劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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忘れてました……


夏休み中の生徒会室

 夏休みと言っても生徒会業務は存在する。昨日一日遊んだので深雪と水波は生徒会業務を片付ける為に一高へ向かった。生徒会室には彼女たちだけでなく、ほのかと泉美、そして詩奈の姿もある。元々作業日として招集はかかっていたのだが、水波の復帰祝いをここでもやろうという事でこの日はあけてもらっていたのだ。

 

「それじゃあ改めて、水波ちゃんの退院を祝して――」

 

「「「「乾杯!」」」」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 詩奈以外には既に祝ってもらっているのだが、改めて水波は全員に頭を下げる。生徒会業務を片付けなければいけないという気持ちもありながら、祝ってもらえて素直に嬉しい気持ちが勝り、水波は少し照れくさそうな表情を浮かべている。

 

「こうやって照れてる水波ちゃんを見ると、やっぱり女の子は可愛げがある方が良いのかもしれないわね」

 

「確かに、照れてる水波ちゃんは本当に可愛いもんね。普段は無表情な事が多いから余計にそう思えるのかもしれないけど」

 

「そ、それほど無表情なつもりは無いのですが……」

 

 

 四葉家従者として余計な感情は面に出さない訓練は積んできたが、別に表情が死んでいるわけではない。彼女にも感情が出る事はあるのだが、無意識のうちに無表情になっているのではないかと不安になり、水波は少し不安を懐いた。

 

「確かに水波さんは感情があまりお出にならないようですが、深雪先輩や司波先輩といる時は割と表情豊かだと思いますわ」

 

「確かに、桜井先輩はクールって感じですけど、司波会長や司波先輩と一緒にいる時は、普通の女子高生という感じがしますね」

 

「表情が分かりにくいというなら、むしろ雫の方が分かりにくいかもしれないのかもね。一緒にいる時間が長いから私にはよく分かるけど、風紀委員の人たちからしたら雫ってずっと怒ってるって思われてるみたいだし」

 

「雫も結構分かり易いと思うのだけど? 達也様がお側にいらっしゃるときは、本当に嬉しそうな顔をしてるもの」

 

「それは私たちも同じだと思うけどね」

 

 

 雫だけでなく、自分や深雪も達也の側にいられるだけで幸せだと思っているとほのかは訂正をいれる。実際達也の婚約者の中で、達也が隣にいても表情が緩まないのは響子くらいだろうとほのかは思っているのだ。

 

「さて、何時までも水波ちゃんの表情を見て楽しんでるわけにもいかないわ。早いところこの作業を終わらせてゆっくりお喋りを楽しみましょう」

 

「そうですわね。私たちは昨日水波さんと出かけさせてもらいましたが、それほどお話し出来たわけではありませんし、今日は作業が終わればゆっくりと出来ますからね」

 

「達也さんも午後から巳焼島に行くって言ってたから、後で雫もこっちに来るって言ってたよ」

 

「そうなの? じゃあ風紀委員本部とここを繋いでる階段のドアの鍵を開けておかないと」

 

 

 夏休みの間はそれ程行き来する事も無いだろうという事で、普段は開けっ放しの鍵を閉めていたのだが、深雪は端末を操作してそのドアの鍵を開ける。別に今から開ける必要は無いのだが、雫がやってきた時しまっていたら可哀想だと思ったのかもしれない。

 

「それじゃあ、今日も一日、頑張りましょう」

 

 

 深雪の言葉を合図に、それぞれに割り振られた作業を開始する。達也がいればあっという間に終わるのかもしれないが、達也をここに呼んでしまったら午後からの予定が狂ってしまうので、深雪は達也がこっちに来るという申し出を断っていた。その事を知らない泉美と詩奈は、達也がいてくれればと内心そんな事を考えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会業務もある程度片付き、終わりが見えてきたころになって雫が風紀委員会本部から生徒会室にやってきた。ずっと本部に詰めていたのか、雫の顔は少し退屈そうに感じられる。

 

「雫、もうちょっと待っててね」

 

「うん。ピクシー、お茶ちょうだい」

 

「かしこまり・ました」

 

 

 達也からテレパスの許可が出ていないので、ピクシーはあくまで機械的に応える。雫もそれが分かっているので、ピクシーの態度にいちいち反応を示す事はしなかった。

 

「もう普通に生活しても問題ないの?」

 

「まだ魔法を使う事は出来ないけど、普通に生活する分には問題ないと先生も仰っていたわ」

 

 

 既に自分の分を終わらせている深雪と話し始める雫。深雪も彼女が自分に話しかけてくると分かっていたので、返答はスムーズだった。

 

「達也さんが水波の治療をするって聞いてるけど、具体的にはどんなことをするの?」

 

「ゴメンなさい。四葉家の秘術だから、たとえ婚約者だろうと教えられないの。ただ達也様が水波ちゃんにその術を施せば、以前と全く同じとまではいかなくても、遜色ないくらいの力は出せるはずよ」

 

「魔法演算領域が傷ついちゃったんだから、それは仕方ないと思う。普通の医術では治せないんだから、全く同じようにならないのも分かる。でも達也さんなら何とか出来るって信じてる」

 

「そうね。私には無理だけど、達也様になら水波ちゃんから魔法を奪う事なく、人を辞めさせる事無く水波ちゃんを治せるわよ」

 

 

 人を辞めさせるという単語に、一瞬水波の方が跳ねたように思えたが、誰もその事は指摘しなかった。水波は自分の所為で光宣を人ならざる者にしてしまったと思っているのだが、他の人から見たら光宣は自分勝手な思いを水波に押し付ける為に人を辞めたと認識されている。だから余計な事を言って水波に負担を掛けないよう、パラサイトの話題はこれ以降出てこなかった。




要するに騒いだだけだな

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