劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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雫も経験者だからな……


雫からのアドバイス

 意外な事に面会OKということで、将輝は望んでいた返事だというのに戸惑ってしまう。彼の中では一度申し込んでも断られるだろうから、何度も申し込むつもりでいたので肩透かしを喰らった気分なのだろう。

 

「どういう事だ? 司波さんが態度を軟化したとは考えられないが、受け入れてくれたという事はそれ程嫌われていないという事か?」

 

 

 将輝では裏で真夜が考えているような事を考えられない。彼はそれ程人が悪いわけではないので、真夜や達也のような腹黒い事を平然と考えつけるような思考をしていないのだ。

 

「兎に角東京に行く準備をしなければな。幸い夏休みという事で時間あるし、ゆっくりと話し合える」

 

 

 将輝としてはゆっくりと時間をかけて自分の気持ちを深雪に伝えるつもりなのだが、深雪側が時間を取ってくれる事はないだろう。だがその事を失念している将輝は、ゆっくりと自分の気持ちを深雪に伝えて、最後に婚約を申し込む予定なのだ。

 

「まずは司波さんに対して害意がない事を伝えないとな。その後はゆっくりとお話をして、それから――」

 

「お兄ちゃん、さっきからブツブツと、気持ち悪いよ」

 

「なっ!? 茜! 兄に対して気持ち悪いとはなんだ!」

 

「だってさっきからニヤニヤしてるし、それ以外にもだらしのない表情してるし」

 

「そ、そんな事ないだろ?」

 

「ううん、物凄くみっともない表情をしてた。お兄ちゃんのファンが見たら幻滅するほどの」

 

「……そんなにか?」

 

「うん」

 

 

 妹にバッサリと斬り捨てられ、将輝はその場に膝から崩れ落ちる。彼自身としてはそんなにだらしのない表情をしていたつもりは無いのだが、はっきりと言われるとやはりショックを受けてしまうのだろう。まして実の妹からはっきりと言われれば、他人に言われるよりも衝撃は大きい。

 

「兎に角そんなだらしのない表情をしてる人が私のお兄ちゃんだって思われたくないから、外では絶対にしないでよね」

 

「分かってるっての! というか、そんな顔をした覚えはないからな」

 

「はいはい、それじゃあさっき撮った動画でも見てみる? どうせ開き直ると思って証拠を残しておいたから」

 

 

 そう言って茜が差し出してきた動画を見て、将輝はかなり恥ずかしい気持ちになり、もう少し表情を改める努力をしようと心に決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 将輝が茜に敗北している頃、深雪は誰に相談すれば良いのか分からずに水波に尋ね、雫に連絡を入れていた。

 

『深雪、どうかしたの?』

 

「雫、ちょっと相談してもいいかしら?」

 

『良いよ。でも、深雪が私に相談なんて珍しい』

 

 

 深雪と雫は生徒会と風紀委員で管轄が違い、彼女の中では深雪の相談役はほのかという事になっている。深雪もそう思っていたのか、雫の言葉に笑みを浮かべる。

 

「そうね。でもこの気持ちはほのかじゃ分からないって水波ちゃんが」

 

『気持ち? どんな気持ち?』

 

「好きでもない異性に付きまとわれる気持ち」

 

『あぁ、なるほどね』

 

 

 雫もUSNA留学中にレイモンド・クラークに付きまとわれていた。雫としてはそれ程親しくしていたつもりは無いのだが、何故かレイモンドに好意を持たれ、日本にまで会いに来たのだ。

 

『それで、深雪に付きまとってるのって?』

 

「一条君よ。雫も知ってるでしょ?」

 

『まだ諦めてなかったの? しつこいを通り越して失礼だよ』

 

「文書では私の気持ちが伝わらないからと、叔母様が直接会ってフリなさいと仰って……今度直接会わなきゃいけなくなってしまったの」

 

『それってキャンセルは出来ないの?』

 

 

 雫の問い掛けに、深雪は力なく頷く。いくら次期当主の婚約者という立場とはいえ、現当主の決定に逆らえば何をされるか分からない。もちろんそんな報復など無いので怯える必要は無いのだが、深雪にとって真夜の命令とは絶対的な物であり、拒否すれば何をされるか分からない恐怖の対象なのだ。

 

『だったら直接会ってさっさと深雪の気持ちを伝えてお終いにすれば良いんじゃない? 深雪が向こうに行くわけじゃないんでしょ?』

 

「当たり前よ。向こうから申し込んできてるのに、何で私が石川に行かなきゃいけないのよ」

 

『ゴメン。でも私に怒っても意味はないよ?』

 

「ゴメンなさい……ちょっと冷静さに欠けてるわね」

 

『仕方ないよ。深雪はずっと達也さんと結ばれる事を夢見てたのと同時に、諦めてたんだから。それが叶って漸く幸せになれると思ってたところに邪魔が入ってるんだから』

 

 

 雫の慰めに、深雪は頭を下げる。雫が言っている事が全てだと深雪も思えたから、先ほどの八つ当たりを恥じたのだ。

 

『とにかく私は深雪の気持ちが分かる。好きでもない相手に時間を盗られるのは頭に来るし、苛立っても仕方ない』

 

「ありがとうね、雫。相談して少し気持ちが楽になったわ」

 

『深雪の役に立てたのなら良かった。それじゃあ、当日は頑張ってね』

 

「ええ。二度と近づきたくないと思わせるくらい、酷いフリ方をしてあげるわ」

 

『その話、楽しみにしてるね』

 

 

 雫にしては珍しく冗談で会話を締めたが、深雪は終始笑顔で通信を終えた。それだけ雫との会話は深雪の負担を減らしてくれたのだろう。

 

「ありがとう、水波ちゃん。雫に相談したお陰で覚悟が出来たわ」

 

「私は何もしておりません。深雪様の気を楽にしてくださったのは北山様ですので」

 

「雫に相談すればいいと言ってくれたのは水波ちゃんよ? だから、ありがとう」

 

「恐縮です」

 

 

 深雪に頭を下げられ、水波は居たたまれない気持ちになりそれだけ答えるのがやっとだった。




何だか将輝が可哀想に……いや、気のせいか
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