劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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変装でいいのか?


編入の理由

 美月の勘違いを訂正することなく、メンバーは話の本筋へと戻っていく。その口火を切ったのはレオだった。

 

「達也が捕まらないから、深雪さんのところにまで押しかけているのか。力づくで追い返すわけにもいかないだろうし、そりゃ始末に困るよな。国防上の機密にも関わる事なんだから、政府の方で規制してくれてもいいだろうに」

 

「えぇ、本当に」

 

 

 レオの言葉に返す深雪の同意は、ため息交じりだった。レオの発言でさっき自分が何を勘違いしたのか分からなかった美月も、漸く理解したような顔を見せた。

 

「ですが、それとリーナさんの編入と、どう関係があるのですか?」

 

 

 一つの謎が解けたと思ったらまた新たな謎が襲ってきたので、美月はハッキリとその事を深雪に尋ねた。だがこの疑問は美月だけではなく、レオや幹比古も「分からない」という顔をしているので、美月がしなくてもこの質問は深雪にぶつけられただろう。

 

「リーナは偽装魔法が上手なのよ。姿形を全くの別人に変えられるの」

 

 

 美月の質問に答えたのは、深雪ではなくほのかだった。彼女も幻惑魔法で他人の姿に変わる事が出来るので、リーナの魔法にはある程度の理解が及んでいるのだ。

 

「私は実際に見た事ないけど、ほのかより凄いの?」

 

「私よりずっと上だよ」

 

「それは凄い。今度見せてもらいたい」

 

「あれ、変えられるのは自分だけじゃなかったんだ」

 

 

 リーナの魔法の話で盛り上がっている雫とほのかの会話をしり目に、エリカはリーナに向けて問いかける。エリカもリーナの変身技術は知っていたが、自分自身しか出来ないと思っていたのだ。

 

「どちらかと言うと、他人に掛ける方が楽かな。もちろん、その人が抵抗しなければだけど」

 

「へぇ……」

 

「自分に掛ける時は鏡だけじゃチェックできないから」

 

「なるほど。鏡一枚じゃ、背中は見えないもんね」

 

「そういうこと」

 

 

 リーナはエリカが一番話しやすいのか、さっきからエリカの方に視線を向けている。とても銃と刀で殺し合いを演じた間柄とは思えない。尤もそれをいうなら、リーナと深雪は決闘で高等魔法『ムスペルスヘイム』と『ニブルヘイム』、までぶつけ合った関係なのだが。『ニブルヘイム』は低体温で無力化するという使い方も出来るが、『ムスペルスヘイム』の方は並みの相手ならば普通は即死、運が良くても瀕死の重傷だ。そんな魔法をぶつけ合った間柄の二人が普通に会話しているのだから、武器を使っての殺し合いなど、リーナにとっては可愛い物なのかもしれない。

 

「じゃあ、暫くは外で一緒に行動しない方が良いね」

 

 

 ほのかが深雪に尋ねる。深雪は少し申し訳なさそうな表情で頷いた。

 

「えぇ……マスコミの興味が薄れるまで、当分はリーナと二人で下校するわ」

 

「あたしたちも近づかないようにするよ。何時もの面子が周りにいると、バレるかもしれないからね」

 

「ありがとう、エリカ」

 

 

 エリカが見せた気遣いに、感謝の眼差しを向ける深雪。エリカはそれに、粋なウインクで応じた。

 

「でも実際問題、深雪だけが気を付けていればいいわけじゃないのよね」

 

「あぁ、朝のあの人たち? でもあの人たちはエリカが連絡を入れて警察の人が連れて行ってくれたじゃない」

 

「何かあったの?」

 

 

 エリカとほのかの会話に、深雪が質問を挿む。その隣ではリーナも事情を聞きたそうな顔でエリカを見詰めていた。

 

「大したことじゃないんだけど、新居の方にもマスコミらしい人たちが来てたのよね。一応四葉家の持ち物であるという事は発表してあるから、関係者がいるんじゃないかって思ったんでしょうね」

 

「でも、中を覗くようにしていたから、不審者として警察に突き出してもらった」

 

「いくらマスコミが『表現の自由』を謳ったとしても、あれは十分に不審者認定される行動よ。人の家を許可なく覗いてたんだから」

 

「そもそも許可があるなら覗かないで中に入れると思うのだけど? あの家は許可書があれば入れるんだから」

 

 

 その許可書を発行できるのは達也だけだが、今はあの家で生活していないので許可書は出ない。代理で発行する事は出来るが、その技術を持ち合わせているのは響子くらい。彼女が達也の考えを理解していないわけもないので、マスコミに許可を出すはずもないのだが。

 

「そもそも吉祥寺のヤツも余計な事をしたよな。せっかく達也が自分に向けられている目を逸らそうとしたってのによ」

 

「アンタにも理解出来てたのね。でも吉祥寺君はそれが面白くなかったんじゃない? 自分一人で開発した魔法で脚光を浴びるなら兎も角、達也君に根幹を創ってもらって、最後に一条君個人に合わせて調整しただけの魔法で認められるのは『カーディナル・ジョージ』として納得出来なかったとか」

 

「達也様も似たような考えを仰っていたわ。でも、達也様の事情を考えれば、大人しく一人の手柄にしておいて欲しかったのだけども」

 

「仮にも達也さんにライバル心を燃やしていた人だから、素直に認められなかったんだと思う」

 

「恐らくそうでしょうね。そもそも『カーディナル・ジョージ』と『トーラス・シルバー』じゃ、実績が違い過ぎると思うけどね」

 

 

 エリカの容赦のない一言に、幹比古は顔を引きつらせたが、美月以外のメンバーは当然だと言わんばかりに頷いたのだった。




実績一つのカーディナルと比べるなよ……

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