劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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報告しなきゃ後で面倒になるからな……


真夜への報告

 リーナが深雪に勉強を教えてもらっていた頃、達也は四葉本家へ連絡を取っていた。内容は、国防軍からの要請――という名の圧力があった事を報告する事と、百山校長からリーナの権利を保障してもらった事だ。

 

『やはり国防軍として、リーナさんを公衆の面前に曝すなんてことはされたくないみたいね』

 

「普通に考えればそうでしょう。ですが、彼女は『アンジー・シリウス少佐』ではなく『九島リーナ』です。彼女が公衆の面前に現れたとしても、問題はありません」

 

『そうね。でも彼女の事情を全て知っている人間としたら、そんな理屈は通用しないと言いたいのじゃないかしら』

 

 

 真夜の言葉に、達也は特に反応を示さなかった。彼女がそういう事は想定内であり、普通に考えれば国防軍の要求は正しい。だが、それを素直に受け入れる必要は感じていないのだ。

 

『国防軍の方々や、政府の方々はひやひやするかもしれないけど、リーナさんが一高に通えれば、深雪さんの身の安全が確保出来るから、達也さんとしては突っぱねた、というところかしら?』

 

「USNA政府から正式に要請があったのなら兎も角、あくまでも国防軍独自の判断ですからね。従う理由はありません。たとえ彼女が『アンジー・シリウス少佐』だとしても、USNA政府がそれを認めるとは思えませんしね。ましてUSNA軍の現状を考えれば、そんな事を発表するメリットはありません」

 

『パラサイトに汚染されているUSNA軍など、達也さんは恐れるに足らない、という事かしら?』

 

「直接ちょっかいを出してこない限り、興味もありません。所詮海の向こうの出来事ですから」

 

 

 いくら同盟国とはいえ、達也はUSNAという国に興味はない。先程自分で言っていたように、直接害のある事をしてこない限り、何をしようが興味はないのだ。

 

『未だに達也さんをディオーネー計画に参加させろと言う声があるようだけど、ESCAPES計画の有益性も認められているから、あまり大っぴらに活動してないみたい』

 

「いくら何を言われようと、俺がそれに従う理由はありません。むしろ参加するか分からない段階で、俺がいなければ成立しないような計画を立てた側を責めるべきです」

 

『それもそうね。いくら人類のためという名目があったとしても、本人が納得しない限りその計画に参加する事は無いのだから。クラーク博士には達也さんを必ず参加させるための秘策があったのかもしれないけど、息子のレイモンド・クラークが余計な事をして達也さんが『シルバー』だと発表し、達也さんはそれを逆手にとってディオーネー計画への参加を拒否したからね』

 

 

 いくらトーラス・シルバー=達也だとUSNA側が騒ごうと、トーラス・シルバーはあくまでも達也と牛山のコンビ名。そして既に解散したのだから参加しようがない。マスコミに対する記者会見でも達也が言った事だが、USNA側が参加要求していたのは『トーラス・シルバー』であり『司波達也』ではないのだ。

 

『百山先生はもう少し否定的かと思っていたけども、九島閣下の弟さんと関係があったとはね』

 

「そちらで調べがついていたのでは?」

 

『さすがにそこまで調べないわよ。でも、問題はリーナさんの学力よね……その辺は問題ないのかしら?』

 

「先ほどまで深雪がつきっきりで勉強を教えていたので、問題は無いと思われます。元々の頭もそこまで悪くないようですし、編入試験を合格するくらいは造作もないかと」

 

 

 自分の知らないところで凄いプレッシャーを掛けられているリーナだが、その事は本人には知りようがない。

 

『なら安心ね。一応リーナさん以外の護衛も一高周辺に用意はしてあるけど、基本的には達也さんとリーナさんの二人で深雪さんを守る形だから、その辺をしっかりと伝えておいてください』

 

「了解しました」

 

『それと、水波さんの方はどうかしら?』

 

「残念ながら……まだ大した成果は上げられていません」

 

『そう……』

 

 

 真夜にとって水波は所詮調整体の一体でしかないが、深雪が水波の事を気に入っていて、達也も水波の事を大事にしているのを知っているので、真夜も何割か本気で水波の事を心配しているのだ。

 

『水波さんの事を直接関係しているかどうかは分からないけども、先ほど国防陸軍遊撃歩兵小隊に匿名でメールがあったとの情報が入りました。内容は、大亜連合の工作部隊が密入国するとの事。また、その工作部隊を率いているのが呂剛虎であるという事でした』

 

「恐らくは光宣が周公瑾の端末を使って呂剛虎を動かしたのでしょう。周公瑾の死は公にはされていませんので、大亜連合の工作部隊がその事を知らずに周公瑾を頼ったとしても不思議ではありません。そして光宣がその連中を目くらましに使って青木ヶ原樹海から脱出しようと考えるのも頷けます」

 

『そこまで分かっているのでしたら、達也さんは呂剛虎に煩わされる事は無さそうね。一応数人を小松基地付近に潜ませていますけど、抜刀隊には千葉修次さんがいるから大丈夫かしらね』

 

「そうですね。最悪でも刺し違えてでも止めるでしょう」

 

 

 エリカが聞いていたら激怒しそうなことだが、達也は平然とそう言い放つ。真夜も同じ考えなのか、達也の言葉にニッコリと笑みを浮かべるのだった。




エリカが聞いてたら絶対に激怒するな……

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