劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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再び一科視点です


授業初日 一科視点

 暴走しかかった事を恥ずかしく思った深雪だったが、達也に慰めてもらったおかげで一高前に着くまでには立ち直っていた。

 

「それじゃあ深雪、俺はこっちだから」

 

「はい、お兄様」

 

 

 校門で一科と二科に別れてる為に、達也とは此処から別行動になるのだ。

 

「(せっかくお兄様と同じ学校に通ってるのに、校門から何から全て別だなんて……寂しいです)」

 

 

 一科と二科との区別は仕方ないにしても、何も校門まで別にしなくても良いではないかと思いながら階段を上る。

 余談だが深雪が考え込みながら歩いている姿を見て、階段を踏み外す生徒が続出した為に、授業初日から保健室は大繁盛だった。

 

「(1-A、此処ね)」

 

 

 自分のクラスを見つけ教室に入る深雪。その姿を見てガッツポーズする生徒と、露骨にガッカリする生徒の姿が見られた。前者は同じクラスである事を喜び、後者はクラスが別でへこんでいるのだ。

 

「おはようございます」

 

 

 クラスに入り挨拶と礼をする深雪。礼儀作法を叩き込まれているのでこれくらいは当たり前なのだが、周りに与える影響は少なくなかった。

 

「新入生総代の司波さんだ」

 

「やっぱりこのクラスだったんだ」

 

「あの優雅さ、まさに花冠(ブルーム)の名に相応しい」

 

 

 周りが騒がしくなったのにも目もくれず、深雪は自分の席に向かった。

 

「(あそこね)」

 

「ぷぎゃ!」

 

「?」

 

 

 席に向かっていたら、目の前に誰かが倒れこんできた。

 

「おいあれ、大丈夫か……」

 

「A組にあんな阿呆が居るなんて……」

 

 

 周りがざわつきだし、こけた女子も泣きそうな雰囲気になっている……

 

「大丈夫ですか?」

 

「は、はい……ありがとう司波さん」

 

「どういたしまして……えっと?」

 

「光井です。光井ほのかです」

 

「司波深雪です。光井さん、仲良くしてくださいね」

 

「は、はい!」

 

 

 少し興奮気味な彼女に、深雪は苦笑いを浮かべたくなったが、日頃から被っている猫の皮で表面には現さなかった。

 

「すみません司波さん。この子ちょっとおっちょこちょいで」

 

「雫!」

 

「えっと此方は?」

 

「北山雫です。お名前はかねがね……ほのかがファンなんです」

 

「ちょっと!」

 

「えっと、何処かでお会いしましたっけ?」

 

「試験会場で一目ぼれしたとか」

 

「余計な事言わないでよ!」

 

 

 二人のやり取りを見て、とても仲が良いんだなと感じた深雪は、この二人となら仲良くやって行けるかもしれないと思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリエンテーションで指導教官の百舌谷教官の話を聞き、授業見学の為に移動しようと深雪が立ち上がろうとしたら――

 

「司波さんはどちらを回る予定ですか?」

 

 

――男子生徒が話しかけてきた。

 

「私は先生について……」

 

「奇遇ですね! 僕もなんです! やっぱ一科なら補欠と一緒に工作なんて見てられませんよね!」

 

 

 馴れ馴れしく話しかけてくるだけで不快なのに、あろう事かこの男子は二科生を見下している……つまり達也を見下しているのと同義なのだ。

 

「それじゃあ急いで集合場所に行かないといけませんね!」

 

「そ、そうね」

 

 

 ほのかが割り込んでくれたおかげで目の前の男子生徒を氷漬けにせずに済んだ。深雪はその事にホッとしながらほのかについて行った。

 

「あ、あの……」

 

「ドンマイ」

 

 

 背後で慰められる声を聞きながら、深雪は廊下に行ってしまう。二科生を馬鹿にした時点で、彼が深雪と仲良くなる道は閉ざされてるとも知らずに、男子生徒はガックリと肩を落としたのだった。

 

「何だかゴメンなさい、割り込んだみたいで」

 

「良いのよ。如何やって断ろうか困ってたところだったので」

 

「そうだったんですか」

 

 

 結果的に深雪を助けた形になった事を、ほのかはもの凄く喜んだ。出遅れたと思ってたのがこうして一緒に行動出来てるのだから嬉しさも一入なのだ。

 

「あら光井さん、その汚れ……」

 

「あ、これは……」

 

 

 さっき派手に転んだ所為で制服が汚れている。ほのかは愛想笑いで誤魔化そうとしたが、深雪の行動の方が早かった。

 

「司波さん、これって……」

 

「内緒にしておいてくださいね」

 

 

 CAD無しで魔法を行使し、綺麗さっぱりと汚れを落としてしまった深雪を見て、ほのかは関心と憧れの眼差しを深雪に向けた。一方雫は、驚きと疑念の篭った眼差しを深雪に向けていた。

 

「北山さん?」

 

「何?」

 

「いえ、そんなに見られると恥ずかしいわ」

 

「そう? 司波さんなら見られるのに慣れてると思ってた」

 

 

 感情の読めない声でそう言われ、深雪は愛想笑いで会話を終わらせた。どうも相手し辛いのだ。

 自分に憧れているほのかと、自分を疑っているような気がする雫と共に、深雪は演習場に到着した。演習を見学している時に、百舌谷教官から質問があり、それに答えようとさっきの男子生徒が手を上げた。

 

「じゃあ森崎君、説明してください」

 

 

 如何やらあの男子生徒は森崎と言うらしい。だがそれ以上の興味は、深雪の中に涌いてこなかった。それどころか彼の説明は百舌谷教官が満足するまでには行かなかった。

 

「司波さんは如何ですか?」

 

 

 森崎では力不足だと言わんばかりに、百舌谷は深雪に質問する。

 

「放出系統魔法は素粒子及び複合粒子の運動と相互作用に干渉する魔法です」

 

 

 深雪の答えに満足そうに頷く百舌谷教官。始めから深雪なら分かると思って指名したのだろう。

 

「それではこれより昼の休憩に入ります。午後の見学は13時20分からです」

 

 

 そう言って百舌谷は居なくなり、深雪の周りには彼女と一緒に昼食を摂ろうとするクラスメイトの人垣が出来上がった。

 ほのかや雫もその人垣に巻き込まれ、迷惑そうに抜け出そうと身体を捻っているが、男子も女子もそんな二人の事など気にせずに深雪に群がっている。

 

「い、痛い……」

 

「ちょっと退いてください……」

 

 

 雫とほのかの苦痛の声が聞こえたのか、深雪は自分が移動する事で二人を助ける事にした。その行動が周りの男女たちからは、昼を共に過ごしてくれる事を承諾してもらったと勝手に思い込まれてたのだが、深雪にはそのつもりは無かったのだった。




ほのか、雫、森崎が初登場。達也との絡ませ方を考えなければ……

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