劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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昨日上げたのに結構お気に入り登録されてるのに驚きです。


呼び出し

 兄に買ってもらった髪飾りを入れた袋を見つめ、全く前を見ていないで歩いているのにも関わらず、深雪は誰ともぶつかる事無く歩を進めている。深雪が達也から貰った髪飾りの入った袋に見とれているように、周りの人間はそんな深雪の姿に見とれていた為に誰ともぶつかる事は無かったのだ。

 当然誰かがぶつかりそうになっても、達也がそんな事を許すわけ無いのだから、元から深雪は周りを気にする必要無く贈り物に見とれていても良かったのだ。

 

「お兄様、素敵なプレゼントをありがとうございます」

 

「気に入ってもらえたのなら何よりだ。だけど遠慮は要らないぞ、これは約束した以外のおまけのようなものだから」

 

 

 達也の発言は謙遜や照れでは無く本心からの言葉なのだが、深雪はこの発言に大いに照れた。その姿を見た周りの人間に思考停止を誘発させる事間違い無しの表情をしてるのに、達也は特にその事は気にしたりしない。

 深雪は達也の事を想っているのだが、達也は深雪の事を妹としか思っていない……いや、思えていないのだ。

 

「おまけだなんて……それでも深雪は嬉しいです!」

 

「ちょっと目に入って深雪に似合いそうだったからな」

 

「目に入った……ですか?」

 

 

 達也がこの髪飾りを見つけたのは偶然なのだが、普通なら気にする事無く通り過ぎた可能性の方が高かっただろう。だから深雪は兄がこの髪飾りを気にした理由が気になった。

 

「良く考えられたデザインだと思ってな。恐らくこれを設計した人間は魔工師なんだろうな。飾りの部分が魔除けになっているんだ。恐らくアルバイトか何かで作ったものなんだろうなと思ってな」

 

「そうなのですか? ですが魔法的な力は感じませんけど……」

 

 

 達也の発言を受けて、深雪は改めて髪飾りの入った袋を眺める。魔法を感じる力なら達也より深雪の方が上なので、達也が感じ取れるのなら深雪にも感じ取れるのだが、深雪にはそう言った類の力は感じられないのだ。

 

「そんな危険な物をお前に送らないよ」

 

「そうなんですか///」

 

 

 達也に他意は無く、純粋に危険な物を送るはずも無いと言う意味で言ったのだが、深雪はその解釈を大幅に自分に都合の良い方向に捻じ曲げて受け取った為照れた。達也にしてみれば何故深雪が照れたのか理解に苦しむのだろうが、生憎そんな些細な事を気にするような神経の持ち主では無かったのだ。

 

「それに、知っての通りそんな簡単に魔法は使えるものでは無い」

 

「そう…ですね……」

 

 

 達也の発言の裏に込められた気持ちを、誰よりも理解している深雪にはそう答えるしか出来なかった……魔法は誰もが簡単に使えるものでは無いのを、彼女の兄が知ってるように、彼女もまたその事を知っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も色々と見て回った2人は、そろそろ昼食時期なので達也が予約した店に向かう事にした。

 色々の中に水着や下着の試着もあったのだが、その事は瑣末事なので特に書き記す事はしない。

 

「いらっしゃいま……せ」

 

 

 店に入るなり店員が元気良く声をかけてくるのは当然なのだろうが、途中で力が抜けていくのも、深雪を見たら仕方の無い事なのだろう。

 深雪本人もその事には慣れているので、特に気にした様子は無いのだが、何時までも固まっている店員に対して少し苛立ち始めている。その事を鋭敏に感じ取った達也が、店員に話しかけた。

 

「予約していた司波ですが」

 

「あ、はい! お待ちしておりました」

 

 

 達也に話しかけられたおかげで(?)、店員は意識を取り戻しお客を逃す事は無かった。深雪は達也に自分の態度が子供っぽいと思われて無いか気にしているが、達也がそんな事を思う訳無いのだ。

