劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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純真のような歪んでるような……


真夜の想い

 水波がどうすれば良いのか頭を悩ませている頃、深雪は四葉本家がある隠れ里へ到着し、出迎えのリーナに向けて鋭い視線を飛ばす。

 

「あら怖い……水波の付き添いという理由で抜け駆けデートしていた貴女が、私を責めるのはおかしいんじゃないかしら?」

 

「抜け駆けなんてしていないわよ。水波ちゃん一人では達也様に対して恐縮し続けてしまうから、私が一緒にいて少しでも気持ちを楽にしてあげようとしていただけ」

 

「でも響子がハッキングした映像を見る限り、完全に達也と深雪のデートに水波が同行しているようにしか見えなかったけど? ただの付き添いにしては、随分と達也に甘えてるように思えたけど」

 

 

 まさか監視されていたとは深雪も思っていなかったようで、リーナの言葉にすぐ返答する事が出来ない。深雪がすぐに反応しなかった理由をリーナは、図星を突かれて困っているのだろうと誤解していたが、その事を指摘して深雪を怒らせるようなヘマはしなかった。

 

「確かに達也様と一緒にいて、何時も以上に甘えていたかもしれないわね。でもそれは、水波ちゃんが私に遠慮する必要は無いというメッセージよ。水波ちゃんは貴女と違って奥ゆかしい性格だから、自分がしたいと思った事でも我慢してしまうのよ」

 

「それって、私は奥ゆかしくないって言ってるの?」

 

「だってそうでしょ? 貴女が暴れてるから私が止めに行くといっても、水波ちゃんはその事を不審に思わなかったんだから。もし貴女が奥ゆかしいと思われているのなら、こんな理由で私があの場を離れられたか分からないわよ?」

 

 

 深雪の反論に、今度はリーナが返答に困ってしまう。恐らく水波も深雪が呼び出された理由に疑問を懐いているのだろうが、それを証明する事は今のリーナには出来ない。だからといって自分がガサツだという事を受け容れられる程、リーナは人間が出来ていない。

 

「とにかく真夜の命令なんだから、深雪は素直にここに留まってよね! 貴女を逃がしたとなれば、私が怒られるんだから」

 

「別にここまで来てしまったのだから、今更合流したいとは思わないわよ。それに、貴女がストレスを溜め込んでいるのは事実なのだから、少しくらい相手になるわよ?」

 

「いいのかしら? 私と深雪が勝負して、ここを覆っている結界が壊れてしまっても」

 

「そこまで暴れるつもり? 冗談を本当にしたいのかしら、貴女は」

 

 

 深雪がここに呼びつけられた理由は、リーナが暴れて隠れ里に必要不可欠な結界を壊されるから仲裁して欲しいという嘘だった。だが自分とリーナが本気で戦えば、その嘘が本当になる可能性が高い。深雪はその事を指摘して、ヒートアップしているリーナを落ち着かせることに成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋敷の外で深雪とリーナが言い争っているのを、真夜はモニターで眺めている。

 

「葉山さん、深雪さんがこんなに楽しそうにしているのを見るのは嬉しいものね」

 

「さようでございますか。確かに深雪様は達也殿一筋の傾向が強かったですから、他の方と楽しそうに過ごされることはいい事だと私も思います」

 

 

 深夜が亡くなってから、深雪はますます達也に依存しているように葉山は感じていた。元々は達也の事を使用人のように扱っていた時期を知っているが、深雪が達也との距離感に悩んでいたことも葉山はちゃんと知っている。だからではないが、葉山は達也が四葉と袂を分かった場合、深雪も四葉家を離れてしまう恐れがあると昔から真夜に進言していた。

 

「確かに深雪さんは達也さん一筋だったものね。姉さんが達也さんの本当の価値を必死に隠していたというのに、自分が提案した沖縄旅行の所為で達也さんの真の価値を目の当たりにさせてしまったのだから」

 

「ですが、あの場面では達也殿が対処するしか深雪様の安全を守る事は出来なかったかと。あの場所には桜井穂波もいましたが、彼女はあくまでも防御を得意としたガーディアン。迎撃は出来なかったでしょう」

 

「そうね。水波ちゃんも穂波さんと似たような魔法属性だから仕方ないけど、性格は似なかったみたいね」

 

 

 穂波は達也に対しても素直に接していたと報告を受けている。達也の方も、穂波には特別な感情を懐いていたのではないかと疑われていたが、彼女が亡くなってからその事を確かめようとしたことはなかった。

 だが水波を司波家に向かわせたとき、達也がどう反応するのか楽しみにしていた節はあり、達也が複雑そうな視線を水波に向けていると報告を受けた時、真夜は息子の初恋相手はやはり穂波だったのだと確信したのだ。

 

「達也さんの感情を消し去ってしまったのは、母親として複雑だったけど、ちゃんと異性に興味があったと分かった時は嬉しかったわ」

 

「だから達也殿を次期当主に指名し、彼に恋慕の情を懐いている女性を四葉家に引き入れようとしたのですか?」

 

「あら、人聞きの悪い。私は自分が味わえなかった女としての幸せを、少しでも多くの女性に体験してもらいたいと思い、政府に掛け合っただけよ」

 

「そうでございましたか」

 

 

 真夜が嘘を吐いている事は葉山も分かっているが、主が堂々と吐いた嘘を指摘する程葉山は立場を履き違えていない。これが青木なら指摘したかも知らないが、当然のように嘘を受け容れてくれた葉山に、真夜は笑みを向けるのだった。




やっぱり歪んでたな……

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