劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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合格できて当然だとは思うが


リーナとの再会

 編入試験が始まる前は不安を駄々洩れにしていたリーナだが、午前の記述試験が終了した後はスッキリした顔になっていた。

 

「どうだった? って聞くまでもないみたいね」

 

「私の実力を以てすれば、当然の結果ね」

 

 

 そっくり返り過ぎて転びそうな勢いだが、試験勉強中にリーナが「落ちたらどうしよう」と自覚のないまま何度もつぶやいていたのを横で聞いていた深雪の目には、ただ微笑ましだけだった。

 

「まだ実技試験が残っているけど、それこそリーナの実力ならそっちは心配いらないわね」

 

「……知識の方は不安だったように聞こえるんだけど」

 

 

 半眼に開いた目の据わった眼差し、所謂「ジト目」をリーナが深雪に向ける。彼女のその反応に、同じテーブルを囲む一同から笑い声が上がった。今は昼休みで、ここは一高の学食だ。リーナは制服を着ているので――深雪の予備を借りている――咎められる事は無いが、さすがに目立っていた。

 ただでさえ深雪、ほのか、エリカと、下級生からの人気も高い女子が揃っており、さらに美月や雫といった面々がいるので目立たたない方がおかしいのだが、リーナが加わった事でその度合いはさらに上昇している。

 

「リーナなら当然一科生ね。どのクラスになるのかな」

 

「うちのクラスだと思うよ。人数が一番少ないから」

 

 

 エリカの何気ない疑問に、ほのかが深く考えると笑えない答えを返した。一番人数が少ない、それは即ち最も多く退学者が出たという事だ。二年生へ進級する際、魔工科新設に伴う人数調整が行われているから、三年A組はこの一年で退学した生徒が他のクラスよりも多いという事を意味している。

 深雪、ほのか、雫と学年トップスリーを独占しているA組で最多のドロップアウトが発生しているというのは、皮肉と言うべきか、それともバランスが取れていると言うべきか。おそらく百山校長にも分からないだろう。

 

「でもリーナさんが東京に戻ってきているなんて知らなかったです。何時、戻られたんですか?」

 

 

 美月の質問に、リーナが軽く引きつった顔で言葉を詰まらせる。達也から説明はされていないが、美月以外のメンバーは何となく察しているので誰も聞かなかったことを、美月は尋ねたのだ。

 

「柴田さん、それはちょっと……」

 

「美月ぃ。あんたもリーナの事情は知っているでしょう?」

 

 

 困惑顔の幹比古とあきれ顔のエリカが美月を窘めたのは、リーナが『アンジー・シリウス』である事を知っているからだ。本来であれば日本にいるだけで問題になる彼女が一高に通う事になるなど、少し考えれば普通の事情ではない事は分かる。

 その事を知っているのは彼女ばかりではなく、このテーブルを囲っているメンバーは、当時一緒にいなかった雫も含めて、去年の冬のパラサイト事件の全容とリーナが果たしていた役割を知っている。

 

「あっ……ごめんなさい!」

 

 

 自分の何気ない質問が実は非常にセンシティブな問題に絡んでいると気付かされ、美月は慌てて頭を下げる。

 

「気にしないで。……でもそこはもう、聞かないでくれると助かるわ」

 

「もちろんです!」

 

 

 勢いよく頷いた美月に、リーナ、幹比古、エリカは三者三様の表情でため息を吐いた。

 

「リーナに東京に戻ってきてもらって、一高に編入してもらうのは、私の都合だけど」

 

 

 深雪の一言は空気を変えようと意図した物でも引っ掻き回そうと企んだものでもない。会話の流れに関わりなく、予定していた発言だった。

 

「どういう事?」

 

 

 深雪の注文に応じたのは雫だ。他のメンバーは深雪の発言の意図が分からず首を傾げたり、聞くまでもなく何となく察しているような表情を浮かべている。

 

「五月蠅く付き纏う人たちがいるから」

 

「あぁ、マスコミ」

 

「吉祥寺君の共同開発者発言で、取材熱が最燃したみたいだね」

 

 

 幹比古、ほのかのセリフに、深雪が「えぇ」と頷く。エリカは「あぁ、やっぱり」と言いたげな表情で頷き、レオはエリカの表情を見て少しつまらなそうに視線を逸らす。

 

「でも戦略級魔法の共同開発者になるなんて、やっぱり達也さんは凄い人ですね」

 

 

 またしてもズレた発言をする美月に、今度は全員で「ジト目」を向ける。何故そんな目を向けられているのか分からない美月は、困ったように全員の顔を見てから、唯一助けてくれそうな幹比古に視線を固定する。美月に見つめられて少し照れたのか、幹比古の視線が左右に揺れ、エリカに脇腹をつつかれてから説明を開始する。

 

「柴田さんも達也が発表したプランは知っているよね?」

 

「はい。恒星炉プラントを使ったエネルギー開発事業ですよね?」

 

「うん。その恒星炉に使われている術式は、加重系三大難問の一つだってことも聞いてるよね」

 

「あっ……」

 

 

 幹比古が説明している途中で、美月は何かに納得したように小さく頷いて、そして話の流れを切ってしまった事を全員に謝罪する。

 

「ゴメンなさい、私全然そういう事考えてなくて」

 

「……たぶん誤解してると思うけど、美月が納得したのならそれで構わないわ」

 

「?」

 

 

 深雪が何を思って「誤解している」と言ったのかが分からない美月は再び首を傾げて幹比古を見詰めたが、今度は幹比古からの答えは返ってこなかった。




美月は何処かズレてるんだよなぁ……

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