劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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長年我慢してた所為で……


長年の楽しみ

 巳焼島の研究施設との連絡を済ませた達也が三人の許に戻ると、丁度水波が宣誓を終えて腰を下ろしていた。いったい何があったのかと気にはなったが、詮索はせずに自分の席に腰を下ろす。

 

「達也さん、例のプラント製造は順調に進んでいるようね」

 

「試験的ではありますが、一部稼働できるのではないかと思っています。もちろん、世界中のエネルギーを賄うには、あの島だけでは足りないでしょうけども」

 

「日本だけで構いませんよ。後は技術のノウハウを公開すればいいだけの話ですもの。もちろん、トーラス・シルバーのように特許申請しないと、USNAから宇宙に行っても問題ないと思われてしまうでしょうから、今回はしっかりと特許申請してから公開していただかないと」

 

「そうすれば達也様に莫大な資金が舞い込んで来ますね。今でも十分に生活していくだけの資産はありますが、あの人たちから完全に解放されるには、資金が多すぎるという事はないでしょうから」

 

「相変わらず深雪さんは龍郎さんたちが許せないようね」

 

「当たり前です。お母様が亡くなられてすぐ、あの男は愛人だったあの人と再婚したのですから」

 

「小百合さんの言い分としては、浮気ではなく自分たちこそ純愛で、姉さんが横から龍郎さんをかっさらったという事になっているらしいけど、龍郎さん個人の力では、今の地位なんてあり得なかったと分からないものなのかしら」

 

 

 龍郎が今の地位にあるのは、ひとえに『四葉家の長女』と結婚したからで、龍郎個人の力ではない。魔法力は多少高い彼だが、魔法技術はそれ程ではない。むしろ低いと言える。そんな彼が最初から小百合と結婚したら、少なくとも今のように裕福な生活は遅れていないだろう。

 小百合の方も技術者としては平凡で、何か実績を残したわけではない。達也の力を使って自分の発言力を高めていただけで、彼女自身は大したこと無いのだ。

 

「純愛もなにも、あの男はお母様と結婚していたのですから、それが分かっていながら付き合い続けていたのは立派に不倫です。お母様があの男に愛想を尽かしていたのは当然ですが、捨てられたら困るから必死につなぎとめていたあの男は、実に滑稽だと思いましたもの」

 

「実の父親に対して、随分な言い草ね。まぁ私も、龍郎さんが浮気していたのは気に入らなかったのですが、姉さんが他界してすぐと言えるタイミングで再婚すると報告された時は、FLTから追い出そうかと本気で思ったわ」

 

「ではなぜ追い出さなかったのですか? あの男が追い出されれば連鎖的にあの人も追い出されます。そうすればもっと早く達也様はあの人たちから解放され、余計な面倒に巻き込まれることは無かったと思うのですが」

 

「何事にもタイミングはあるのよ、深雪さん。あの段階で達也さんの事を表に知られるわけにはいかなかったの。達也さんも自覚していたようですけど、達也さんの真の力を表に発表するのは高校を卒業してからのつもりでしたから。次期当主に決めたのだって、使用人の方々が早いうちに次期当主を発表してもらった方が気持ちを持っていきやすいと五月蠅かったからだもの。まぁ、皆さん深雪さんが指名されると思っていたようで、達也さんが次期当主に決まって戸惑っていましたけど」

 

 

 イタズラが成功した時の子供のような笑みを浮かべる真夜に対して、深雪は本気で驚いたあの時の事を思い浮かべ苦笑いを浮かべる。

 

「私も、自分が指名され、達也様ではない誰かを婚約者として迎え入れなければならないと思っていました。それが嫌で、文弥君を推薦したいとさえ思っていましたが、叔母様が達也様を次期当主に指名してくださって、本当に嬉しく思いました」

 

「達也さんは生まれた時から知っていたようだけど、それ以外で知っていたのは本当に一握りの人間だけだったから、あの時は最高に楽しかったわ。達也さんの事を使用人以下だと見下していた彼らが、一気に達也さんに遜る様を眺めるのは」

 

「母上、悪趣味この上ないです」

 

「そんな事ないでしょ? 最愛の息子をバカにされて黙っている親なんていませんよ」

 

「そんなものでしょうか」

 

「達也さんは親の愛情を知らずに育ったため仕方ないかもしれませんが、私は昔から達也さんを四葉本家で引き取るつもりだったのですから」

 

「その話は伺っていましたが、母さんがそれを認めなかったのですよね?」

 

「えぇ。姉さんは達也さんを四葉の檻に閉じ込めておくつもりだったから。先代の仰ったようにね」

 

 

 真夜はそれが不本意であったが、深夜が存命の時は達也を引き取る事は諦めていた。深夜が亡くなってすぐ龍郎が再婚してしまった所為で、深雪を一人に出来ないという思いから高校に入学しても達也を引き取る事は出来なかった。だが自分の血を受け継いでいるのは間違いないので、達也には次期当主としての資格は十分にあるという事を内に秘めており、それを楽しみに生きていたのである。

 

「姉さんが亡くなったのは深雪さんにとってはショックが大きかったかもしれませんが、私からすれば姉さんが亡くなったお陰で息子を取り返す事が出来た。そう考えるとちょっと複雑なのよね」

 

 

 本気で複雑そうな表情を浮かべる真夜に、深雪はどういった反応をすれば良いのか悩んだ。だがもう昔の事だと割り切っているようなので、特に声はかけずに俯いたのだった。




愛が重い感じになってるんですよね……

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