劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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素直に喜べない人たち


新居での反応

 吉祥寺の告白を聞いていたのは、何も達也やベゾブラゾフたちだけではない。新居ではエリカやほのかたちが、共有スペースにある大画面テレビでその模様を観ていた。

 

「やっぱり達也君が関係してたんだ」

 

「エリカ、やっぱりって?」

 

 

 吉祥寺の告白を聞いてほのかは驚きを覚えたが、エリカは妙に納得した様子。その様子を見ていた雫がエリカに問いかけると、エリカは視線をモニターから雫に移して説明し始める。

 

「そりゃ吉祥寺君だって高校生にしてはかなりの技術者だとは思うわよ? でも一から戦略級魔法を創れるかと聞かれれば、それは無理だって思うじゃない」

 

「まぁ、そうだね。吉祥寺君が言っているように、金沢魔法理学研究所では軍事用の魔法は研究してないわけだし」

 

「彼が研究しているのは『基本コード』に関することでしょ? 今回の魔法はそれとはかけ離れ過ぎているんだし、吉祥寺君が一から考えて創り上げたとは思えない」

 

「だから、達也さんが関係しているかもと思ってたってこと?」

 

「そ。達也君としては自分に向けられている視線の一部を一条君たちに押し付けたかったのかもしれないけど、吉祥寺君はそれを善としなかったのか、それともただの正直者なのかは分からないけど達也君の名前を出しちゃったってところじゃないの? 達也君に聞けばすぐに分かる事だろうけども、吉祥寺君の発表にどう対応するかで忙しくなっちゃってるだろうから、暫く連絡取れないだろうけども」

 

「それじゃあ、達也くんはまた忙しくなっちゃうのかしらね」

 

「七草先輩……」

 

 

 エリカたちの会話を少し離れたところで聞いていた真由美が口を挿んできたので、エリカはあからさまな態度を見せる。もちろん、その程度で真由美が大人しくなるわけ無いのだが……

 

「七草家の力を使って、マスコミに圧力を掛けましょうか?」

 

「そんなことしなくても、達也君ならすぐに片づけると思いますけどね、そんな事より、先輩の家が下手に動いてまた四葉家と七草家の関係を悪化させると、いろいろと大変なんじゃないですか?」

 

「……エリカちゃんに心配してもらわなくても大丈夫です」

 

 

 今回の水波誘拐事件において、七草家は何の役にも立っていない。光宣がパラサイドールを率いて病院にやってきた時、七草家の魔法師は成す術なく無力化されているのだ。その所為で四葉家の魔法師から七草家の魔法師は厄介者扱いされている事は、エリカでなくても知っていた。

 

「そんな事より、エリカちゃんは『海爆』の開発に達也くんが一枚噛んでいたという事に気付いてたみたいだけど、聞いていたのかしら?」

 

「聞いてるわけ無いじゃないですか。と言うか、あたしより先輩の方が達也君と会う機会があったんですから、先輩が聞いてないのにあたしが聞いてるわけ無いじゃないですか。それとも、あたしが抜け駆けしてるとでも思ってるんですか?」

 

「そんな事は思ってないわよ。そんな事より、エリカちゃんはさっきの考えで達也くんが新魔法開発に関わっているって思ってたわけよね」

 

「えぇ。マスコミの注目を石川に逸らせれば、それだけ達也君が自由に動ける時間が増えるわけですから」

 

「それは確かにあるでしょうけども、達也くんが関わっているなんて少し調べればわかる事よ? 日本のマスコミは兎も角、達也くんを目の敵にしてる連中は、達也くんの技術力も警戒している。吉祥寺君が発表してなくても近い内に達也くんが関わっていると発表されていたかもしれない。達也くんがその程度の事を考えてないとは思えないのだけど?」

 

 

 真由美の指摘に、エリカは少し考える素振りを見せる。もちろんエリカもその程度の事は分かっているし、彼がトーラス・シルバーだと発表された事により、今や世界の評価は吉祥寺真紅郎<司波達也になっている。そのことを考慮すれば、吉祥寺が本当に一人で新戦略級魔法を創り上げたのかと調べる機関が表れても不思議ではない。そして、達也がそれを見逃すはずがない事も。

 

「一時でも『日本のマスコミ』の視線を逸らす事が出来れば、それだけで別の事に集中出来ると思ったんじゃないですかね。誰かさんの所為で、達也君はしなくてもいい苦労をしてるわけですし」

 

 

 エリカが言った『誰かさん』とは、達也の正体をバラしたレイモンド・クラークや遠距離から達也の事を亡き者にしようとしたベゾブラゾフ、水波を攫い国内にパラサイトがいる事を知らしめた光宣を指しているのだが、真由美は七草家が指摘されていると勘違いして、気まずそうに視線を逸らした。

 

「達也君が何を考えているのか、それをあたしたちが全て知ろうだなんて無理ですよ。恐らく深雪だって、達也君が何を考えているのか全てを理解しているわけではないでしょう。今一番近くにいる深雪が理解出来てない事を、あたしたちが理解出来るなんて思うのは傲慢です。でもはっきりと言えることは、吉祥寺君の告白は、達也君にとってマイナスでしかないという事でしょうね」

 

 

 エリカが纏めにはいったので、真由美はそれ以上何も言えなくなる。隣で聞いてた雫とほのかも、達也の迷惑になるかもしれないという考えに納得し、未だ画面に映っている吉祥寺に鋭い視線を向けるのだった。




さすが千葉の剣士、見る目がある

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