劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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流れはおかしく無いはず……


代表の警備

 達也がワークステーションでデータ処理をしていると、ホームサーバーがアタックを受けているのに気がついた。いろいろと知られるとマズイ事が保存されている為に、偶然見つけたくらいの素人ハッカーでは対応出来ないはずなのだ。という事は確実に自分を狙ってのハッキングだという事が分かる。時期的に考えて狙いは聖遺物の解析経過なのだろうが、達也も簡単にやられる訳がなく、カウンターで撃退を試みるが複数からの同時アタックでしつこく粘られた為に嫌気が差してきたのだった。

 

「このアドレスはもう駄目だな」

 

 

 達也は定期的にアドレスを変えているのだが、それは機密性の高いデータが保存してあるのとこういった面倒事を避けるためなのだ。達也は完全に撃退したのと同時にアドレスを変更し追撃を完全に遮断したのだった。

 翌日達也は遥に相談する為にカウンセリング室を訪れた。

 

「……それで? 言っておくけど私にはネットワークチェイスなんて出来ないわよ」

 

 

 生徒が相談しにきているのにも関わらず、遥の態度はカウンセラーとは思えないものだった。まぁ達也も気にしてないので別にかまわないのかも知れないが。

 

「分かってますよ。小野先生の得意分野は。そこまでお手間を取らせるつもりはありません」

 

「じゃあ何よ……」

 

「此処最近魔法関係の秘密情報売買に手を出している組織について、知ってる範囲で教えてもらいたいのですが」

 

「あのね司波君……私にも守秘義務ってものがあるのだけど?」

 

「存じています」

 

 

 遥の事情を知った上で聞いている達也にしてみれば、そのような反撃で大人しくなる訳がないのだ。遥も自分で言っておいて効き目が無いのが分かっていたように、一つ大きなため息を吐いたのだった。

 

「先月末から今月にかけて、横浜・横須賀に密入国事件が相次いで起こってるわ。県警と湾岸警察が合同で捜査してるんだけど目立った成果はないわね。それと時期を同じくしてマクシミリアンやローゼンに部品を納入しているメーカーが相次いで盗難に遭ってるわ」

 

「無関係ではないという事ですか?」

 

「その連中とは決まった訳では無いけどね」

 

 

 これ以上は何も話せないという意思表示で、遥は達也から視線を逸らしてデスクへと身体ごと向けてしまった。達也は一礼をしてカウンセリング室から出て行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 論文コンペへ向けての準備を五十里と一緒にして、達也はさっきの話しを五十里にも聞かせるのだった。

 

「それで、被害はなかったのかい?」

 

「まぁ一応は。ところで五十里先輩の方は大丈夫でしたか?」

 

「? ……まさかクラッカーの狙いは」

 

「クラッカーのコマンドを見る限り文書データを狙っていました。時期的に考えて論文コンペに関係してるかと」

 

 

 どちらかと言えば聖遺物の方が時期的に当てはまるのだが、達也はそれをまったく顔に出さずに作業を続ける。

 

「今のところ僕は大丈夫だけど……念のため市原先輩にも伝えておこう」

 

「そうですね。念には念をと言うやつですね」

 

 

 妙に色っぽい五十里の困った顔にも、達也はまったく動じなかった。同性の友人が少ないのが悩みだといっていた五十里だが、原因は本人にありそうだと達也は考えていたのだった。

 

「けーい!」

 

 

 暫く作業していると背後から甘ったるい声が聞こえてきた。言うまでもなく五十里の許婚である花音だ。

 

「久しぶりだね、達也君」

 

「そうですね。それで、如何かしたのですか?」

 

 

 自分が座っていた席を花音に譲り、摩利の分の席を引く達也。

 

「すまないね」

 

「いえ」

 

「えへへ、けーい」

 

「ちょっと花音、二人が見てるって」

 

 

 横で繰り広げられている許婚同士のイチャイチャには目もくれずに、達也は視線で摩利に説明を求めた。だが摩利は達也ほどシャットアウトが出来てないようで若干恥ずかしそうにしている。

 

「えっとだな、論文コンペに向けて警備の相談に来たのだよ」

 

「警備ですか? もしかして風紀委員が担当するのですか」

 

「その通りだよ。まぁ警備と言っても会場の警備はプロがやってくれるから、あたしたちがするのは普段の警備と窃盗などに対する抑止力の意味合いが強いがね」

 

「窃盗……データハッキングして情報を盗み出すとかですか?」

 

「いや、そこまで本格的なものではなく……置き引きなどだな」

 

 

 摩利の説明に頷いて理解を示した達也。確かに摩利がハッキングに対処出来るとも思えないのだと改めて思いなおした。

 

「今失礼な事を考えなかったか?」

 

「いえ、それで警備の担当は?」

 

「啓はあたしが守ってあげる!」

 

 

 ついさっきまでいちゃついていたのにも関わらず、花音は再び五十里へと抱きつく。

 

「一応二人一組で守る事になっているのだが……花音、自分が邪魔者になっても蹴飛ばすなよな」

 

「なんですかそれ! あたしはそこまで子供じゃないですよ!」

 

「そうか。それで市原なんだが、アイツの警備は服部と桐原が担当する事になっている」

 

「会頭自らが警備を?」

 

「市原にいろいろと頭が上がらないんだアイツは」

 

 

 何か事情があるようだと、達也は此処にいない服部に同情した。鈴音に弱みを握られるのはそういう事になるのだと頭の片隅に置いておく事にした。

 

「それで問題は君に付ける警備なんだが……」

 

「必要ありませんよ」

 

「まぁそうだろうな。対抗魔法『術式解体』を使える君にとって、ハンパな警備は邪魔にしかならないだろうし。服部たちにはあたしが伝えておこう」

 

「分かりました。ところで何故渡辺先輩が? 普通なら千代田委員長が担当するのではないでしょうか?」

 

「いや別に……特に意味がある訳では無いぞ。ところで達也君、花音の働き振りは如何だ?」

 

 

 明らかに照れ隠しではあったのだが、達也はあえて気付かないフリをして摩利の質問に答える事にした。

 

「一緒に巡回するのはやめてますので、そっちは分かりませんが……真面目にやってくれてますよ。整理整頓もしっかりしてくれてますし。まぁ豪快すぎて偶に大事な書類なども捨ててしまいそうになってますが」

 

 

 達也の嫌味に摩利と花音が同時に居心地の悪さを覚えた。そして五十里は達也の嫌味には気付かずに花音に視線を向けた。

 

「司波君の言う通りだよ。花音はもう少し確認してから物を捨てないと。この前だって司波君に迷惑掛けたばっかりだろ」

 

「だって苦手なんだもん。そういうのは適材適所、得意な人がやるべきでしょ?」

 

「花音は委員長なんだから。そんなんじゃ示しがつかないだろ」

 

「ゴメンなさい……」

 

 

 五十里に怒られて、花音はションボリと肩を落とした。一方の摩利も、自分が整理整頓が苦手であるのを自覚しているので、五十里の言葉を聞いて花音と一緒に肩を落としたのだった。




やっぱり摩利はツンデレなんだろうか……

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