劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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確かにらしくはないな


らしくないセリフ

 達也の帰宅を祝うパーティーの準備が進められているリビングの隅で話をしている姉妹を見つけ、達也は彼女たちに声を掛ける。

 

「何をしてるんですか?」

 

「達也さん……私たちは料理に関しては戦力外ですから、せめて飾り付けや配膳を頑張ろうと」

 

「達也くんだって、私たちが作った美味しくない料理より、光井さんや千葉さんが作った美味しい料理の方が良いでしょ?」

 

「こういう時の料理は味ではなく気持ちだと思うが」

 

「なにそれ、全然達也くんらしくないよ?」

 

「そうか?」

 

 

 千秋が笑いながらそう指摘する。その隣では小春も笑みを浮かべながら妹の言い分に頷いて同意していた。達也としては一般論として言っただけなので、自分らしくないと指摘されても何も思う事はない。

 

「それにしても、USNAの裏の目的が暴かれた時の十三束君の反応、達也くんにも見せてあげたかったな」

 

「千秋、前から言ってるけど、随分と悪趣味よ? 十三束君だって、達也さんが悪いわけじゃないって心の何処かでは分かってたんだから」

 

「でもお姉ちゃん。十三束君は何とかして達也くんをディオーネー計画に参加させようとしてたんだよ? 達也くんがUSNAに行ったら世界の損失だって分かってるのにさ」

 

「お母さんが倒れちゃったんだから、近くにいる原因を責めたくなるのは仕方がない事だと思うわよ? 千秋だって昔、私が挫折した原因は達也さんだって信じ込まされていろいろとやったんだし」

 

「その事は忘れてよ! というか、そんな昔の事を引き合いに出さなくてもいいじゃないの!」

 

 

 周公瑾にいいように利用されていた事を言われ、千秋は顔を真っ赤にして小春に抗議するが、小春は笑いながら妹の抗議を聞き流している。

 

「そういえば、リーナさんはどうなるのかしら?」

 

「どう、とは?」

 

「いや、九島老師のお陰で帰化出来たわけだし、老師は死んじゃって九島家は御取り潰しが決まってるわけじゃない? このまま九島姓を名乗っていても大丈夫なのかなって」

 

「お姉ちゃん、心配し過ぎだよ。どうせあと数ヶ月で私たち全員司波姓もしくは四葉姓になるんだから。というか達也くんは既に十八になってるんだから、籍を入れるだけなら今すぐにでも出来るわけなんだし、苗字の事を気にする必要は殆どないって」

 

 

 千秋の言うように、籍を入れるだけなら今すぐにでもする事が出来る。実際真由美などは何度か達也に婚姻届けにサインするようにせがんだりもしている。達也が高校を卒業するまでしないと言っているのは「そういった行為」なので、結婚自体はしても構わないと思っているのだが、深雪の事を考慮してしていないのだ。

 

「さっきから何の話をしてるの?」

 

「七草さん……あれ? 七草さんは調理担当じゃなかったの?」

 

「ちょっとしたロシアンルーレット的な料理を作ろうとして、ほのかちゃんに怒られちゃった」

 

「当たり前です。七草さんの冗談は時として冗談の域を超える時があるんですから」

 

「私だって弁えてるわよ」

 

 

 小春に怒られたのが意外だったのか、真由美は唇を尖らせてそっぽを向く。その仕草が子供っぽいと思われたら嫌だと思ったのかすぐに真顔に戻ったが、千秋は真由美の表情を見て子供っぽいと思っていた。それが表情から読み取れたからか、真由美は再び頬を膨らませてそっぽを向く。

 

「小春さんにならともかく、千秋ちゃんにそんな風に思われたくないわ」

 

「そんな事言って、お姉ちゃんが子供っぽいのは今に始まった事じゃないじゃん」

 

「何よ香澄ちゃん。随分とお姉ちゃんの事をバカにしてるみたいね」

 

「別にバカにしてるわけじゃないけど、お姉ちゃんって昔から達也さんの前では子供っぽい反応をしてたでしょ? 泉美から色々と聞かされて知ってるけどさ」

 

「ちょっと待って! 泉美ちゃんは何処で見てたわけ!?」

 

「あぁ。お姉ちゃんに変な虫がつかないように家の人間を使って監視させてたんだよ。知らなかった?」

 

「知らないわよ、そんな事!」

 

 

 自分が妹に監視されていたと知らされ、真由美はかなり驚いた表情を浮かべている。何度かそんな感じをうかがわせる発言はあったが、実際にそんな事をしているとは思っていなかったのだろう。

 

「というか、変な虫って何よ!? 私だってちゃんと人を見る目はあるつもりなんだけど!?」

 

「お姉ちゃんに見る目があるかどうかは関係なかったんだよ。お姉ちゃんに近づくだけで排除対象だったみたいだし」

 

「排除対象って……それじゃあ十文字くんや達也くんもそうだったていうの?」

 

「いや~……達也さんも克人さんもボクたちじゃ排除できないでしょ……というか、二人ともそんな事を微塵も思ってないって見ただけで分かったし、泉美もなにがなんでも排除しようとはしなかったし」

 

「それは確かに……今だってその二人には勝てる気がしないものね……というか、あんな決闘を見せられたから私は間違っても二人に逆らおうとはしないわね……」

 

 

 達也と克人の一騎打ちを思い出し、真由美は急に寒気に襲われた。実際に自分が二人と対峙したわけではないのに、何故か真由美の中で二人が自分に襲いかかってくる光景が思い浮かんだのだ。それがあまりにも恐ろしかったのか、真由美はそっと達也の死角に移動したのだった。




真由美のロシアンルーレット料理は冗談にならないだろうしな……

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