劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

1884 / 2283
水波と同じ感じかな


香蓮の魅力

 エリカたちが自分たちの事を話題にしているなど思いもせず、愛梨たちは新居から一番近いショッピングモールにやってきていた。彼女たちも年頃の女子、それなりにお洒落には興味がある年齢。普段から制服で行動しているから目立たないかもしれないが、彼女たちもかなりレベルが高い美少女。深雪程ではないが外を歩けばかなり注目される。

 

「相変わらず愛梨は目立っているようじゃの」

 

「あら、私だけではないと思いますけど? 沓子や栞、香蓮もそれなりに見られているではありませんか」

 

「私たちは愛梨のついでに見られているだけ。全員、まずは愛梨に視線が向いている」

 

「そうですよ。そもそも私が三人と一緒にいるのが不思議だと思われているだけですって」

 

「香蓮は相変わらず自己評価が低いのう……お主だって十分に美少女だと言っておろうに」

 

 

 香蓮は四人の中ではそれほど目立たない容姿だが、一人で歩いていれば十分に目立つ容姿である。幼少期から愛梨たちと行動を共にしていた所為か、沓子が何度も香蓮を持ち上げてもお世辞としか思えないのだった。

 

「そもそも香蓮だって達也さんに認めてもらってるんだから、少しくらい自信を持った方がいいと思う」

 

「達也様は人の容姿で良し悪しを決める方ではありません。ですから、私のような凡庸な女でも役に立つと思われたのではないかと」

 

「達也様はそのような事を考えて香蓮さんを婚約者の一人として選んだようには思えませんが。確かに分かりにくいですが、達也様は婚約者の一人一人の事をしっかりと考えてくださっている方ですわ。香蓮さんの事を凡庸だとか、私たちのおまけだなんて思っていないと思います」

 

「愛梨、誰もおまけだなんて言ってない」

 

「まぁ、言いたい事は何となく分かるがの……」

 

 

 昔香蓮が自分自身の事を「おまけ」だと表現した事があったので、愛梨の口からはその単語が飛び出したのだが、栞と沓子はその事を知らない。だから愛梨に非難めいた視線を向けているのだが、香蓮だけは愛梨が何を思ってその単語を使ったのか理解している。

 

「昔からご両親に『私に付き従うよう』命じられていたから仕方ないのかもしれませんが、香蓮さんは私たちの中でも存在感を出しているではありませんか。貴女が集めてきてくれる情報、何時も役に立っているのですよ」

 

「確かに、香蓮がいてくれたら心強いからの。大抵の相手になら、負ける気がしないくらいの心持になる」

 

「私たちじゃ調べられないところまで調べてくれるから、かなり助かってる」

 

「あ、ありがとうございます……ですが、その能力も達也様には遠く及びませんし、同じ婚約者の中にだって私より遥かに情報収集能力が高い方が大勢いらっしゃいますから」

 

「そこと比べてご自身の能力を否定する意味は無いと思いますわよ? 確かにそれを生業にしていらっしゃる方がいるのは確かですが、香蓮さんはまだ学生なのですから」

 

 

 愛梨が思い浮かべたのは、軍人として情報収集をしている響子、四葉分家の人間として裏で動いている亜夜子、そして愛人枠ではあるが公安の調査員の遥である。彼女たちはそれで報酬を得ていたり、それが使命だったりするので、香蓮と比べるのは少し違うと愛梨には思えたのだろう。

 だが香蓮は違う考えを持っているようで、彼女たちと比べれば自分など大したこと無いと思い込んでいるようだ。もちろん、比べるのは間違っていると彼女も分かっているのだろうが、自分に自信が持てない性格からか、どうしても自分を卑下したがるのだ。

 

「せっかくいい素材を持っているのですから、もっと磨くことを目指したら如何? まずは容姿から自信を持てるようにしてあげましょう」

 

「な、なにをするつもりです?」

 

 

 じりじりと滲みよってくる愛梨から距離を取ろうとしたが、背後を栞、側面を沓子に抑えられ、逃げようにも店の中に逃げ込むしかなくなってしまっていた。

 

「まずは全身コーディネート! お化粧もしてみましょう」

 

「そんな事をしても無駄だと思いますけど……」

 

「そんな事ありませんわ! 香蓮さんは私たちが認めている美少女なのですから。普段から服装や化粧に無頓着な所為で目立ちませんが、磨けば真由美さんに負けないくらいの注目度を得られるはずです」

 

「さすがに深雪嬢には敵わないかもしれんが、真由美殿とはいい勝負が出来るとワシも思う」

 

「むしろ勝てるんじゃないかな? 七草さんは確かに魅力的だけど、ちょっと残念な性格だから」

 

「確かに、ワシらより大人なはずなのに子供っぽいところが残っているからの。それが魅力だと思う殿方もおるかもしれんが、ワシは香蓮のような落ち着いた性格の方が好きじゃから」

 

「ほ、ほめ過ぎです」

 

「ほれ、何時までも抵抗せずに観念せい。ワシらがお主を魅力的な女子へと磨き上げてやるからの」

 

「正直私は良く分からないけど、愛梨と沓子なら大丈夫。そんなに酷いことにはならないと思うから」

 

 

 既に服を選び始めている愛梨と、栞と沓子に丸め込まれ、香蓮は三人に自分の身体を委ねる事に決めた。例え失敗しても失うものは何もない、と考えたのだろう。




目立つ人が横にいると自信失くすんでしょうね

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。