愛梨に仲介を断られて、将輝はいよいよどうすれば良いのか困ってしまう。元々愛梨が自分の頼みを聞いてくれるなど思っていなかったのだが、実際に断られると意外にダメージを負ってしまったのだ。
「俺はいったいどうすれば……」
「その様子だと、一色には断られたんだね」
「ジョージ……」
タイミングよく現れた吉祥寺に、将輝は驚きはしなかった。彼なら自分がどのような行動を取るか分かっても不思議ではないし、電話の時間を逆算する事も可能だろうと思っていたからである。
「こうなったら四葉家に直接申し込んで、機会を作ってもらうしか方法はないね」
「だが、四葉家が素直に聞き入れてくれると思えないんだが……ただでさえ俺は、四葉家からしてみればストーカーなんだし……」
自分がそのように思われているとは知らなかったのだが、深雪からの断りの返事の中にそのようなフレーズが含まれていたので、将輝は自分の行動を客観的に思い返して反省している。それでも諦められないのは、彼の中に少しだけストーカー気質のようなものが存在しているからかもしれない。
「将輝、僕からしてみても、司波深雪が将輝に靡く可能性はほぼゼロだ。限りなくゼロに近い可能性を追い求めるのなら、徹底的に嫌われたとしても直接申し込んで君の気持ちを相手にぶつけるしかないと思う」
「ジョージ……」
「僕は応援しか出来ないけども、将輝には幸せになってもらいたいんだ。例え他の女性と結ばれる事になったとしても、司波深雪への未練があったら後々のしこりになるかもしれない。ダメなら徹底的に嫌われて断ち切っておいた方がいいし、上手くいくのならそれでいいと思うよ」
「そう…だな……よし!」
覚悟が出来たのか、将輝は先ほどまで落ち込んでいた態度を一変し、やる気に満ちた表情で立ち上がり一条家へと帰っていく。その背中を見送りながら吉祥寺は、恐らくフラれるであろう将輝に未来を想像して辛そうに俯く。
「将輝には幸せになってもらいたいけども、僕が将輝にしてあげられる事は少ない……まして相手は司波達也……何度も将輝の前に立ちはだかる男……」
吉祥寺からすれば、達也より将輝の方が魅力的で、将来性も高い。達也の方はもう殆ど完成された能力だが、将輝はまだこれから化ける可能性を秘めている。将来性を重視するなら間違いなく将輝の方が上だと、彼はそう思っている。
もちろん、男としての魅力も、達也よりも将輝の方が上だと思っているので、深雪が何故将輝に靡かないのか、吉祥寺には理解出来なかった。
「僕が女だったら、間違いなく将輝を選ぶんだけどな……」
こんなことを考えているから、腐女子から陰で将輝×真紅郎とか言われているのだが、彼はその事を知らない。吉祥寺は将輝の告白が上手くいくように祈りながら、研究の為に部屋に戻るのだった。
夜遅く、本家からの連絡が入り深雪は緊張した面持ちでディスプレイの前に立っていた。彼女の背後には水波が控えているので、感情が昂っても魔法だけは発動しないようにと心掛けた。
『先ほど一条将輝殿から、深雪様に直接お目にかかりたいと連絡がありました』
「お断りします。二度と私に拘わらないで頂きたいと御返事したにもかかわらずそのような事を仰るような方に使える時間などございません」
『私もそのように思うのですが、真夜様は会わせてもいいのではないかとお考えのようでして』
「何故ですっ!?」
ショックを隠せない深雪に、葉山は「心中お察しする」と言いたげな表情を浮かべる。もちろん声に出したりはしないが、それだけ葉山も深雪の考えに近い物を持っているのだ。
『私目には皆目見当もつきませぬので、直接お聞きした方がよろしいかと』
「……分かりました。叔母様に代わってください」
『かしこまりました。少々お待ちくださいませ』
恭しく一礼してから、葉山は画面から退く。そしてすぐに真夜が画面に登場し、深雪は真夜が相手だという事を忘れて食って掛かろうとして、すぐに落ち着きを取り戻した。
「叔母様、何故一条将輝さんに会った方が良いとお考えに?」
『理由はいろいろありますが、最後にこっ酷くフッてあげれば、相手もいい加減諦めがつくのではないかと思いまして。文章ではなく、深雪さんが心を込めた本心で伝えてあげれば、頭の悪いお坊ちゃまにも通じると思いまして』
一般的な学力から見ても、将輝はむしろ頭が良い部類だが、真夜が言っているのは一般的な頭の良さではない。それは深雪も理解している。
「ですが、私一人で彼に会うつもりは毛頭ありません。後れを取るつもりはありませんが、万が一暴挙に訴えてきた場合、彼を停めてしまうかもしれませんので」
『その点はご心配なく。亜夜子さんたちを配置しておきますので、万が一暴走しそうになった時は彼女たちが処理をしてくれるでしょうから』
「……そういう事でしたら。ですが、私は一条将輝さんの想いを受け容れるつもりなどありませんので」
『それは私も分かっているわ。深雪さんは達也さんのお嫁さんになるのが夢だったものね』
「叔母様っ!」
最後にからかわれたと深雪は感じたが、お陰で余計な緊張をせずに将輝と対峙出来そうだと、既に暗くなっている画面に一礼してその時に備えるのだった。
そうすればいい加減現実を受け入れるだろう……