 2人が案内されたのは窓際の席、店員が椅子を引こうとしたのを達也が制し、深雪の背後に回って椅子を引く。その事を始めから分かっていたかのように(分かっていたのだろうが)、深雪は振り向き軽く会釈をしてから席に着いた。その後達也が向かい側に座り、店員に注文をした。

 その一連の動作に周りのカップルはフリーズした。男は深雪の可憐さに、女は達也の自然な動作に心奪われ、その後に自分の連れを見て盛大にため息を吐いたのだった。

 そんな中2人は自分たちに向けられた視線など特に気にする事も無く食事を勧めている。窓際の席で外から深雪が見えれば、本人たちにその気が無くとも客寄せになってしまうのだ。先ほどから訪れる客が多いのはその為なのだが、知らずは本人のみで他の全員はその理由が分かっていた。

 だからなのか食後のデザートに頼んでも無い恋人パフェが運ばれてきた時、達也も深雪も困惑した。

 

「あの、頼んで無いのですが……」

 

「当店特製の恋人パフェでございます。お2人があまりにもお似合いなので是非お召し上がりいただきたいと思いまして。もちろん此方の御代は結構ですので」

 

「俺たちは恋人では無くきょうだ……」

 

「良いじゃないですかお兄様。せっかくですので頂きましょう」

 

「……お前がそう言うなら」

 

 

 深雪は別にパフェが食べたかった訳では無い。達也と恋人同士に見られたのが嬉しく、またこのパフェの食べ方に魅了されたのだ。

 自分で食べるには少し長いスプーンは、互いに互いが食べさせ合うように作られているのだ。つまり深雪は達也に食べさせてあげられるし、自分も達也に食べさせてもらえるのだ。

 

「深雪、口元に付いてるぞ」

 

「え!? 何処ですか!?」

 

「ふふ、冗談だよ」

 

「もう、お兄様ったら!」

 

 

 このように甘々な雰囲気を見せ付けられたら、自分たちもやってみたいと思うカップルが居て当然だろう。店側の戦略勝ちで、恋人パフェはこの店始まって以来の売り上げが出たのだが、もちろんそんな事は達也と深雪は知らないのだ。

 思わぬハプニングはあったが、そのハプニングすら喜んだ深雪に満足して達也は会計を済ませた。店側は達也と深雪を使って利益を得たので当初の言い分通り恋人パフェの料金を取るつもりは無かったのだが、達也は店側の思惑も見通していたのだ。客寄せとは言え食べた物には料金を支払うべきと考えている達也は、メニューに書かれている金額を上乗せして食事代を支払った。

 

「もしもし?」

 

 

 店から出て暫く歩いたところで、達也の携帯が鳴った。電話で話している達也を見て、深雪はその電話が自分たちにとって嬉しく無いものである事を感じ取ったのだ。

 

「分かりました、すぐ向かいます」

 

「お兄様?」

 

「悪い深雪、叔母上からの呼び出しだ」

 

「叔母様からですか!?」

 

 

 深雪にとって、叔母はある意味で達也に会わせたく無い人物なのだが、叔母の呼び出しとはつまり本家からの呼び出しなので簡単に断れる用事では無いのだ。

 

「関東支部だからすぐに行けるが、何故今日……」

 

「私の事は気にせずに、お兄様は行ってください」

 

「すまないな……すぐに戻る」

 

「お気をつけて、深雪はお兄様のお帰りをお待ちしています」

 

 

 まるで新婚の夫の帰りを待ってるかのような雰囲気を醸し出す妹に、達也は苦笑いをしながらもその頭を優しく撫でた。なるべく早く戻れるようにしようと思った達也も世間一般の兄とは少しズレているのだろう。

 この後、自分たちがどんな事件に巻き込まれるのかも知らずに、達也は呼び出された場所に急ぎ、深雪は離れていく兄をもの寂しげに眺めていた……




次回漸く真夜を出せそうですが、キャラ崩壊が激しいので予め覚悟だけはしておいてください。

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