劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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楽しそうな雰囲気


帰りの電車内

 深雪と水波と駅で別れたエリカたちは、新居に帰るために個型電車に乗り込む。元々別行動だったスバルとエイミィは別の電車で、エリカと同じ車両にはほのかと雫の二人が同乗している。

 

「あー楽しかった。やっぱり達也くんが側にいてくれるだけでだいぶ違うわね」

 

「今日は達也さんはいなかったけど、達也さんが抱えてる問題が片付いているからこうやって楽しめたのは事実」

 

「今度は達也さんもご一緒出来ると良いんだけどな」

 

 

 ほのかが零したセリフに、エリカと雫も同意する。独占は出来ないだろうが、集団デートなら可能だろうと考えたのだろう。それなら深雪も文句は言わないだろうし、最悪深雪も抱き込めば達也も断れないだろうと考えたのかもしれない。

 

「今年の夏休みは九校戦もないし、受験生だけどそれ程焦る必要もないから暇ね」

 

「九校戦があっても、エリカは参加しないわけだからあまり関係ないと思うけど」

 

「参加はしなくても応援はするから、それで夏休みの前半はつぶれるでしょ? それにその思い出話で数日は過ごせるから、それが出来ないとなると困っちゃうのよね……何か面白い事、起きないかしら」

 

「これ以上面倒事が起こって達也さんと一緒にいられる時間が減るのは避けたい。ただでさえ達也さんはまだ忙しいんだし……」

 

「そうよね……達也さんがこっちに戻ってきてくれたからと言って、以前のように気軽に達也さんと出かける事が出来るわけじゃないんだし……」

 

「元々気軽には出かけられなかったけど、今の状況じゃ以前以上に出かけられないもんね……まったく、大人が片づけなきゃいけないような問題まで達也くんが背負っちゃうんだから……」

 

 

 外交問題など、達也が方をつけなければいけないわけではない問題ですら、達也が解決しようとしている。張本人が矢面に立った方が話が早いという事はエリカたちも理解しているが、USNAや新ソ連の問題は元々達也が悪いわけではない。あちら側が勝手に達也を敵視し、そして勝手につぶれたのだ。

 

「そもそも新ソ連艦隊を撃退したのは達也くんじゃなくて一条君だしね。まぁ、達也くんが全くの無関係ではないって事は、吉祥寺君が余計な事を言ったからバレちゃってるんだけど」

 

「技術者としてのプライドが、全て自分の手柄ではないのにほめたたえられるのが嫌だったんじゃないかって達也さんは言ってた」

 

「そんなものを気にしてるから、何時まで経っても達也くんにライバル心を燃やしてるのかもしれないわね。はなっから勝負になってないって気付けないあたり、滑稽としか言えないけど」

 

「さすがに言い過ぎじゃない? 仮にも『カーディナル・ジョージ』として世界から注目されているんだから、多少自信過剰になっても仕方ない部分があると思うんだけど」

 

「でもさ、達也くんと吉祥寺君とじゃ、立ってる場所が違い過ぎるでしょ? 達也くんは『基本コード』の全てを知ってるような事を言ってたし」

 

 

 過去に基本コードの説明を受けた際、レオが何となく指摘した事をエリカは覚えていた。その時達也は追及を避けるように逃げたので、恐らくは全てを知っていて発表していないだけなのだろうとエリカの中ではそういう事になっている。

 

「達也さんが『トーラス・シルバー』の片割れだと分かってもなお、まだ敵対しているわけだし、やっぱり自信過剰なんじゃないかな?」

 

「まぁ、あの年代の男の子はそういった思いが無い方がおかしいって、前にミキが言ってたけどね」

 

「でも吉田君たちは、達也さんに挑もうとか思ってないよ?」

 

「吉祥寺君よりも間近で達也くんの凄さを目の当たりにしてるからでしょ。そもそもミキやレオが達也くんに勝てるわけ無いじゃないのよ。啓先輩だって素直に負けを認めてるくらいなんだから」

 

「五十里先輩は柔軟な考え方が出来る人だったけど、服部先輩は最後まで達也さんの事を認めたく無さそうだったけどね」

 

「あの人は一科生としてのプライドが高かったからだって、前に深雪と七草先輩が話してるのを聞いたことがある」

 

「そういえば森崎君も未だに達也さんの事を認めてないみたいだけど」

 

「入学早々力の差を見せつけられたはずなのに、まだ懲りてないんだ」

 

 

 元々一科生のプライドというものに興味が無いほのかと雫は、同じ一科生でも達也の事を認められずにいる人たちを軽蔑している。だがそれを全面的に押し出しているわけではないので、軽蔑されている事に気付けていない人が多いのだ。森崎もその一人である。

 

「風紀委員としても圧倒的な実力を見せつけられているというのに、身の程知らずって何処にもいるのね」

 

「名門森崎家としてのプライドとかもあるのかもしれないけど、そもそも達也さんは『あの』四葉家の跡取り。森崎家の比じゃないくらいの重圧がある」

 

「だから表立って歯向かおうとはしてないんじゃないの? 何かして、四葉家の逆鱗に触れるのは怖いでしょうし」

 

「そもそも達也さんを軽視してる時点で、深雪の逆鱗を蹴り上げてるんだけど」

 

「一年の時はよく教室に吹雪が起こってたもんね」

 

 

 その当時の事を思い出し、ほのかと雫は揃って苦笑する。その光景を容易に想像できたエリカもまた、二人と同じく苦笑したのだった。




最近は吹雪いていないんでしょうね

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