劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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くだらないものの為に……


襲撃側の事情

 葉山からの電話を切り、達也は水波に深雪の事を任せて襲撃に備えて外に出ようとする。だが深雪が不安気に自分を見詰めている事に気付き、声を掛ける。

 

「心配ない。すぐに片付く」

 

「それに関しては疑っておりません。ですが、何故今になって外務省と情報部が達也様のことを狙うのでしょうか?」

 

「面子じゃないかしら」

 

 

 深雪の問いかけに答えたのは、達也ではなく真夜。彼女も何故今更になって狙われるのかと考えていたのか、深雪の質問が終わるのと同時に答えた。

 

「外務省はUSNAから達也さんを差し出せと散々せっつかれ、恐らくトーラス・シルバーの事も達也さんが発表する前から知らされていたのでしょう。そしてディオーネー計画に関しても一定の賛同を示していたところに達也さんがESCAPES計画を発表。挙句にディオーネー計画の真の目的も暴かれ外務省は無能っぷりを曝してしまったし、情報部のほうは情報部で、達也さんに対する遺恨があるのではなくて? 達也さんを捕らえる前にお友達たちに撃退されたから、達也さんに対する遺恨ではないとは思うのだけども」

 

「そのようなくだらない事の為に、達也様を亡き者にしようと?」

 

「さぁ、そこまでは分からないわね。達也さんを捕らえて自分たちに都合のいいように洗脳でもして、国の為という名目で一生こき使うつもりなのかもしれないし」

 

「達也様。撃退は私に任せていただけないでしょうか」

 

 

 深雪は明らかに感情的になっている。今にも魔法を発動させそうな勢いで達也に詰め寄るが、達也は慌てる事無く深雪を落ち着かせる。

 

「深雪、水波が側にいるんだ。少し冷静になれ」

 

「っ! ゴメンなさいね、水波ちゃん」

 

「いえ、大丈夫です」

 

 

 深雪の強すぎる魔法力の所為で、水波に悪影響を及ぼす可能性があると、彼女が入院している時から言われている。その事を忘れていたわけではないだろうが、ついつい頭に血が上ってしまったのだ。

 

「あの程度の人数なら、それほど時間は掛からないだろう。深雪は水波と母上の事を頼む」

 

「達也さま、私はどうすれば」

 

「水波は何もせずに母上と深雪といれば良い」

 

「ですが」

 

 

 ガーディアンとしての使命感か、水波は襲われそうになっているのに何も出来ないという現状に納得していない。例え再び入院生活に戻ろうとも、何かしたくてしょうがない様子だ。そんな水波を見た達也は、小さくため息を吐いてから水波にCADを向ける。

 

「何でしょう?」

 

「水波、一時的にお前に『ゲートキーパー』を使う」

 

「……分かりました。大人しくしています」

 

 

 ここで魔法技能を封じられてしまったら、いざという時に深雪の身を守れない。そう考えた水波は、この場では大人しくしていようと判断した。

 

「分かっているとは思うが、お前が魔法を使おうとすれば深雪が悲しむ。もちろん俺も気にする」

 

「そうよ、水波ちゃん。まだ完全に治療出来たわけじゃないのだから、今は無理しないで」

 

「なんなら、四葉家当主として命じましょうか? この場は達也さんに任せて、水波さんは大人しくしているように、と」

 

「……かしこまりました」

 

 

 現四葉家当主、次期四葉家当主、次期四葉家当主の婚約者にして自分の主に言われてしまっては、さすがの水波も魔法を使おうとは思えない。彼女はCADを達也に預け、大人しく深雪の背後に控える。

 

「達也様、お早い帰還を祈っております」

 

「行ってくる」

 

 

 達也の武運を祈る必要は無い。彼があの程度の連中に負けるはずがないと深雪は確信している。さすがに跡形もなく消し去る事はしないだろうが、必要とあらばそれを躊躇う事はしないだろうとも。

 

「深雪さん、とりあえず部屋に戻りましょうか」

 

「そうですね。水波ちゃん、いらっしゃい」

 

「はい、深雪様」

 

 

 達也を見送ってから、三人は何事も無いかのように部屋へと向かう。一人ずつ部屋に戻る事はせず、深雪の部屋に固まって入る。

 

「まったく、せっかくたっくんとゆっくり出来ると思ってたのに」

 

「叔母様、達也様の立場を考えればある程度の襲撃は想定されていたのではありませんか? 葉山さんからの連絡も、今思えばそれほど慌てているようではありませんでしたし」

 

「……そうね。でもさすがに外務省が手を回してくるとは思っていなかったわ。一○一旅団か、他の方たちの可能性は考えていたけども」

 

「何故一○一旅団が? 達也様が旅団を抜けるのは当然だと思うのですが」

 

「達也さんは旅団の切り札だったから、手放すのが惜しかったのではないかしら。陸軍内で争いが起きても、達也さんがいれば負ける事は無い――それどころか、致命傷さえ負わなければ、その傷が無かったことになるのだから」

 

「達也様がその魔法を行使する際、どれだけの代償を支払っているか、彼らは知っているはずですよね?」

 

「もちろん知っているでしょうね。でも、死ななくて済むという思いは、達也さんがどれ程苦しんでいるかなんて関係ないのよ」

 

「深雪様、戦闘が始まりました」

 

 

 何か言いたげに口を開いていた深雪を制するように、水波が淡々とした口調で告げる。彼女の視線の先では、外務省と情報部が仕向けた魔法師たちが達也に向けて魔法を放っているが、その魔法が達也に届く事はない。一瞬で霧散し、彼らのCADはバラバラに分解されている。

 

「彼らを水波さんの治療に必要な研究の被験者に出来ないかしら」

 

 

 既に壊走しそうな敵陣を眺めながら、真夜はそのような事を呟いた。




真夜の考えが危ない
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