劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ずっと延期してましたから


水波へのご褒美

 達也にもある程度の余裕が出来、生徒会の作業も無いので、深雪と水波は達也を誘って買い物に出かける事にした。水波の退院祝いとトゥマーン・ボンバから身を挺して守ってくれたお礼を兼ねた買い物なのだが、水波は家を出てからもずっと恐縮している。

 

「本当によろしいのでしょうか……私の為に達也さまの貴重なお休みを頂戴してしまっても……」

 

「達也様も許可してくださったのだから、今日は思いっきり甘えてみてはどう? 水波ちゃんだって年頃の女の子なんだから、好きな人に甘えたいって気持ちはあるのでしょう?」

 

「め、滅相もありません!? 私のような使用人が、達也さまに甘えるなんて……」

 

 

 水波の性格上、素直に甘える事は出来ないだろうと深雪も思っている。そして彼女が読んでいる小説の影響なのか、水波は達也に「お仕置き」をしてもらいたいと思っている。

 

「達也様はFLTに顔を出してからいらっしゃると言っていたので、とりあえずは私と二人でいろいろと見て回りましょう」

 

「かしこまりました。ですが、この間皆さんと見て回ったばかりでは?」

 

「あれは、水波ちゃんにとってすぐに必要になるものを見て回っただけで、今日は秋物とか今後いろいろと必要になるものを見て回るのよ。達也様がご卒業なされたら、水波ちゃんも達也様のお側に囲っていただくのだから」

 

「私には過ぎた褒美だと思っています……本当によろしいのでしょうか?」

 

「水波ちゃんはそれだけの事をしてくれたのだから、遠慮する必要は無いわよ。現に他の婚約者の誰からも反対意見が出ていないじゃない」

 

 

 本当は快く思っていない婚約者もいるのかもしれないが、達也と深雪を身を挺して守った水波の功績を鑑みて「愛人枠なら……」と思っているのだろう。そして水波の性格を考えれば、婚約者を押しのけてまで自分が達也の一番になろうとは考えないだろうという思いも多分にあって、水波の立場は婚約者の中でも一定の理解を得ている。

 

「それに私だって、水波ちゃんがずっと達也様のお側にいてくれると言ってくれたことは凄く嬉しいのよ? てっきり水波ちゃんは光宣君の事が気になっているんじゃないかって思ってたから」

 

「確かに光宣さまの事は気に懸かっていましたが、お側にいたいという思いではありませんでしたから。私の為に人であることを辞めさせてしまったのは申し訳なく思いましたが、パラサイト以外の亡霊も取り込んでいたようでしたので」

 

「達也様が滅しられた周公瑾の亡霊を取り込んで、自分の身体の弱さをどうにかする方法としてパラサイトを取り込んだと報告書には書かれていたわね。水波ちゃんを治す為にまずは自分を被験者としたとも書かれていたけど、水波ちゃんの意思を確認することなくそんな事をしたのだから、水波ちゃんが気にする必要は無いわよ」

 

 

 そもそも水波は達也か光宣か迫られた時、光宣の前で達也の事を選んでいる。それでも光宣は水波の事を諦められず、達也を亡き者にしてでも水波を手に入れようと色々と策を弄して病院に忍び込んだ。だが彼の誤算はパラサイトの天敵は達也ではなく深雪であったこと。そして水波をパラサイトにしなくても治せる方法を、達也が持っている事の二つ。

 

「達也様が水波ちゃんの為に精神干渉系魔法の練習をしているのだって、達也様が水波ちゃんの事を大事に思っていてくださっている証拠なのよ」

 

「魔法犯罪者の能力を奪う事で、私の治療に役立つなんて信じられませんでした」

 

 

 達也は水波が魔法演算領域に障害を負う前から魔法師の魔法能力を封じる魔法『ゲートキーパー』を開発していたが、今は封じるだけでなく完全に魔法を使えなくするところまで研究は進んでいる。演算領域を封じる方法は応用次第で演算領域の治療にも役に立つ。このままいけば人工魔法演算領域を水波の中に創り出す必要なく演算領域の治療が出来るのではないかと期待されている。

 

「今は水波ちゃんにゲートキーパーを使って咄嗟に魔法を使えないようにしているけど、その内に前みたいに水波ちゃんも魔法を使える日が来るわよ」

 

「例え魔法が使えなくてもお側においてくださると、達也さまと深雪様が仰ってくださったので、私としては魔法が使えなくてもそれほど不自由を感じる事はありませんが」

 

 

 これは水波の本音ではあるが、やはり魔法が使えないというのは全く気にならないものではない。夏休みなので魔法技能が低下していても成績に関係はしてこないが、二学期が始まってもまだ使えないとなると問題が発生してくる。最悪退学という事になるかもという恐怖が、水波の中に日に日に芽生え始めているのだ。

 

「九月までには達也様の研究も一段落するでしょうから、ゲートキーパーを解除して徐々に治療をしていくのではないかしら」

 

 

 水波の気持ちを見抜いたように深雪がそう告げると、水波は驚きつつも頷いた。深雪なら自分の心の裡を見抜いても不思議ではないし、達也の研究能力ならずっと成果なしという事は無いだろうという安心感から、水波は自分の不安を頭の隅に追いやったのだ。

 

「あっ、これなんて水波ちゃんに似合うんじゃないかしら?」

 

「そ、そのような派手なもの、私には似合いませんよ」

 

 

 達也が来るまでの時間、水波は深雪にいろいろなものを勧められ、その都度自分には似合わないという謙遜を口にしたのだった。




深雪が水波で遊んでるようにしか見えない……

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