劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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下手にもてはやされてたからなぁ……


諦めの悪い男

 真夜を介して深雪からの返事を受け取った剛毅は、大きくため息を吐いてから息子を部屋に呼びつけた。部屋で勉強していた将輝は剛毅からの呼び出しの理由は何となく分かっているのか、部屋に入るなり父の正面に腰を下ろした。

 

「四葉家から返事が来た」

 

「それで?」

 

「何時も通り、まともに相手されていないような返事だ。だが今後同じような事をしてくるのなら、何をしてくるか分からないという雰囲気だけは伝わってくるものだ」

 

 

 そう言いながら剛毅は将輝に四葉家からの返事を見せ、いい加減諦めたらどうだといわんばかりの視線を向ける。

 

「俺が誰を好きになろうが関係ないと思うんだが」

 

「それは確かにそうだ。だが向こうは既に法律上問題の無い婚約を発表している。いくらお前が一条家の跡取りで、戦略級魔法師となったからといって返事を変えるとは思わないのだが。いい加減諦めて他の女性を探したらどうなんだ」

 

「司波さんに目を奪われてから、他の女子を見てもなんとも思わなくなったんだ。そう簡単に別の人を探せるわけ無いだろ」

 

 

 元々将輝は異性にそれ程興味があったわけではない。自分の見た目に惹かれて女子が群がってくるなど彼にとって日常茶飯事だったので、その所為で興味を失ってしまったのかもしれない。

 だが深雪を初めて見たとき、将輝は恋に落ちた。所謂一目惚れというやつだが、将輝は本気で深雪に恋心を懐いている。達也の事をはじめはライバルだと思っていたが、恋敵にはならないと分かったらまともに相手にするつもりも無くなっていたのだが、まさか彼が深雪の兄ではなく従兄で、四葉家の次期当主にして深雪の婚約者になるなど将輝も思っていなかったのだ。

 

「ならどうする? お前一人が四葉家と敵対するなら止めはしないが、お前の所為で一条家全体が四葉家から敵と認定されたら、お前はどう責任を取るつもりだ」

 

 

 剛毅は四葉家ならそれくらいの対応をしてきても不思議ではないと思っているし、実際四葉家の従者を攫おうとした九島光宣を手伝ったとして、九島家は数字落ちとなったのを間近で見てきている。一条家が同じような対処をされるとは思っていないが、師族会議内で発言権を失うのではないかとは思っている。

 

「一度司波さんと直接話してみる」

 

「だが司波深雪にとってお前は、しつこいストーカーのような男だと思われているのだろう? 直接会う手段があるとでもいうのか?」

 

「それは……」

 

「将輝、悪いことは言わん。司波深雪の事は諦めるんだな」

 

 

 息子の返事を待たずして、剛毅は部屋を出て行く。残された将輝は、誰かに相談したいと考え、彼が一番頼れる相手のところへ急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦略級魔法を発表した結果、吉祥寺の許へ取材依頼が殺到していた。彼は馬鹿正直に「自分一人で創ったわけではない」と公表したお陰で、四六時中取材依頼の電話が鳴り響くという状況にはなっていないが、それでも基本コードを発見した当時と同じくらいの取材依頼は来ている。

 

「やれやれ、僕が根幹から創り上げたわけでも、トゥマーン・ボンバの原理を暴いたわけでもないって言ってるのにな……」

 

 

 吉祥寺がしたことは、精々将輝に合わせた調整をする事だけ。魔法の基本設計はおろか、トゥマーン・ボンバの原理を利用した魔法を開発しようと考えたのは達也だ。

 

「でもまぁ、あの魔法のお陰で新ソ連の日本侵攻は阻止できたし、将輝も戦略級魔法師として世界中に名が知れ渡った」

 

 

 元々クリムゾン・プリンスの名はそれなりに世界で知られていたが、今回の海爆のお陰でそれなりにではなくかなり有名となったのだ。その所為で将輝に求婚する女性が増えたのも、吉祥寺は知っている。

 

「でも将輝は司波深雪の事しか頭にないだろうけどね」

 

 

 長年将輝と一緒にいるが、彼が同世代の女子に目を奪われるなど無かった。確かに深雪の見た目は人間離れした美を体現しているし、彼女と仲良くなれるのなら吉祥寺もなってみたいと思った事もある。だが彼女は既に達也の婚約者としての地位を確立しており、今更将輝に鞍替えするとは思えない。

 

『吉祥寺、来客だ』

 

「分かりました」

 

 

 内線で来客を告げられ、吉祥寺は部屋を出る。今日は取材の予定は入っていないし、アポなしの取材は断るようにしてあるので、取材ではないことは明らか。そして休日にこんなところを訪ねてくる物好きを、吉祥寺は一人しか知らなかった。

 

「将輝、どうかしたのかい?」

 

「ジョージ、ちょっと相談したいんだが」

 

 

 想像通り親友がエントランスにいたので、吉祥寺は軽い感じで話しかけたが、返ってきたのは深刻そうな声だった。

 

「何か問題でも発生したのかい?」

 

「そうと言えなくもないかな……司波さんの事なんだが」

 

「うん」

 

 

 その前置きで、吉祥寺は将輝が自分に何を相談したいのかに見当がついた。前々からアプローチはしているがその都度袖にされる――どころかストーカーとさえ思われ始めているのだから、彼でなくても悩みの内容に見当は付いただろう。

 

「一度直接話したいんだが、どうしたらいいと思う?」

 

「直接か……確か東京には一色たちがいるんだから、彼女たちに仲介を頼んでみたらどうかな?」

 

「だが、司波さんが会ってくれるだろうか?」

 

「その辺りは将輝の頑張り次第だと思うけど」

 

 

 直接会ってフラれれば諦めもつくとでもいえば、門前払いはされないのではないかと提案すると、将輝は「フラれるの前提は辛いな」と呟きながらも前向きに検討すると言い残したのだった。




分かってるなら諦めれば良いものを……

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