劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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一応初対面だしな……


泉美とリーナ

 リーナと一緒に登校した深雪はそのまま教室には行かず、生徒会室に向かった。リーナも一緒にだ。深雪がIDカードでドアを開けて中に入ると、始業前にも拘わらず泉美が入口に向かって立っていた。デスクの上では端末が開いているから、作業中にドアシステムが読み取ったIDカードの情報で深雪が入ってくると分かり、立ち上がって出迎えようとしたのだろう。泉美の背後では、ほのかと雫もドアの方へ視線を向けている――生徒会役員であるほのかがここにいるのは兎も角として、風紀委員の雫が生徒会室にいるのは、些か疑問ではあるが。

 

「おはようございます、深雪先……輩?」

 

 

 張り切って挨拶をしたのは良いが、入室したのは別人の顔を持つ少女だった為、泉美はその顔をジッと見つめて固まる。

 

「おはよう、泉美ちゃん」

 

 

 明るい栗色の髪の少女が、深雪とは違う声、同じ口調で挨拶を返す。そして、ドアが閉まるや否やワインカラーのシュシュを抜き取り、ポニーテールに纏めていた髪を解いた。

 変化はすぐに訪れた。淡い栗色の髪が烏の濡れ羽色に。淡い茶色の瞳が漆黒に。顔立ちが瞬きする間に変化し、泉美の愛する「深雪お姉様」が出現する。

 

「深雪先輩、先ほどのお姿は……」

 

「煩わしい人たちがいるから」

 

 

 目を真ん丸にして尋ねた泉美は、深雪の短い回答に「ああ、なるほど」という納得の表情を浮かべた。

 

「泉美ちゃんなら言わなくても分かってくれる思うけど」

 

「はい、無闇に他言はしません」

 

「ありがとう」

 

 

 期待通りの対応を見せた後輩を、深雪が笑顔で労う。魂がお留守になった泉美の視線を、深雪は片手の動きでリーナへと誘導した。

 

「こちらは九島閣下の弟さんのお孫さんの九島リーナさん。私たちが一年生の時の留学生で、前にこの学校に在籍していた時はアンジェリーナ・クドウ・シールズという名前だったのだけど、達也様と婚約した際に帰化したの。明日から三年生に再編入する予定よ。リーナ、この子は七草泉美さん。二年生よ。私は泉美ちゃんと呼んでいるわ」

 

 

 深雪の紹介を受けて、泉美がハッと意識を取り戻す。

 

「七草泉美です。九島先輩、よろしくお願いします」

 

「九島リーナよ。こちらこそよろしくね。それから私の事はリーナで良いわよ。まだ『九島』と呼ばれ慣れていないし、一年以内に『司波』になる予定だから」

 

 

 高校を卒業するのと同時に達也と籍を入れるつもりなので、リーナは『九島』と呼ばれるのを嫌った。ここで『四葉』になると言わないのは、卒業してすぐに達也が真夜の跡を継ぐわけではないからである。

 リーナが上級生らしく余裕を見せようとしているのを、深雪は微笑まし気に眺めていた。だがここで笑うとリーナが気を悪くするに違いないので顔には出さなかった。

 

「そういえばリーナ。貴女巳焼島にいるんじゃなかったの?」

 

「いろいろあったのよ……それでこっちに帰ってきたのは良いんだけど、今度は深雪の護衛として四葉ビルで生活する事になったの。だからそっちの家に帰れるのは、もう少し後になるわね」

 

「いろいろ? 達也さんの研究が邪魔されそうになったって情報が入ったけど、それと関係あるの?」

 

 

 雫の問いかけに、リーナはどう答えるべきか深雪に視線で尋ねる。リーナからしてみれば何故雫が襲撃の事を知っているのか不思議だったのだが、出資者の一人である『北方潮』の娘である雫がその事を知っていたとしても、深雪は何ら不思議ではなかった。

 

「その事は後で詳しく話すわね。では、リーナ。教頭先生のところに行きましょうか。泉美ちゃん、またね」

 

「はい! 深雪先輩、リーナ先輩、失礼いたします」

 

 

 お辞儀をする泉美に見送られて、何時もの姿を取り戻した深雪はリーナを連れて職員室に向かった。

 

「ねぇ泉美ちゃん、煩わしい人たちって、通学路に集まっていたマスコミだよね?」

 

「恐らくは。司波先輩のインタビューを狙っている人たちでしょう。共同開発者の婚約者の一人であり、司波先輩の従妹でもある深雪先輩のインタビューも、それなりに話題になると踏んでいるのではないかと」

 

「私たちも気を付けた方が良いのかな?」

 

「光井先輩や北山先輩も、司波先輩の婚約者の一人ではありますが、今回は狙われないと思います。同じ婚約者でも、血縁である深雪先輩の方が情報を持っていると思っているでしょうし」

 

「確かに。でも達也さんは研究の情報を深雪にだって話してない事が多いって、前に深雪から聞いたけど」

 

「事情を知っていれば、深雪先輩を狙うなんて思わないでしょう。ですが、マスコミの皆さまは、その事を知らないわけですから」

 

 

 書類上は達也と一緒に暮らしている深雪が、何かしらの情報を持っているのではないかという考えから深雪を狙っているのだろうと、泉美はほのかと雫に説明をする。

 

「達也さん、住所動かしてなかったんだ」

 

「皆さんに迷惑をかけると思っているのかもしれませんね。ですが、少なからずそちらにもマスコミの方々が押しかける可能性はありますが」

 

「うん、それらしい人が何人かいたって、藤林さんが言ってた」

 

 

 あの家のセキュリティはかなりのものであり、さらに周辺の街路カメラは響子がハッキングして怪しい人物は徹底的に監視されるようになっている。その事が分かっているから、達也は新居の方へ人を割くことをしなかったのだ。




真由美と香澄は会わせたけど、泉美はよく覚えてないので初対面ということで……

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