劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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別次元だけど、ちゃんとやっておこうと思いまして


しつこい相手

 四葉ビルに帰ってきた深雪と水波は、留守電に残っていたメッセージを聞いて頭痛を覚える。相手は一条家当主・一条剛毅。内容は将輝との事をもう少し考えてくれないかという、もう何度目か分からない懇願だった。

 

「如何なさいますか?」

 

「削除しておいてちょうだい。こちらとしては当主を介して返事をしたのですから、これ以上相手にする必要はありません」

 

「かしこまりました」

 

 

 将輝が戦略級魔法を放ってすぐ、深雪は改めて将輝から交際を申し込まれた。もちろん将輝が戦略級魔法師になったからと言って、深雪が将輝に靡くはずはない。それどころか深雪は将輝の戦略級魔法を創ったのは吉祥寺ではなく達也であるという事を知っている。愛する従兄が創った魔法を使って粋がっている将輝など、深雪は興味がないのだ。

 もちろん剛毅にも、深雪が将輝と交際する意思がない事は理解している。少し力を手に入れたからと言って再アプローチした息子に対して呆れているのかもしれない。だが彼としてもこれ以上四葉家に力を集中させるのは悩ましいのか、何度も将輝との交際を考え直してくれないかと連絡を入れてくるのだ。

 

「水波ちゃん、叔母様に電話をしますので着替えてきます」

 

「お手伝い致します」

 

「大丈夫よ。悪いのだけど今夜の食事は水波ちゃんにお願いしてもいいかしら?」

 

「もちろんです」

 

 

 つい数時間前まで一緒にいた相手だが、電話で話す時はそれなりに緊張する。その後で夕食の準備をする気力が残っているか分からないので、深雪は水波に調理を任せる事にしたのだ。

 

『これはこれは深雪様』

 

「葉山さん。叔母様に少しご相談したい事がありまして」

 

『然様ですか。では暫くお待ちくださいませ』

 

 

 真夜に直接電話出来るものは少ない。この番号も直通ではあるが真夜が直接出るわけではなく、筆頭執事の葉山が対応している。深雪もそれは分かっているのでかけてすぐ緊張はしないのだが、葉山が真夜に取り次いでいるこの時間は、何回経験しても慣れなかった。

 

『深雪さん、私に相談したい事があるって話だけど』

 

「はい叔母様……一条将輝殿に関する事なのですが」

 

 

 急に話しかけられても深雪は動じることなく相談内容を真夜へ告げる。告げられた内容に真夜は、心底つまらなそうな表情でため息を吐く。

 

『まだ諦めていなかったの? 自分が特別な存在になったと勘違いしてしまうのは、あの年代の男の子なら仕方がないのかもしれないけども、達也さんが開発した魔法を使って達也さんより偉くなったなんて勘違いしている人なんて、まともに相手しなくても良いんじゃないかしら』

 

「私もそう思っているのですが、将輝殿の御父君である剛毅殿から何度も連絡が入るので、叔母様の方でどうにか出来ないかと思っているのです」

 

『剛毅さんが? 深雪さんが四葉家の関係者だって分かる前からアプローチしてるなら兎も角、深雪さんが私の姪で、達也さんの婚約者に決まってから邪魔をするように開始したアプロ―チなんて効果あるわけないって分からないのかしら』

 

「恐らく分かっているのだとは思います。ですが剛毅殿としても素直に引くのは出来ないのではないかと思います」

 

『彼はそれ程四葉家に敵対心を懐いていなかったと思うのだけど』

 

「一条家の裏で七草家が動いているとは考えられませんか? 叔母様と七草家当主・七草弘一殿との間には、浅からぬ因縁があると達也様からお聞きした事があります」

 

『因縁、ね……』

 

 

 真夜からは特に弘一に思う事はないのだが、弘一は何故か真夜に敵愾心を懐いている。弘一が独立魔装大隊と四葉家の関係を探ろうとして、それが真夜の耳に入り敵対しているように見えるだけで、真夜の方から弘一に喧嘩を売った覚えはない。彼女のスタンスとして、敵対の反対は無関心であり、弘一が何もしてこなければ彼に興味も無いのだ。

 

『分かりました。一条家にはこちらから連絡を入れておきます。もしそれでも連絡して来るようでしたら法的手段も視野に入れておきましょう。再三お断りしているにも拘わらず連絡してくるのは、ストーカー行為と言えるでしょうし』

 

「分かりました、お願いします」

 

『構わないわよ。貴女は私の姪、達也さんの妻となる人なのだから』

 

 

 笑顔でそう言うと、真夜は背後に控えている葉山に視線を向けすぐに画面に視線を戻す。

 

『それじゃあ、一週間くらい経ったらまた連絡してちょうだい。恐らくは何もないとは思いますが、まだ連絡が途絶えないようでしたらこちらで弁護士を用意しますので』

 

「かしこまりました。叔母様、お手数をお掛けします」

 

『だから気にしなくて良いのよ。それじゃあ、また一緒にお出かけ出来ると良いわね』

 

「はい、そうですね」

 

 

 真夜としては心の底からそう思っているようだが、深雪としては出来る事なら真夜と一緒に出掛けるのは遠慮したい事だ。緊張はそれ程しなかったが、精神的な疲労を感じる旅行だったと、深雪は部屋に到着してすぐそう感じたのだ。普段なら達也がいないこの部屋に戻ってきても安心などしないのだが、今日はホッとしたのがその証拠だと、深雪は自分の感情をそう分析していたのだった。




ここまで行くとストーカー規制法に引っ掛かりそう……

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