劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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前回190話目でした。200が見えてきましたね。


代理への説得

 魔法幾何学準備室にやって来た達也を迎えたのは、教師の廿楽と鈴音だけでは無く五十里も一緒だった。

 

「やぁ司波達也君。待ってたよ」

 

「それで、自分に用とは何でしょうか」

 

「君なら分かってるんじゃないかな?」

 

 

 何もかも見透かしたように話す廿楽の態度に、達也は鉄壁のポーカーフェイスで対抗する。何も言わないという事は、別に何もかも知られてると同義ではないのだ。

 

「まぁ説明しましょう。三年の平河小春くんは知っていますね?」

 

「存じています」

 

「では彼女が論文コンペティションの代表に選出されていた事も知ってますね?」

 

「はい」

 

 

 あくまでも廿楽から言わせる為に、達也は必要以上に口を利かなかった。その態度は廿楽には面白いと感じられたのだが。

 

「彼女がその代表を辞退したいと申し出てきてね。我々は彼女に考え直すよう説得したのですが、一人の少年の言葉が彼女の背中を押したようでね。結局は代表辞退を認めざるをえなくなってしまったのです」

 

「………」

 

 

 小春の背中を押した『一人の少年』というのが誰かなど、達也が分からないはずもない。なぜならその本人なのだから。

 

「もちろん此方としても辞退されたら困るという事は伝えました。そこで彼女は自分が代表を辞退するにあたって代理の目星をつけていたのですよ。まぁ後は市原くんから説明を聞いてください」

 

 

 それだけ言うと廿楽教諭は魔法幾何学準備室から出て行ってしまった。生徒の都合を考えないという噂はあながち誇張でも無いのだなと、達也はその背中を眺めながら思っていた。

 

「今の廿楽先生の話しで大体の事は分かったと思いますが、平河さんが代役にと勧めてきたのは司波君、貴方です。そして私もその提案を受け、他の代役は却下させてもらう事にしましたので、そのつもりで聞いてください」

 

「却下って……」

 

 

 達也が何かを言いかけて止めたのが、鈴音と五十里には気がかりだったが、聞き出そうにも達也相手に口でも敵う訳無いと諦め説明を進める事にした。

 

「論文コンペティションについては、どの程度知っていますか?」

 

「残念ですが殆ど知りません。自分には関係の無い事でしたし」

 

「そうですか……ではそこから説明していきます」

 

 

 鈴音の説明を聞きながら、達也はこの展開になった事を少し悔いていた。あの時自分が小春を説得しておけば、このような面倒な事になる展開にはならなかっただろうと……説得の手間を嫌った所為で余計に面倒な事になったと……

 

「以上が概要ですが、何か質問はありますか?」

 

「では一つだけ。先ほど市原先輩は学内で論文を提出し代表三名を選出するとおっしゃりましたが、自分はその論文自体を提出してません。他の方がそのような選出……代理とはいえ納得なさるのでしょうか? 例えば、市原先輩、五十里先輩、平河先輩の次点だった方とかは絶対に納得はしないと思うのですが」

 

「関本君は駄目です。私とは合わないでしょう」

 

「関本というのは、以前風紀委員に在籍していた関本勲先輩の事でしょう?」

 

「ええ、彼は私の発表した論文とは真逆の論文でしたので。それに、いきなりこの内容をやれと言われて出来る生徒はほぼ居ないでしょう」

 

「では、市原先輩のテーマが俺に合っていると?」

 

 

 口調を改めたのは意識的にだ。断るのを前提にしていたのとは別に、達也は鈴音の論文テーマが気になったのだ。

 

「私の論文のテーマは『重力制御式熱核融合炉の技術的可能性』です」

 

 

 鈴音の答えに、達也は目を見開いた。

 

「そうです。司波君の研究テーマと同じなのです」

 

「なるほど……あの時俺たちを監視していたのは市原先輩だったのですね」

 

 

 壬生紗耶香と四月に話していた時摩利を使って自分たちを監視していた犯人がまさか鈴音だったとは達也も思って無かったのだった。

 

「監視とは人聞きの悪い。せめて興味を持っていたという事にしておいてください」

 

「ですが、あの時の俺の言葉がハッタリだとは思わなかったのですか?」

 

「それくらいの人を見る目はあるつもりですし、半年間貴方の仕事っぷりは見させてもらいました。平河さんの推薦が無くとも、私は君を代役に指名するつもりだったのですから」

 

 

 鈴音の暴露に、五十里が少し苦笑いを浮かべていた。如何やら五十里はその話しは知らなかったようなのだ。

 

「一応司波君には補佐という形を取ってもらいますが、論文の完成稿などを提出しなくてはいけませんので、そっちの手伝いもお願いします。提出先は魔法協会関東支部ですが、学園を通しての提出となりますので、水曜日までには廿楽先生に提出しなくてはいけません」

 

「先ほど市原先輩は学園の推薦を受けた論文と仰いましたが、推薦を受けなかったグループがプレゼンに進出した例は無いのですか?」

 

「司波君、僕たち普通の高校生が三十分のプレゼンに耐えられる論文を書くのは、モノリス・コードやミラージ・バットに出場するより難しいんだよ」

 

「五十里君の言う通りで、私たちだって生徒会や部活連の協力が無ければとても三人では準備を終わらせる事など出来ません」

 

「そうですか……」

 

 

 普段から企画書やらなんやらを書きなれている達也には、二人の話しが一般的なのかと首を傾げたかった。でもまぁ、それが普通なんだろうと無理矢理納得し、それ以上は何も言わなかったのだが。

 

「廿楽先生は若いけど優秀な方だからね。きっと司波君のためになると思うよ」

 

「そうですね。若干生徒の都合を気にしない節はみられますが、彼のような先生の授業を受けられるのは非常に幸運だと言えるでしょう」

 

「そうですか」

 

 

 五十里も鈴音も忘れてるようだが、この学園の半分の生徒は教師付きの授業を受けられないのであって、達也もまたその半分のうちの一人なのだ。だが五十里も鈴音もその事を忘れてるようだし、達也も別に忘れてる事を無理に思い出させる事も無いだろうと思い短く返事をしただけだった。

 

「ところで市原先輩」

 

「何でしょう?」

 

「何故俺を呼び出すのに深雪を使ったんですか? 場所は分かってる様子でしたし、市原先輩が直接呼びに来ても良かったのではないでしょうか?」

 

「私が行っても司波君は相手にしてくれなかったでしょうし、それなら生徒会室で手持ち無沙汰気味だった司波さんの気分転換も兼ねて呼びに行ってもらおうと思ったまでです」

 

「なるほど……では何故生徒会室の様子が、魔法幾何学準備室に居た市原先輩に分かったのでしょうか? もしかして監視でもしてるのですか? 四月のあの時のように」

 

「まさか……」

 

 

 達也の言葉の刃に、鈴音は少したじろぎながら答える。もちろん監視はしてないのだが、状況的に見てもそう思われては仕方ないと鈴音自身も少なからず思っていたのだから。

 

「今回はそれで納得しておきますが、次からはご自身で呼びに来てください。次なんか無いとは思いますがね」

 

「そうですね」

 

 

 達也の射抜くような視線は、さすがの鈴音でも堪えたようで、達也が魔法幾何学準備室から去っていって暫くは鈴音は動けずに固まっていたと、もう一人その場に居た五十里が証言していたのだった。




鈴音や小春とイチャイチャさせるチャンスが増えますね。でもやり過ぎるとブリザードが……

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