劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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若干名巻き込まれるもよう……


将輝たちの会見

 午前十時十五分。マスコミは早くも将輝の居場所を突き止め、小松基地に群がっていた。

 

「何で僕まで……」

 

「そう言うなよ! 俺とお前の仲じゃないか。ジョージは記者会見に慣れているだろう?」

 

 

 記者会見の会場の舞台袖で愚痴をこぼした吉祥寺を、将輝が懇願する口調で宥めている。あまりにも大勢のマスコミが押し寄せた所為で、小松基地職員から懇願されて会見を開く形となったのだが、吉祥寺は完全に巻き込まれた気分になっている。

 

「記者は将輝の取材に来たんだ。僕はお呼びじゃないと思うけど」

 

「そんなは事ないぞ。『海爆』はジョージが創ってくれた魔法だ。開発者の話も聞きたいに決まっている」

 

「……はぁ……」

 

 

 将輝に肩を叩かれ、吉祥寺がため息を漏らす。ここで将輝に真実を話しても解放される事は無いだろうし、将輝に話したところで大した意味はない。将輝専用に調整したのは確かに吉祥寺であり、あれだけの戦果を残せたのには吉祥寺の力も多分に含まれているのだ。

 吉祥寺がどうにかして逃げられないかと考えていたところに、基地の女性職員から「お時間です」と声を掛けられ、将輝は吉祥寺を促して一段高くなった演壇の中央に置かれたマイクの前に進んだ。その後に表情を消した吉祥寺が続く。

 三高の制服を着た二人が揃って一礼し、一斉にフラッシュが焚かれた。――今のカメラの感度なら発光装置は必要無いはずなのに、まるで「お約束だ」と言わんばかりに記者会見ではエレクトロニックフラッシュが使用される。

 その強すぎる光に、将輝が微かに眉を顰める。一方、吉祥寺は平然とした顔だ。「記者会見に慣れている」という将輝の言い分は、確かに間違っていない。将輝と吉祥寺が用意された椅子に腰を下ろすと、すぐに記者会見が始まった。

 

『この度はお手柄でしたね。一条さんの軍功に国民は大いに勇気づけられています』

 

『皆さんのお役に立てて、光栄だと思います』

 

 

 記者の質問を聞いていた吉祥寺は、その記者の顔を見た事があった。魔法関係のマスコミなので見知った相手がいたとしても不思議ではないが、吉祥寺の記憶が正しければ、彼は反魔法主義寄りの報道をしていたメディアの人間のはずだった。だが今の質問は明らかに、魔法によって助けられたという事を認めている。

 

「(方針転換でもあったのか? それとも、さすがにこのタイミングで魔法排斥運動を煽っても意味が無いと思い、当たり障りのない報道をするつもりなのだろうか)」

 

 

 吉祥寺が無表情のままそんな事を考えているなど、誰も気にしない。隣にいる将輝も、気付いた様子はない。

 

『新ソ連艦隊迎撃には、ご自分で志願されたんですか?』

 

『はい。国防軍には父を通じて、義勇兵に志願しました』

 

『それは新戦略級魔法で敵艦隊を撃破する自信があったからですか?』

 

『はい。隣にいる吉祥寺が創ってくれた『海爆』があったからこそです』

 

 

 ここで早くも、記者の関心が吉祥寺に向かう。吉祥寺は少し恨みがましい目で将輝を睨んだが、将輝の方は親友が褒められるのが嬉しいのか、何時も以上に輝かしい目をしていた。

 

『吉祥寺さん。貴方が新戦略級魔法『海爆』を開発されたというのは本当ですか?』

 

『はい』

 

『吉祥寺さんは第三高校に在学される傍ら、金沢魔法理学研究所にもお務めですが、新戦略級魔法の開発は研究所の方針ですか?』

 

『いえ、金沢魔法理学研究所では、軍事用の研究は行っておりません』

 

 

 これはある程度魔法界に詳しい人間なら知っている事だが、吉祥寺は丁寧に質問に答える。少しでも態度の悪い返答をすれば、すぐに『調子に乗っている』と報道される。そんな事になれば研究所にいる他の研究員にも迷惑が掛かってしまうので、吉祥寺は必要最低限の返答だけで、次の質問を促す事にした。

 

『「海爆」の開発は、吉祥寺さんが自主的に行われたのですか?』

 

『はい』

 

『それは、新ソ連の侵攻を予期しての事ですか?』

 

 

 この質問に、吉祥寺は、少し迷う素振りを見せた。新ソ連の侵攻を予期して『海爆』を創ったということ自体に誤りはない。だがそれを自分が答えて良い物かどうか、吉祥寺はそれを迷ったのだ。

 

『仰る通り「海爆」の開発は、新ソ連海軍の侵攻に備えたものです』

 

『お一人で新しい戦略級魔法を開発されるとは、さすがは我が国が誇る英才「カーディナル・ジョージ」ですね』

 

 

 事情通の記者が放ったこのセリフに、今度はハッキリ、吉祥寺は迷う表情を浮かべた。記者の間では今の質問に同意するような声が漏れ、隣に座っている将輝も『当然だ』と言わんばかりに胸を張っている。

 

「……ジョージ?」

 

 

 何時までも答えない吉祥寺の事を、将輝が心配そうに顔を覗き込んできた。その将輝の反応が吉祥寺を決心させた――のかは分からないが、短い沈黙を破り、本人にとっては誠実な、言われた方にとっては傍迷惑なセリフを口にした。

 

『いえ、「海爆」は僕一人の力で開発したものではありません。この魔法の基礎部分は、第一高校の司波達也君から提供を受けました』

 

 

 吉祥寺の答えを受けて、マスコミの間にざわめきが起こる。

 

「司波達也? あの『トーラス・シルバー』の片割れの?」

 

「すぐに本社へ連絡。司波達也のインタビューも話題になるぞ」

 

 

 まだ会見は終わっていないが、既にマスコミたちの興味は達也へと向けられている。将輝は信じられないという表情で吉祥寺を見ているが、吉祥寺は胸に閊えていた物が取れたような表情を浮かべていた。




最後の最後に余計な事を……

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