劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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たまにはまったりとした空間を


プライベートな時間

 達也が旅行に行っている間、それと知らずに新居では何時も通りの日常が流れている。ここで生活している面々は、それぞれ互いに過干渉しない暗黙のルールがあり、親しい間柄でもない限り一日をどう過ごしているのか知らない方が多い。

 部活もなく侍朗の特訓も無いエリカは、一日部屋でのんびりしようかと思っていたが、習慣で素振りをしていた。

 

「あらエリカ、今日も素振りをしてるの?」

 

「癖でね。ほのかは? 生徒会の用事だったの?」

 

「ううん、小父さんがたまには顔を見せに来てくれって言ってて、雫と一緒に北山邸に行ってたの」

 

「そういえば、駅にいたのって一色さんたちじゃなかった?」

 

「そう言われれば……どこかに出かけてるのかな?」

 

 

 九校戦で戦った相手なので、それなりに交流はあるが、プライベートまでは良く知らない。特に愛梨たちは一高生ではなく三高生で、そのグループで固まっている事が多いのでこの場所以外で行動を共にする事は滅多に無いのだ。

 

「愛梨たちならさっき出かけてたから、多分そうなんじゃない? でもあの四人が何処に出かけたのかは気になるわね」

 

「東京のお店に詳しいのかな?」

 

「調べれば何とかなるだろうし、気にし過ぎじゃない? というか、ほのかだって未だにまいg――」

 

「ストップ! それ以上は言わないで!」

 

 

 もう殆ど言われているが、ほのかは慌てて雫の口を塞いだ。雫がほのかをからかって遊んでいる光景は見慣れているのか、エリカも特に慌てずに二人の遣り取りを眺めている。

 

「あら北山さん。光井さんに何を言ったの?」

 

「七草先輩、お帰りなさい」

 

「うん、ただいま。それで、北山さんは何を?」

 

「大したことじゃないんです。ところで、先輩たちもお出かけしてたんですね」

 

「ちょっとね。そう言えば達也くんも出かけてていないのよね……」

 

「どうしたんですか?」

 

 

 急に元気がなくなった真由美を心配してほのかが声を掛ける。その隙に雫がほのかの拘束から抜け出す。

 

「達也くんがいないから、そのまま摩利の家に行けばよかったかなって思って」

 

「渡辺先輩の? さっきまで一緒だったんですか?」

 

「えぇそうよ? エリカちゃん、何か言いたそうね」

 

「別に、先輩に言っても仕方ありませんし」

 

「そんな態度をとってるから、深雪さんから『ブラコン』だってからかわれるのよ?」

 

「あの超絶ブラコン娘に言われたくはないんですけどね」

 

 

 達也と深雪の関係は兄妹から従兄妹に変わっているので、ブラコンと表現するのは間違っているのかもしれないが、関係が変わる前から知っているエリカたちからすれば、深雪はまごうなきブラコンなのだ。

 

「まぁまぁ真由美さん、千葉さんをからかって憂さ晴らしをするのは大人げないですよ。いくら渡辺さんと修次さんとの惚気話を聞かされたからとはいえ」

 

「そうなんですか?」

 

「まぁ。先に真由美さんが達也さんとの惚気話を始めたので、お相子だと思うのですが」

 

 

 巻き込まれた鈴音が可哀想だと、ほのかと雫は感じていた。他人の惚気話など、単なる拷問でしかない。

 

「というか、達也くんとの惚気話って言っても、大したこと無いんじゃないんですか? 深雪が話すなら兎も角七草先輩じゃ」

 

「えぇ、殆ど真由美さん以外の方がいた時の話でしたから」

 

「ちょっとリンちゃんっ!?」

 

 

 あっさりとバラされたからか、真由美は何時も以上にオーバーアクション気味にツッコむ。だがその程度で鈴音を動じさせることは出来なかった。

 

「まぁ摩利さんの方の話も、一緒に食事をしただとか、お話をして過ごしたとか、あまり進んでいるような感じはしませんでしたけども」

 

「仕方ないわよ。修次さんも摩利も学生なんだし、摩利は肝が据わってるようで臆病だから」

 

「七草先輩なら、一色さんたちが何処に行ったか分かりますか?」

 

 

 話の流れを完全に断ち切った雫の質問に、真由美は一瞬理解が追いつかなかった。だがすぐに首を傾げながら答える。

 

「愛梨さんたちが? 残念だけど見当もつかないわ」

 

「そうですか……」

 

「気になるのなら聞きましょうか? 電話番号は知っているわけだし」

 

「いえ、そこまでして知りたいわけではないので。ただちょっと気になっただけです」

 

「まぁ愛梨さんたちが出かけてたら気になるわよね。地元なら兎も角、こっちに来てまだそれほど時間も経ってないわけだし」

 

「あの四人はそれなりに行動力がある人たちですから、私たちが知らない内に行きつけの店が出来ていても不思議ではないと思いますよ。真由美さんとは違い、しっかりと調べてから出かけるでしょうから」

 

「それって、私が考えなしに行動してるみたいに聞こえるじゃないの!」

 

 

 鈴音の発言に、真由美が大声で反応する。その反応に満足したのか、鈴音は楽しそうな顔で続ける。

 

「ちゃんとそう聞こえたのなら幸いです。実際この間、お薦めの店を紹介すると言って定休日だったじゃないですか」

 

「あれは……普段あの曜日に行かないんだもん」

 

「ですから、ちゃんと調べてから誘ってください」

 

「わかったわよぅ……」

 

 

 不貞腐れながらしょぼくれるという、ある意味器用な反応を見せた真由美に、鈴音は真顔で「そうしてください」と頷いたのだった。




あんまりまったりしてなかったような気も……まぁいいか

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