四人で集まってお茶をしていた愛梨だったが、滅多に連絡をしてこない相手から連絡が入り顔を顰める。疎遠という程ではないかもしれないが、友好的とも言えない相手なので当然だろう。
「愛梨、どうかしたのか?」
「一条の奴から電話なんだけど、いったい何の用かしら」
沓子の問いに答えながら通話ボタンを押し、不機嫌なのを隠そうともしない声で対応する。
「いったい何の用かしら、一条将輝」
『いきなりつっけんどんな態度だな、一色』
「私は貴方と会話したくないのだから、こんな態度になっても不思議ではないと思いますけど?」
『随分と嫌われたものだ』
元々将輝と愛梨は同じ『一』を冠する家の子という事で互いにライバル視していた時期がある。だがある日を境に二人の関係は悪化。改善されること無く今に至っている。
「それで、貴方がライバル視している達也様の婚約者の一人である私に、いったいどのような用件で連絡してきたのかしら? 一条家が一色家に十師族の座を譲るとでもいうのかしら?」
『そんな事あるわけ無いだろ。万が一あったとしても、それは俺からお前にではなく、親父から一色家当主に連絡されることだ』
「それもそうね。別に興味はありませんが」
愛梨はそれ程十師族の地位に興味はない。むしろ一色家を出る身としては、実家が十師族になろうがなるまいが関係ない。自分は十師族・四葉家の嫁として過ごすのだという気持ちが大きい。
『お前、司波さんと親しいのか?』
「司波さんって、司波深雪の事よね? 別に特別親しいわけではありませんが、それがどうかしまして?」
『一度直接会って話したいんだが、間を取り持ってもらえないだろうか?』
「何故私が貴方と司波深雪の間を取り持たなければならないのです? 会いたいのならば直接頼めばいいではありませんか」
『それが出来るのなら、お前にこんなことを頼んだりしない』
将輝のセリフを側で聞いていた香蓮が、愛梨にメモで深雪と将輝の現状を伝えると、愛梨は納得したように小さく頷いてから、将輝に対して侮蔑の情を懐いた。
「貴方、ストーカー紛いな事をして四葉家から厳重注意を受けたそうね」
『何でお前がそんな事を知ってるんだ』
「別にいいでしょ、そんな事は。それなのにまだ司波深雪に会いたいなど、図々しいにもほどがあると思いますが、ご自身ではどう思っているのかしら?」
『俺だって司波さんに迷惑をかけているとは思っている。だがどうしても諦めきれないんだ』
「直接会ったからといって、未練が断ち切れるとは思えませんけど。むしろ直接会う事で司波深雪の身に危険が及ぶのではないかと思いますが」
『俺が司波さんに危害を加えるとでもいうのか!』
「だって、今の貴方は桜井水波さんを攫おうとした九島光宣に近しいものを感じさせますもの」
光宣も最初は純粋に水波の事を案じていただけだったのに、いつの間にか自分と同じ存在にして、自分だけのものにしようという歪んだ気持ちへと変化してしまっていた。将輝がパラサイトに寄生されているとは愛梨も思わないが、直接会う事で歪んだ気持ちが生まれないと言い切れる程、彼女は将輝の事を信用していなかった。
『俺は別に、司波さんを監禁したりするつもりは無い』
「貴方にそれだけの覚悟があるのなら、私に仲介を頼むなんてみっともない事をしないでしょうから、その辺りは信用してあげますわ。でも、仲介するかどうかは別の話です。悪いけど、私は貴方に手を貸すつもりも、司波深雪を達也様の側から引き離すつもりもありませんので。ではごきげんよう」
『おい、ま――』
まだ何か言いたげな将輝を無視して、愛梨は通話終了のボタンを押し端末の電源を落とす。愛梨がこっ酷く将輝を突き放したのを見て、沓子が面白そうな笑みを浮かべている。
「今の電話は一条の奴からじゃろ? 随分とこっ酷くフッたようじゃな」
「私に司波深雪との間を取り持って欲しいと頼んできたので、そんなつもりは無いと言ってあげただけよ。そもそも達也様の婚約者として正式に発表されている相手に求婚するなんて、恥知らずも良いところですもの」
「確かにそうかもしれんが、一条の奴も結構前から深雪嬢の事は気に入っていたようじゃからな。諦めきれない部分もあるのじゃろう」
「でも一条は深雪さんが四葉家の縁者だと発表されてから求婚していますので、本当に本気で好きだったのかは疑問かと。本気で好きなら血筋など関係なく求婚すればよかったのではないでしょうか? 相手にされるかは別として、あのタイミングでは一条家が四葉の血を欲したと思われても仕方ないと思いますが」
「確かに香蓮さんの言う通りですわね。一条の奴が本気だったのかどうかはさておき、あのタイミングではそう思われて当然、むしろそう思わない方が不自然ですもの」
「というか、一条のヤツは達也さんに勝てる部分があると思っているのかな?」
栞の一言に、愛梨は大まじめに頷いて見せる。彼女たちの中でも、達也>将輝なので、どうあがいても将輝が深雪を射止められるとは思っていないのだ。
「戦略級魔法師になったから調子に乗っているのかもしれませんが、達也様はそもそも戦略級魔法師であり、一条の戦略級魔法を開発したのも達也様なのですから」
忌々しげな表情でカップに残っていた紅茶を飲み干して、愛梨は将輝がこのまま諦めるとは考え難いと深雪に同情するのだった。
所詮わき役のイケメンがモテるのは、モブ相手のみ……