「あ、あはは……久しぶりに達也くんが戻ってきたって思ったら嬉しくって、つい……」

 

「エリカは嬉しいと人の部屋の中を盗み見しようとするのか?」

 

「そうじゃないわよ! ただ、ここ暫く達也くんとの時間を確保出来なかったでしょ? 今日のパーティーだって七草先輩主導って事になってるけど、ここで生活してる全員が同じ気持ちだったんだから」

 

「悪かったな。いろいろと問題が山積みだったのは知っているだろうが、だからといって疎かにして良い事では無かったな」

 

「ううん、達也くんの邪魔をしたかったわけじゃないし、あの問題をほったらかしにしてたら達也くんを失うかもしれないって分かってたから……でも、寂しくなかったって言える程嘘が上手じゃないのよね」

 

 

 今にも泣きそうな表情で笑うエリカを見て、達也は申し訳ない気持ちに苛まれ、彼が処理出来る限界を超え無表情になる。達也がその表情になる時がどういう意味を持っているのか知っているエリカは、今度は満面の笑みを浮かべて達也に抱き着く。

 

「あたしたちにも、そんな表情をしてくれるんだね」

 

「婚約者に寂しい想いをさせていたとしって、無関心でいられる程俺は人でなしではないつもりだ。悪い人ではあるが」

 

「人でなしはクラークとかベゾブラゾフたちでしょ? 自分たちの目的の為に達也くんを亡き者にしようとしたり、宇宙に追いやろうとしてたんだから」

 

「十三束の母親も、漸く安寧の日々を取り戻せたと、四葉家を通じて手紙が届いた。これで十三束も落ち着くだろう」

 

「そういえば、達也くんの事を目の敵にしてたもんね」

 

 

 ディオーネー計画への参加拒否を発表し、ESCAPES計画を発表した直後の騒動を思い出し、エリカは苦笑いを浮かべるのだった。




十三束は原作では出番なくなってますけどね……

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