劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ギリギリアウトなような気も……


ギリギリの会話

 準備が終わり、さっそくパーティーが始まろうとしたタイミングで、達也は背後から声をかけてくる少女に視線を向ける。

 

「そんなとこで何をしているんだ?」

 

「私はあまり目立つことをしたくありませんので。それに四葉関係者として、まだ完全に終わっていない事で盛り上がっているところを見せたくありません」

 

「気にし過ぎだ。亜夜子だって今回は活躍してくれたんだし、エリカあたりに見つかったら大変な事になるかもしれないぞ?」

 

「それが嫌だからこうして達也さんの陰に隠れてるんじゃないですか」

 

 

 四葉関係者云々というのは建前で、本音はエリカに絡まれて大変な思いをしたくないだけの亜夜子に、達也は小さく笑みを浮かべながら彼女の頭を撫でる。

 

「達也さん、この行為は?」

 

「すまない、癖が出た」

 

「深雪お姉さまですか……」

 

 

 達也は前から深雪が落ち込んだ表情を見せると頭を撫でて機嫌を取る癖があると自覚しているが、深雪以外にもこの癖が出るのはどうにかした方がいいと思っている。だが撫でられた方が嬉しそうな顔をするので、無理に止めなくても良いのかもしれないと最近になって思っている。

 

「達也さんに撫でてもらいたい人は大勢いるのに、何故いつも深雪お姉さまばかりなのでしょう。昔はあれほど達也さんの事を毛嫌いしていたというのに」

 

「別に毛嫌いはしていなかったと思うが。距離感が掴めなくて戸惑っていた風には思っていたが」

 

「深夜様が達也さんに対して愛情を懐けなくなったのも原因の一つかもしれませんが、深雪お姉さまは達也さんの事を使用人のように扱っていたではありませんか」

 

「あれは母さんがそうしていたのを真似していただけだろ。深雪自身の考えでそうしてたわけではない」

 

「そうかもしれませんが、達也さんの実力を見せられたからと言って、あっさりと手のひらを返したように甘えるなど、見ている側から言わせていただくと、非情に不快です」

 

 

 亜夜子は昔から達也にただならぬ想いを懐いていたので、そこに深雪が割り込んできて、あっという間に達也の一番になったのを見て面白いわけがない。深夜が亡くなり、達也と二人暮らしをすると聞かされた時は、本気で司波家に乗り込んで自分も住むと言いたい衝動に駆られた程に。

 

「達也さん、さっきから誰と……あぁ、亜夜子ちゃん」

 

「夕歌さん……貴女、堂々と盛り上がってるみたいですけど、四葉家の一員としての自覚が無いのではありませんか?」

 

「だって私の方の仕事は殆ど終わってるもの。後はパラサイトの封印が解かれないようにする、文弥君の仕事だしね」

 

「………」

 

 

 夕歌の仕事はあくまでもパラサイトを封じる事。その封印を強固なものにするのは亜夜子の弟である文弥の担当だ。そう言われてしまったら亜夜子には何も言い返せない。

 

「だいたいここにいる人は全員、近い将来四葉関係者になるのだから、そんな事を気にする必要は無いんじゃないの? 今回の事件の全容を知らないにしても、達也さんが大変な目に遭って、それが漸く片付いたって事はみんな知ってるんだから」

 

「それもそうですわね。それじゃあ達也さん、改めてお帰りなさい」

 

「お帰り、達也さん」

 

 

 亜夜子と夕歌にそう言われ、達也は何度目か分からない返事をする。達也が素っ気ない態度を取るのは二人にとっては想定内なので、特に気分を害した様子もなく笑みを浮かべている。

 

「それにしても、水波さんが達也さんを選ぶとは……てっきり彼女は光宣君を選ぶと思ったわ」

 

「確かに九島光宣の見た目は麗しい感じでしたが、妖魔となり人であることを止めた彼を選ぶとは思えませんわね。彼女も一応は四葉関係者なのですから、四葉家に不利益となり得ることはしないでしょうし」

 

「確かにあのまま光宣君と一緒に行っていたら、四葉家にもそれなりにダメージはあったかもしれないわね。幾ら達也さんが処理出来るといっても、主犯の側にいたという事実は消せないわけだし」

 

「深雪お姉さまから信頼されていたのですから、その信頼を裏切るような事はしたくなかったのではないでしょうかね。彼女の忠誠心は、ある意味で光井ほのかさんに似ていますから」

 

 

 ほのかの事情を知っている亜夜子は、水波にも依存癖が見受けられると言っている。夕歌も何となくそう感じたのか、亜夜子の言葉に頷いて見せた。

 

「確かに彼女にもそういった感じはしたわね。達也さんか深雪さん、どちらかに決めてもらいたいって」

 

「結局は自分で決めなければ納得出来るわけ無いのですから、達也さんや深雪お姉さまに甘えているだけと言えなくもないですが、彼女の出自を考えれば仕方ないのかもしれませんわね。自分の意思より主の決定の方が大事だと思ってしまっても」

 

「あっ、そうそう達也さん。例の実験体の調達だけど、もう少しで数が揃うらしいわ」

 

「分かりました。わざわざすみません」

 

「構わないわよ。私はあくまで伝言係で、調達してるのは別の人なんだから」

 

 

 いったい何の実験体なのか、どうやって調達しているのかを知らない人が聞けば、それほど危ない会話ではないが、事情を全て知っている亜夜子からすれば、これほど危険な会話は無いと感じられてしまう。それを誤魔化すように、亜夜子は持っていたジュースを一気に飲み干したのだった。




亜夜子はまだ割り切れないんだろうな……

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