劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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こっ酷くフラれてもらいましょう


問題解決の副産物

 約束の時間になり、深雪は待ち合わせ場所に現れた。亜夜子や文弥は遅れてくるかもしれないと思っていたが、深雪はそこまで失礼な事はしなかった。

 

「お待たせしました」

 

「いえ、俺もさっき来たところです」

 

 

 本当は一時間以上前から待っているのだが、将輝は平然と嘘を吐く。見栄を張る必要など無いのだが、そこはカッコつけたいのだろう。

 

「そうですか。それでお返事ですが、何度も申し上げているように、私は貴方と婚約するつもりも、ましてや付き合うつもりも毛頭ございません。わざわざご足労戴いて恐縮ですが、これにて失礼させていただきます」

 

「ま、待ってください!」

 

 

 取り付く島もない態度で淡々と告げる深雪に、将輝は大慌てで静止の声を掛ける。ここまでけんもほろろに突き放されるとは思っていなかったのか、将輝は先ほどまでの落ち着いた態度を装うのを止めている。

 

「何でしょうか? 文書では私の気持ちが伝わらないので、仕方なくお会いしただけです。私としては貴方と顔を合わせるのも嫌だったのですが、これ以上付き纏われるのも嫌なので今日の機会を設けただけで、貴方と出かけるつもりも、一緒にいるのも嫌なのです。一刻も早くこの場を離れたいのですが、いったいどのような用件で私を引き止めたのですか? 場合によっては法的処置も辞さないつもりですので、それを踏まえたうえで用件を仰ってくれませんか?」

 

「あっ、いえ……ゴメンなさい」

 

 

 深雪の剣幕に気圧された将輝は、頭を下げ謝罪するしかなかった。ここで下手な事をして訴えられれば、一条家の評判は地に堕ちるだろう。客観的に見れば、自分は深雪に付きまとっているストーカーで、決定的な言葉を述べられて逆上して襲った、などと言われればたとえそれが嘘だとしても名に傷がつく。そんな事になれば父親に殺されると将輝は思い、言いたかった言葉も忘れて謝ったのだ。

 

「ではこれで失礼します。もう二度と私に近づかないようお願いします」

 

 

 やってきて一分足らずで去って行く深雪の後ろ姿を、将輝はただただ見送った。こうして自分の初恋は幕を閉じたのだと、将輝は打ちひしがれながらも理解せざるを得なかった。

 

「帰ろう……もうここにいても意味はないんだ……」

 

 

 東京にやってきた時は、淡い期待を胸に秘めていたのに、今はその期待など跡形もなく砕け散った。将輝は重い足取りで石川に戻る為駅へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深雪が将輝をこっ酷くフッたことは、亜夜子と文弥を通して達也にも伝わっている。彼は最初から将輝に対して何の興味も懐いていなかったのだが、深雪が迷惑しているのなら消すのもやむなしと思っていた。なのである意味穏便に終わった今回の件に、ホッとした気持ちを懐いた。

 

「達也くん、何かいい事でもあったの?」

 

「いえ、そういうわけでありません。それより、響子さんにまで手伝わせてしまって申し訳ありません」

 

「いいのよ。私だって魔法師が兵器としての宿命から解き放たれるのなら協力したいもの。それに、達也くんの婚約者の一人として、早くから手伝えるのはありがたいわ」

 

 

 巳焼島の研究は、ある程度目途は経っているのだが、それでも細かな課題は残っている。今回達也が巳焼島を訪れているのも、そういった細々とした問題を解決する為。そしてその問題解決には響子の力を借りるの一番早いと判断した達也は、今回響子を連れてきたのだ。

 

「それにしても、リーナさんがここで生活してたなんて信じられないくらい、何も無い島ね」

 

「一応新たな娯楽施設を建設してるそうですが、研究者にはあまり関係のないものです。それに遊びに来てるわけじゃないのですから、研究設備さえ整っていれば問題ありません」

 

「相変わらずクールよね、達也くんって。そこが良いんだけど」

 

 

 冗談めかした響子の言葉に、達也は皮肉気に笑みを浮かべる。このやり取りも何度目か分からないので、達也も響子もそれ以上何も言わずに作業を進める。

 

「ここはこっちで処理しちゃって構わないのかしら?」

 

「えぇ、お願いします」

 

 

 いくら響子の方が作業に向いているとはいえ、彼女は独断で作業を進めたりはしない。その都度達也に確認して進めているので、後々問題が発生しても響子だけの所為にはならないだろう。もちろん、問題が発生する確率など、破壊工作が行われない限りゼロに等しいのだが。

 

「そういえば、この手伝いの報酬って出るのかしら? 軍を抜けるから職を失っちゃうわけだし、貰えるものは貰っておきたいのだけど」

 

「俺のポケットマネーから出せるくらいなら」

 

「達也くんのポケットマネーって、並みの社会人の年収なんて軽く超えるんじゃない?」

 

「さぁ、どうでしょうね」

 

「怖いから聞かないわ……別にお金じゃなくて、達也くんがデートしてくれればそれでも構わないわよ?」

 

「考えておきましょう」

 

「その返事、考えるつもりないでしょ」

 

「さぁ、どうでしょう」

 

 

 軽くはぐらかして達也は作業を再開する。深雪が抱えていた問題が解決したお陰で、達也はこちらの問題に集中出来るようになり、作業は各段に捗ったのは彼以外誰も知らない。




次回から本編復帰します

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