達也から高評価を受けたと聞かされ、香蓮は顔を真っ赤にして俯く。嬉しいと思う反面、この格好を達也に見られたという思いから顔を赤らめているのだが、三人は褒められて照れているのだろうと受け取っている。
「だから言ったじゃろ。達也殿は正当な評価をしてくれると」
「それは分かっていましたが、達也様に褒められるなんてない事だと思っていたので……」
「香蓮さんは少し磨けば輝くのですから、これからはご自身で磨いては如何ですか?」
「私には出来ませんよ……そもそも、この格好だって愛梨たちが手伝ってくれたから出来たわけでして、これを自分一人で再現しろと言われても出来ません」
「なら、私たちが香蓮に教えてあげればいいんだね。普段なら私たちが香蓮に教わる事が多いから、こういう場面でもなければ香蓮に物を教えるなんてありえないし」
何故か乗り気の栞に、香蓮は何とかして断ろうという思いに傾いていた。だが香蓮が何かを言う前に、愛梨と沓子が栞に賛同してしまう。
「ではこれから屋敷に戻って、香蓮さんにメイクやらの基礎を教え込みましょう」
「それが良いの。では必要な化粧品などを買っていかなければなるまい。ワシらのを貸すのよりも、香蓮の肌に合ったものを使った方がより輝くじゃろうしの」
「そうと決まれば早速お店に行きますわよ。ほらほら香蓮さん。何時までも呆けてないで」
「えっ、あの、その……」
言葉にならない言葉で何とか思いとどまらせようと試みるが、その程度では三人は止まらない。むしろ感動で言葉が出ないのだろうと勘違いしているほどである。
「香蓮さんがご自身に自信を持つ事が出来るようになれば、私たちも嬉しいですから」
「そうそう。香蓮は昔から自分の事を低く評価してたから、ずっと気になってた」
「他の人間に対する評価はまっとうなものを下すのに、自分に関しては全然じゃったからの。磨けば良いものを持っているというのに、宝の持ち腐れじゃ」
「あの、ですから……」
「ほらほら、何時までも気後れしてる暇はありませんわよ。次期四葉家当主夫人として、ある程度の知識は必要になるのですから」
「そういえば、卒業してから披露パーティーがあるとか無いとか言ってたっけ」
「あれは真由美殿が騒いでいただけではないのか?」
「ウチの人間も騒いでいたので、あながち真由美さんの暴走というわけではないと思いますわよ」
自分を抜きに自分の話が進められていくのを感じて、香蓮は考える事を止めた。何を言っても止まらないのであれば、少しでも疲労度を軽減する方向にシフトチェンジしたのだった。
愛梨たちが帰ってきたのを、エリカは庭先で出迎えた。一日する事が無かったのでずっと素振りをしていた――わけではなく、今は純粋に庭でボーっとしていただけなのだ。
「お帰り。随分と香蓮が疲れてるように見えるけど、何してたの?」
「香蓮さんに自信を持ってもらおうと思いまして、全身コーディネートから始まり、メイクの技術を教えようとこれから部屋でメイク講座を行う予定なのです」
「なるほど。確かに香蓮は大人しめな性格と服装の所為で目立たなかったけど、普通にしてればかなり目立つ容姿をしてるものね」
「やはりエリカ嬢もそう思っておったか。ほれみろ香蓮。お主の事を正しく評価出来ていないのはワシらではなくお主の方じゃ」
「ですが、私なんかがお洒落をしたとしても、さほど意味はないと思うのですが」
「意味なんて自分で作れば良いのよ。達也くんに褒めてもらいたいとか、そんな理由でも十分だって」
「実はすでに、達也様には褒めてもらっているのですが、それでも香蓮さんは前向きにならないのですよ」
「達也くんに? でも彼は今忙しいんじゃ」
名目上は巳焼島で集中して作業をしている事になっている達也が、何時香蓮の事を褒めたのか、エリカはそこに引っ掛かりを覚えた。
「実は先ほどメールでお洒落をした香蓮さんの写真をお送りして、暫くして達也様から感想をいただいたのです」
「なるほど、その程度の時間はあるわよね、そりゃ」
いくら忙しいとはいえ、メールの返信が出来ない程切羽詰まっている達也を、エリカは想像出来ない。むしろそんな状況があり得るのだろうかとすら思っている。
「もしかして香蓮、アンタ愛梨や他の人と比べて自分は大したこと無いからとか思ってるんじゃない? だったらそんな考え方は止める事ね。人の魅力なんて人それぞれなんだから、他人と比べて自分の魅力を否定する必要なんて無いの」
「それは…そうかもしれませんが……」
「まっ、あたしも達也くんから言われただけで、昔は自分の事を卑下してたんだけどね」
「そうなのですか?」
「あたしの場合は魅力とかではなく、魔法の才能とかそっちなんだけど」
エリカが二科生――三高で言うところの普通科である事は知っている。だから香蓮は何も言えずにただただ俯いた。
「別に香蓮が気にする事じゃないわよ。あたしはあたしの才能があるって、認めてくれる人がいるって分かったから」
「そう、ですね……私も、頑張ってそう思えるようになりたいと思います」
「別に頑張る必要は無いわよ。ただ、自分の事をちゃんと評価してあげれば」
それが難しいのではないかと香蓮は思ったが、エリカがヒラヒラと手を振って中に入っていってしまったので、何も言い返せなかった。
ただ正統派なお嬢様ではない……