劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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攻撃されるわけではないです


身の危険

 四葉ビルの一室に帰ってきた水波は、深雪にお茶の用意をして自分も腰を下ろそうとして、深雪が自分の手元を見ているのに気が付き、もう一度キッチンに引っ込み自分のお茶の用意をする。達也同様深雪も、会話をする時にその相手にだけ飲み物がない事を気にする。水波としては自分の分を用意する必要は無いと思っているのだが、主の意向とあっては逆らうわけにはいかないのだ。

 

「今日はわざわざありがとうございました。本来ならこの時期に夏服を用意しなければならないなどあってはならない事でしたのに……」

 

「仕方ないわよ。水波ちゃんは入院していたのだから。それに、久しぶりに水波ちゃんとお買い物に行けて、私は楽しかったわよ」

 

 

 深雪は割かし本心で感想を述べている。だが水波は深雪の言葉をそのまま受け止めてそれで終わりに出来る程気楽な性格ではない。むしろ主に手間を掛けてしまったと自分を責めないとも限らない。

 

「水波ちゃんのお陰でエリカたちともお出かけ出来たし、水波ちゃんのコーディネートが出来たのは本当に楽しかった。だから水波ちゃんは従者だからとか、調整体だからというつまらない事を気にして、私の気持ちを素直に受け止めない、なんてことはしないでね」

 

「……かしこまりました。私も、深雪様たちとお出かけ出来て、とてもに楽しかったです」

 

 

 先に深雪から釘を刺されてしまったので、水波は心の中で考えていたことを破棄し「桜井水波」個人として感じた気持ちを伝える。従者としてではなく、深雪の妹分としての感想としては、満点とは言えなくても合格点には達したようで、深雪は満足そうに水波の顔を見詰めている。

 

「叔母様から水波ちゃんの地位は達也様と私に一任されているから、ガーディアンとしてではなく家族として一緒にいられるようになるかもしれないわね。それに、達也様の愛人枠として認めていただいているのだから、近い将来水波ちゃんも達也様に抱いていただける日が来るわね」

 

「……み、深雪様っ!」

 

 

 普段から達也に抱いてもらう妄想をしている深雪としては、特に気にする必要のない事だったのかもしれないが、そういう免疫が無い水波は、たっぷり一秒間固まってから、今度は顔を真っ赤にして深雪の名前を呼ぶ。

 そのような初心な反応を見せた水波に少し驚いた深雪ではあったが、一従者としてその生涯を終えると思っていた水波が、そのような妄想をしていなかったことに気が付き軽く頭を下げる。

 

「ゴメンなさいね。今のは私が悪かったわ」

 

「い、いえ……私の方こそ、過剰に反応してしまって申し訳ございません……」

 

「達也様のプロジェクトがある程度目途が立ったら、達也様も水波ちゃんの退院祝いをしてくださるそうだから、その時は思いっきり甘えてみてはどうかしら? その時は私が水波ちゃんを全身コーディネートしてあげるわ」

 

「い、いえ! そのような事は――」

 

「拒否権は認められないわ。だって、私が水波ちゃんの全身コーディネートをしたいんだもの」

 

 

 多分に嫉妬が含まれているのだろうが、深雪が素直に自分の事を綺麗にしたいという気持ちは水波にも理解出来る。だが深雪の事だから行き過ぎたお洒落になってしまう恐れがあるので、水波としては何とかして思い止まってもらいたい。必死に頭を捻って知恵を絞りだそうとするが、そもそも従者として深雪に付き従っているので、自分一人で深雪の提案を断った事が無い事に気が付き、何とかして達也を味方に出来ないかと考えた。

 

「達也様も、お洒落をした水波ちゃんを褒めてくれると思うわよ」

 

 

 自分のお洒落など見たくないのではないかと言って逃れようとした矢先にこの言葉、水波は自分の心を読まれたのではないかと疑う。だが深雪に読心術のスキルは無く、単純に自分が何とかして逃れようとしている事に気が付き、自分が思い付きそうな理由を片っ端から潰しているのだと水波は思った。

 

「そ、それでしたら深雪様もご一緒してくださいませんか? 私一人が達也さまとの時間を過ごしたと周りに知られれば、達也さまも貴重なお時間を他の婚約者の方々の為にも使わなくてはいけなくなりますので。立場としてはそれが普通なのかもしれませんが、いくら目途が立ってからと仰っても普通の学生のような時間の使い方が出来るわけではないでしょうから、深雪様の付き添いとして私が同行したという形をとれば、ある程度は他の方々も納得してくださると思いますし」

 

「水波ちゃんの功績は皆が認めるものだと思うから、そこまで自分を卑下しなくてもいいと思うのだけど、こればっかりは生来の性格なのでしょうね。分かったわ、その時は私も水波ちゃんと一緒に達也様とお出かけするわ」

 

 

 水波の為と言っているが、深雪の表情は嬉しくて仕方がないというものになっている。達也と出かけられるのが嬉しいのだろうと水波は理解していたが、余計な事を言って「じゃあ一緒に行かない」と言われたら困ってしまうのは自分なので、深雪の表情には気付かないふりをする。

 

「とはいって、達也様に時間的余裕が出来るのは、もう少し後でしょうけどね」

 

「それは仕方がないと思います。幾らディオーネー計画が破綻しても、達也さまのESCAPES計画は止められませんから」

 

 

 元々ディオーネー計画からエスケイプするためのプロジェクトではないので、USNAに行く理由がなくなったから中止出来るわけではない。その事を十分に理解しているので、深雪も水波も達也の事を急かすつもりは無いのだった。




別の意味で危ない感じが……

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