劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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多少はマシになるのだろうか


情勢の変化

 深雪たちが買い物を楽しんでいる頃、作業が一段落した達也がお茶を飲もうと共有スペースに降りてくると、意外そうな顔で彼を見詰める人がいた。

 

「てっきり達也くんも出かけたと思ってたんだけど、部屋にいたんだね」

 

「まだ片付けなければいけないことが多いので」

 

「ちょっと待ってて。今紅茶を淹れてあげる」

 

 

 達也に紅茶を差し出し、響子がその向かい側に腰を下ろす。達也は差し出された紅茶を一口含んでから小さく頷いて話しかける。

 

「しかしなぜ響子さんは俺が出かけていると思っていたんです? 俺の現状を考えれば、まだ気楽に出かけてる場合ではないと分かっているでしょう」

 

「昨日の夜エリカちゃんたちが楽しそうに話してるのを偶々聞いてね。深雪さんたちと出かけるのなら達也くんも行くのかな、って思っただけよ」

 

「もう深雪たちには危険はないでしょうし、万が一何かあればすぐにわかりますから」

 

「深雪さんに関してだけ言えば、達也くん以上の護衛はいないからね。他の人が対象でも、達也くんがいれば安全だとは思うけど」

 

「さすがに全員に『眼』を向けているわけではないので」

 

 

 響子は達也が深雪に常に『眼』を向けている事を知っている。もうガーディアンではないが、習慣で深雪の事を『視』てしまうのだ。そのお陰で深雪に危険が迫ればすぐに察知でき、自分が動けない時はすぐに本家に連絡をして対処させている。

 

「水波ちゃんの件は、九島家縁者として改めて謝罪するわ。光宣君だけでなく、九島家が達也くんの邪魔をするとは思わなかった」

 

「九島真言は光宣こそ九島家の完成品だと本気で思っていたようですから。当主の方針に逆らって俺に与する人間がいるとも思えませんし」

 

「それはそうかもしれないけど……」

 

 

 九島家にとって達也は――四葉家は自分たちが十師族から外される事になった原因だと思われている。たとえそれが身から出た錆であったとしても、誰かを恨まずにはいられなかった。その四葉家の人間に一泡喰わせることが出来ると考えて、たとえ暴走だと分かっていても復讐をと考えていた人も一人や二人ではなかっただろう。

 結局その暴走が数字落ちに繋がったのだが、これを四葉家の――達也の所為だと思う人間はいない。それだけの事をしたと自覚しているのと、今回の決定は師族会議だけでなく魔法協会の決定でもある。日本の魔法師に多大なる迷惑と損益を被った罰としてはまだ軽いという家もあるが、一番の被害者である四葉家が今の罰で満足しているので、追加制裁は今のところ実施されていない。

 なお九島家の支持をしていた九鬼家と九頭見家も、今回はさすがに九島家を擁護する事はしなかった。彼らはあくまでも九島家を支持する事で自分たちの力を誇示しようとしていただけであり、九島家が沈むのにそれに付き合うつもりは最初から無かったのだ。

 

「パラサイト問題だけじゃなくて、新ソ連への対応でも、達也くんの名前は大きな意味を持っていたから、さすがのマスコミたちも達也くんをUSNAへ差し出せとは言わなくなったし、結果的に良かったのかしらね」

 

「吉祥寺が余計な事をしてくれた所為で、こちらにまでインタビューを申し込んでくる連中が増えているんですがね……トーラス・シルバーの時に懲りたと思っていたのに、未だに一高に突撃取材を敢行している雑誌社があると、先日校長から本家へ連絡があったらしいですし」

 

 

 授業免除・卒業を保証されているので、達也は学校には顔を出していない。だがそんな事情を知らない雑誌社の人間がいると、達也は真夜から聞かされていた。彼女は達也を責める事はしなかったが、問題が大きくなる前に対処した方がいいのではないかと忠告はした。忠告と言えばは聞こえが良いが、要は早めに対処しろと命令したのだ。

 

「反魔法主義団体も、今回ばかりは大々的に魔法排斥を訴えたりはしていないみたいだしね」

 

「光宣の暴走は彼らにとって格好の事件だったかもしれませんが、魔法師が一般人を守ったのもまた事実ですから。魔法師がいなかったらそもそもあのような事件は起こらなかった、とは言い切れませんから」

 

 

 パラサイトを呼び寄せたのはスターズを裏で操っていたレイモンド・クラークだ。彼は魔法師ではないので、今回の事件の全てを魔法師の所為にするのは些か無理な話であり、彼の父エドワード・クラークが自分たちの安全の為に達也を悪者に仕立て上げようとしていた件も合わせて考えると、一概に魔法を悪と言い切れない状況に彼らもなっているのだろう。

 

「日本で魔法排斥運動をして、海外からの脅威が増えると彼らも学習したのかもしれないわね。国防に魔法は必要だって」

 

「一条の戦略級魔法がいい例になったのかもしれません」

 

「まぁ彼は何処かの誰かさんのように、半島の地形を変えちゃったりはしてないものね」

 

「いったいどこのどいつなんでしょうね、そんなデタラメな魔法を放ったヤツは」

 

 

 響子の言葉を素面で撃退して紅茶を飲む達也。そんな彼の表情が何処か悪戯を思いついた子供のように見えて、響子は思わず笑ってしまった。

 

「達也くんでもそんな事言うんだね」

 

「俺は戦略級魔法なんて使えませんから」

 

「それもそうね」

 

 

 表向きは達也は戦略級魔法師ではなく四葉家の魔法師という事になっているので、響子も達也の嘘に付き合い、この話題はこれで終了となった。




公然の秘密になりつつはありますがね
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