劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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イチャラブが足りないと言われたので……無くても良い話しなので興味が無い方はご退場ください


二人きりの帰り道

 地下資料室の閉館時間ギリギリまで調べ物をしていた達也が校門で人を待つのは普通ならおかしいのかもしれない。だが新生徒会が発足してからまだ一週間と少ししか経ってないので、作業に慣れてないほのかが手間取ってしまうのは仕方の無い事なのだろう。

 

「すみません達也さん。今日もお待たせしてしまって……」

 

「いや、しょうがないだろ。深雪は半年前から生徒会作業をしてるから例外として、一年であの作業を簡単に出来るほうがおかしいんだから」

 

「ですが、私が亀のように遅いから達也さんを待たせる事に……」

 

「ほのかが亀なら私はカタツムリ……」

 

「気にするな。二人共その内慣れるだろうし、待たされたといってもそれほど長い時間では無いのだし」

 

「お兄様、今日もですか?」

 

「ああ。さっきまで調べ物をしていた」

 

 

 達也が此処最近地下に潜って調べ物をしてるのは深雪も知っている。熱心なのは良いのだが、少しは自分をかまってほしいと思っているのだが。

 

「やっぱり達也さんが役員になった方が良かったのではないでしょうか?」

 

「仕方ないよ。千代田先輩の言い分も分からなくはないから」

 

 

 はじめあずさは達也に副会長を打診したのだが、それに反対したのが新風紀委員長の花音だった。達也に抜けられたら風紀委員の事務作業が回らないという情けない事を大声で言ってみせたのだった。

 風紀委員会の事務作業は、特定の誰かがするのではなく全員で協力して終わらせるものだと、達也が夏休み前に作った資料にも書かれてるのだが、花音は本気で達也に事務作業全てをやらせるつもりだったのだ。

 その理由に納得したあずさだったが、彼女としても如何しても達也を生徒会に引き入れたい理由があったのだ。

 一つは達也の作業速度。彼には真由美が生徒会長だった頃に少しだけ手伝いを頼んだ事があったのだが、その作業速度は自分の二倍以上。溜まっていた仕事の大半を終わらせてくれたのだった。

 そして理由の二つ目、あずさとしてはこっちの方が大きい理由だったのだが、自分では深雪が暴走した時に止める事が出来ないという事だ。生徒会長選挙の時に見せた深雪の暴走、そしてそれを難無く治めた達也の行動。あずさにはそれが怖く、また頼もしく思えたのだった。

 結局今学年中は達也を風紀委員に残し、来年度から達也を副会長として生徒会役員へと招き入れる事で両者が納得したのだった。

 だが一方で達也はこの二人の先輩の大いなる勘違いで頭を悩ましていたのだった。風紀委員会の事務作業も、生徒会の安全を守るのも達也の仕事ではないのだ。風紀委員は全員が実働員であり作業員であるのだし、生徒会に選ばれるくらいの実力者は自分で身を守れるはずだと思っているのだ。

 

「お兄様? 何かありましたか?」

 

「いや、例のやり取りを思い出して頭痛が……」

 

「ですが、お兄様は生徒会に相応しいお方ですので」

 

「そうですよ! 達也さんは無効票だったとはいえ生徒会長選挙で票を集めたんですから!」

 

「……一応確認しておくけど、二人はちゃんと中条先輩に投票したんだよな?」

 

 

 達也の質問にほのかと雫は揃って視線をさまよわせる。実はほのかは深雪に、雫は達也に投票してたのだが、無記名である上に冗談で済まされると思っていたのに、思いのほか票を集めていた事で冗談では済まなくなっていたのだから。

 

「み、深雪は!? 深雪は誰に投票したの?」

 

「私は中条先輩よ。当然でしょ?」

 

「そ、そうだよね……」

 

 

 涼しい顔をしている深雪だが、彼女も実は達也に投票している。自分だけは達也の味方だというアピールのつもりだったのだが、自分の他に達也に投票した人間が二百三人も居たのは深雪にも誤算だったのだ。

 

「過ぎた事をとやかく言うつもりは無いが、冗談は時と場所を選んでするんだな」

 

「「ハイ、ゴメンなさい……」」

 

「反省すればそれで良い」

 

 

 ションボリと俯いてしまったほのかと雫の髪を優しく撫でる達也。最近はこの行動もよく見られるので、エリカが流した噂も「告白した」から「付き合ってる」に変化し、「ほのかでは無く雫と付き合ってるのでは?」という噂も流れているのだ。

 その光景を見て、深雪は正直に言えばよかったと一人悔やんでいた。ちょっと前までは自分の特権だった達也に髪を撫でてもらうという行為は、今では雫とほのかもしてもらえている。深雪の知らないところでは千秋も撫でてもらっているのだ。

 

「お兄様、ちょっと寄り道してもよろしいでしょうか?」

 

「別にかまわないが……何か用事でも思い出したのか?」

 

 

 深雪の用事は達也が全て把握してるのでそんな事はありえないと達也も分かってる。分かっていてそう言ったのは、ほのかと雫の事を気にしての事だ。

 

「えぇ少し……お付き合いしてもらってもよろしいでしょうか?」

 

「あぁ。じゃあほのか、雫、また明日」

 

「はい!」

 

「うん」

 

 

 二人と別れキャビネットに乗り込む達也と深雪。完全に外界と遮断されたと同時に、達也は深雪へと視線を固定した。

 

「それで、何かあったのか?」

 

「最近お兄様と二人きりの時間が減ったような気がしまして……それで少し外をぶらつきたいと……駄目ですか?」

 

 

 少し潤んだ瞳で達也を見つめる深雪。もちろんそんな事をしなくても達也は深雪のお願いには大体応えてくれるのだ。

 

「良いよ。だけど急に如何した? この前だって一緒に出かけただろ?」

 

「あれはみんなと一緒にでしたし、途中から会長……いえ、七草先輩たちもご一緒でしたし」

 

「まぁ確かにな。それで、何処に行きたいんだい?」

 

「お兄様とご一緒でしたら、深雪は何処でもかまいません。公園でも何も無い場所でも、お兄様が居てくだされば深雪にとってそこは楽園ですので」

 

 

 とても兄貴に向けて言うようなセリフではないと達也も理解している。だが基本的に深雪に甘い達也は、そんなセリフにも注意するでは無く優しい笑みを向けるのだった。

 

「少し歩いて帰るか。途中で何か面白そうなものがあればそこに寄るってので」

 

「良いですね! それに、お兄様と一緒に歩くのは深雪も好きですし」

 

 

 先に深雪自身が言ったように、達也さえ居れば深雪にとって場所など如何でも良いのだ。ただ達也と二人きりになりたいだけなのだから、一緒に居られれば他の人間の存在は遮断してしまえば良いだけの事。そして深雪にはそれが簡単に出来るのだから。

 

「そういえばお兄様、平河先輩が論文コンペの代表を辞退されたそうですね」

 

「そのようだね。まぁ俺が頼まれてたのは退学を思いとどまらせるまでだ。代表辞退は平河先輩の判断に任せたんだけどね」

 

「そうだったのですか。ところでお兄様の事を睨んでた彼女は……」

 

「今は放っておいても問題ない」

 

「お兄様がそう仰るのであれば」

 

 

 二人きりの帰り道で語られた内容は、決して穏やかなものではなかった。だが内容など如何でも良いと思えるくらい、深雪の表情は幸せいっぱいだったと達也には感じられたのだった。




今度のIFでは深雪も絡ませた方が良いのでしょうか……

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